2009/08/24

「魔物」が暴れた(第91回全国高校野球選手権大会)

時として、プロ野球以上の劇的なドラマを見せてくれるのが「甲子園劇場」観戦の醍醐味である。これを突き詰めれば、恐らくは技術的にも精神的にも未成熟なるが故であろうし、さらには負ければ後がないという極限の状況で戦っているが故に、あのような数々のドラマが起こるのだろう、とも思う。今年の「第91回全国選手権」は、最後の最後で「甲子園の魔物」が大暴れした。

 

大会前、出場校の地方大会データにざっと目を通して

 

(今年は、もしかして東京同士の決勝もあるかも?)

 

と密かに見立てたものだったが、帝京、日大三の両校は案外に呆気なく敗退し、大騒ぎをされた菊池投手の花巻東も、怪我の影響で本来の投球が出来ず準決勝で敗退した。これらの強豪とともに、優勝候補の一角に挙げられていた中京大中京に対し、片や下馬評では殆どノーマークだった日本文理が破竹の快進撃を続けて、新潟代表として初の決勝まで勝ち上がる。

 

破壊力満点の打線だけでなく、守備や走塁でも投手力以外は非の打ち所のない高い完成度を誇る中京大中京の優勢は明らかで、8割方は中京大中京の勝利は動かないものと予想していた。

 

試合は予想通りの展開で進み、8回終了の時点で「10-4」という一方的な展開だ。9回も簡単に2死となりランナーもなし、あとアウトひとつとでゲームセット。ここから「甲子園の魔物」の大暴れが始まった。

 

深紅の大優勝旗がちらついたか、四球を連発する投手に襲い掛かる日本文理は驚異的な粘りを見せて一挙に5点を返し、遂に「10-9」まで詰め寄る。創作物なら、とても書けないくらい陳腐なまでに出来すぎた展開であり、あわや奇跡の大逆転かという信じ難い勢いである。あたかも甲子園球場が巨大な生き物(魔物)のように、自らの意思で奇跡の神風を吹かせようかというような異様な空気は、かつて阪神が優勝した頃にも感じられた独特の巨大な津波となって球場全体を覆い尽くし、ここまで精密機械のような磐石かつ冷静さを見せていた中京大中京の各選手たちを、非情にも呑み込まんとする恐るべき勢いで押し寄せてきていた。

 

ü  8番打者:2ストライク1ボールからの4球目、外角いっぱいのスライダーに手が出ず見逃し三振 。

ü  9番打者:1ボールからの2球目、鋭い当たりもショートゴロ。

こうしてあっさりニ死を取り、すんなり終わるかと思われた。

 

ü  1番打者:フルカウントからの6球目、低めのスライダーを見極め四球。「10-4」で2死走者一塁

ü  2番打者:4球目、走者が二盗を決めて2死二塁となる。フルカウントからのファウルで粘って9球目、高めのボールを捕らえ左中間へタイムリー二塁打で「10-5」。走者ニ塁

地元の中京応援のワタクシも

「最後に、意地を見せられてよかったじゃないの。あと1点くらい取らせてやりたいな」

と、この時点では余裕の拍手

 

ü  3番打者:2ストライク2ボールからファウルで粘って7球目、鋭くはじき返した当たりはライトへタイムリー三塁打!

 10-6」となり、走者三塁

「ほー、頑張るねー」と感心

 

ü  4番打者:1ストライク1ボールからの3球目、死球で出塁。走者一、三塁。ここで中京大中京はピッチャー交代。

ü  5番打者:フルカウントからファウルで粘って8球目、低めのボールを見極め四球。「10-6」で、遂に満塁に

「オイオイ・・・大丈夫かいな。ちょっと危なくなってきたぞ・・・」

 

ü  6番打者:一発出れば同点の場面に甲子園は手拍子が起きる。2ボールからの3球目、レフト前へ2点タイムリー!

「10-8」となり、なお走者一、ニ塁。

明らかに球場全体が「奇跡」を期待するような、異様なムードに一変していた。

 

ü  7番打者(代打):初球、レフト前ヒット!

遂に「10-9」となり、なお走者一、三塁に。

奇跡の大逆転が実現しそうな気配が、さらに濃厚となっていく・・・

 

ü  8番打者:2死一、三塁。1ボールからの2球目、強烈な打球はサード正面のライナーとなり、ゲームセット。ここで大激戦に終止符が打たれた。

 

個人的には、地元の愛知代表の中京大中京に43年ぶりの優勝の期待をかけていたが、野球という競技の面白さと勝利に対するひたむきな執念が生み出すドラマが、そのような小さな拘りなどは遥かに超越してしまった。

 

長い悪夢から開放され、ようやく頂点に立った中京大中京の選手は涙し、敗れた日本文理の選手は満足の笑顔に包まれた。あの9回のドラマは、43年ぶりという歴史の重みを伴った大きな試練を勝者に与え、また最後まで勝負を諦めずに勝利へ執着した敗者への褒美として、自信や誇りを与えた。どちらにとっても、これからの長い人生において何度も味わうことのないような、得がたい体験となったことだろう。

 

それはさておき最近の高校生投手が、140km台の速球を当たり前のように投げているのには驚かされる。それもエースだけでなく、リリーフで出てくる23番手クラスでも当たり前のように140kmを超しているのである。

 

花巻東の菊池、明豊の今宮の両投手は、ナント154155kmを投げていた。155kmを投げる投手はプロでもそんなにはいないはずであり、特に菊池に至っては左腕だから、これはプロでも殆ど皆無に近いはずだが、それでもバカスカと打たれたりするのだから、筋トレやマシンの齎す打撃技術の向上は恐ろしい(勿論、投手の投げる球はスピードだけではなく、プロとの単純な比較は出来ないが)

 

ただし、インフルエンザに罹患してベンチ入りを外れたり熱射病や熱中症で倒れるなど、(ただの風邪すら滅多にひかなかった)我々の時代の体育会系では考えられないひ弱さも露呈していることから見ると、筋トレで外見はマッチョになっている割りには、根本的な肉体そのものが虚弱化しているのかとも、疑わしくなってしまう。そんなことを思っていたら、プロ野球選手までインフルエンザ罹患して戦列離脱とは、恥を知れ ∑( ̄皿 ̄;;キィィィィィィィィィィィ!!!

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