2009/08/21

【2009世界陸上】「性別疑惑」という究極問題

世界陸上ベルリン大会の女子800メートル走で優勝した、南アフリカの選手に「性別疑惑」が持ち上がった。

 

オリンピックや世界選手権といった国際的な大会ではドーピングが後を絶たないが、過去には女子選手の性別検査の結果、金メダルを剥奪された選手の例や、半陰陽(遺伝子や身体的特徴から性別を断定できない)や両性具有が発覚した例などもあった。

 

今回話題になっている選手については、確かにあの顔といい筋骨隆々とした外見といい、どう見ても「男じゃないのか?」と疑いたくもなるが、今のところ「怪しい」というだけで詐称の証拠はないから、本当のところは分からない。

 

こうした話を聞くと、思い出すのはかつて短距離で活躍したF・ジョイナーだ。アメリカ代表の黒人選手ジョイナーは、筋肉が異常に隆起して血管が浮き上がっており、およそ女性らしくなくて殆ど男性化した体躯であった。

 

彼女の疑惑には、以下のようなものが挙げられていた(Wikipedia参照)

 

1988年まではトップクラスではなかったのに、1988年に急激に成績が向上した。

1988年以降に、急激に体つきが変化した。

・ この当時は、ドーピング検出システムの精度が低かった(当時の東ドイツの選手は、ドーピングをしていても検出されなかったことが、後に判明している)

 

女性らしさを強調した奇抜とも言えるファッション(長い爪に派手なマニキュア、長髪など)も、ドーピングによる男性化から目を逸らさせるためではないか、と言われている。 

 

TVインタビューの際には女性らしい声をしているが、誌面インタビュー経験のある複数の人が

 

「地声はとても低く、普通の女性の声とは思えなかった」

 

と証言している。またアップで映し出された顔からは、うっすらと伸びた髭が確認できた。

 

こうした女子選手の男性化は、ドーピングをした場合にしばしば指摘される点である。まだ第一線でバリバリと活躍していた29歳という年齢で「突然の引退」をしたのも、年々厳しくなるドーピング検査から逃げるためという説があり、それを裏付ける根拠として、引退の翌年からドーピング検査が強化されることが予告されていた。

 

実は当時、ワタクシも知人に

 

「ドーピングはシロだったが、実は男だった・・・」

 

というジョークを飛ばしていたものだった。

 

 <記録というものはいつかは破られるものだが、ジョイナーの持つ世界記録はいずれも記録達成から20年が経ち、競技レベルやトラックの質が格段に向上した現在においても、肉薄する記録すら存在しない(以下の通り100m200mともに2位のマリオン・ジョーンズより、0.20.3秒も速い)驚異的な記録の数々なのである>

 

100m ジョイナー(1049)、ジョーンズ(1065

200m ジョイナー(2134)、ジョーンズ(2169

 

しかもM・ジョーンズは禁止薬物の使用が発覚し、オリンピックで獲得した5つのメダルを総て返還した上で刑務所に服役したという、なにがあっても驚かないような世界だ。そしてジョイナーの38歳という早過ぎる死も、ドーピングの副作用である可能性が大いに考えられるのである。

 

これは極端な例ではあるが、アフリカなどの黒人選手の場合は、元々骨格や筋肉の発達が他人種とは著しく違うし、日常的に自然を駆け回っているような環境的要因も大きく、一概に外見のみで決め付けるわけにはいかないが、このような騒動が持ち上がったからには、やはり疑わしさはあるのだろう。

 

いずれにしても、これは実に厄介な問題だ。これまで再三に渡って指摘してきたように、そもそも顔や年齢の識別は言うに及ばず、見た目だけでは国籍や性別の判断も難しい黒人選手ではあるが、今回に関してはそのような冗談を言っている場合ではなくなった。事は個人の名誉というレベルを遥かに超越し、人間の尊厳にも関わるような重大な問題なのだ。

 

これが意図的な詐称であるとすれば、他の選手だけに止まらず全世界を冒瀆するような犯罪的行為だが、逆に濡れ衣であったとすれば、これほど当人を冒瀆する行為はないのである。さらに厄介なのは、アフリカのような地で医学的な発達の遅れもあることだろうだから、もしかすると本人や家族を含めた関係者ですら「現実」を把握できていないことすら、ありうるのではないか。

 

<オリンピックなどの大会では、性別検査は60年代から90年代まで女子全選手に対して行われていた。当初は全裸の視認調査から始まり、それが皮膚組織を採取しての染色体検査に変わっていった。現在は義務化されていないが、IOCや国際陸連は他の選手や関係者から指摘を受けた際に、個別検査を受けさせる権利を残している。

 

また、2006年のアジア大会女子800メートル走でインドの選手が性別検査で失格とされ、銀メダルが剥奪された事があったが、同選手は05年にアジア陸上選手権の同種目で2位となった際に行われた性別検査はパスしている>

 

という例を見ても「全裸での視認確認」などはもとより「性別検査」といっても、あのような通常の常識を超越して極限まで鍛えられた肉体なのだから、なかなか一筋縄ではいかないものであろう。また、半陰陽や両性具有などということでもあれば、そのような場合は「そもそもオリンピックに出る資格がないのか?」どうかの規定はよくわからないが、人間の尊厳にも関わる問題にさえなってくるものであり、非常に興味深いというかデリケートなテーマである。

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