2011/02/24

報復(プロジェクトS)(4)

「今日中という意味は予算絡みの話のネタということでしょうから、まずは納期が迫っている当月分を先に算出して、以降の分は明日にも見積もりますよ」

 

というと

 

「当月分のところだけ切り出して出されても、後に続く見積もりがなければ根拠がわからない」

 

と、あくまで全部出せという。

 

以前の担当者と、ベンダーの管理者と相談した想定では「サーバVM化」は3ヶ月、監視導入が約2ヶ月のオーダーと考えられた。その対応をしていると、次には別システムの担当がやってきた。

 

「急な話ですが、来月からウチのシステムを引き継いでもらう話になっていまして・・・そちらでの引き継ぎ計画と、膨大にあるドキュメントの受け入れ検査をしていただきたい」

 

という、面倒な依頼が舞い込む。

 

「何か困ったことがあったら、相談してくれ」

 

と言っていたI氏に持ち込んでも

 

「そのような上流作業は、メンバーたちはできない」

 

といわれるのは目に見えているから、リーダークラス以上のプロパー数人を巻き込んで、分担を割り当てて管理を行うことにしたが、さらにはユーザーからも

 

「データのバックアップ計画を作って欲しい」

 

という依頼が舞い込む。どれもが、納期や要求レベルが無理なものばかりだった。

 

「一人で並行して、このようなスケジュールをこなすには無理がある」

 

とI氏に相談したところ、ベンダーの管理者に

 

「来月以降の工数を使って、サポート対応してくれないか」

 

と相談したまでは良かったが、それでは誤魔化しきれないレベルになると、PMが介在してきてなにかと文句を言った。

 

当初は、インテリ風に見えたPMが実はかなりの激情的な性格で、かといってこちらもおとなしくムチャ振りを聞くタイプではまったくないだけに、当然のことながら次第に関係が悪化して行く。PMの態度が途中から急に変わったのも、喫煙所などでIによって「洗脳」された結果だったろうと思われる。

 

この場合、簡単に洗脳されるPMにも疑問を感じざるを得ないが、狡猾なIがこれまでの実績と信頼を背景に、よほど言葉巧みにだまくらかしたものだと半ば感心せざるを得なかった。このようにして、遂に「Iの目論見通り」PMと大喧嘩の末、早くも現場を退くことになった。

 

現場に見切りをつけた人間ほど、怖いもの知らずはいない。密かに転職活動を始めていた3月始め、所属会社から

 

「今月一杯で、契約終了という連絡が来ました・・・」

 

という、半ば予期していた連絡が来た。まだ月初であり、無論このような状態で長く続ける意思はなかっただけに

 

「今月一杯と言わず、すぐにも出たいのだが・・・」

 

と伝える。

 

「すぐは無理でしょう。引継ぎとかも、やらないといけないでしょうし・・・」

 

「引き継ぎなど、なにもないよ。そもそも、自分も引継ぎなどしてもらった記憶はないしね」

 

「しかし・・・お客さんの方で、今月一杯と言っているので・・・」

 

「それは向こうの都合による、勝手な言い分だ。こっちは、すぐにも出たいと言っている。その代わり、今月分の給料はビタ一文要らん」

 

「それは、無理だと思います・・・では、今月一杯ということで・・・」

 

以前は大手派遣会社営業だったH氏は、こういうことに掛けては柔軟性がなく

 

「今月一杯で・・・」

 

とユーザーから言われたことを伝えるだけだから、まったく頼りにならなかった。

 

「オマエじゃ話にならん。Sさんと直接話す」

 

と以前から知っていた社長のS氏に、現場のムチャ振りと「謀略」のカラクリを伝えた上で

 

「このような状態で、これ以上続けるのはお互いによろしくない。今月数営業日分の報酬は放棄するから、直ぐにでも退場させて欲しい。融通の利かんH氏はダメだと言ってたが、ダメと言おうが無理にも退場するつもりだ」

 

と宣言すると

 

「では、私の方で調整してみます・・・Hは大手派遣でマニュアル教育を受けていたから、こういう話だと機転の利かないところがあってね。まあ給料を放棄すると言うのなら、なんとか交渉は出来るんじゃないかとは思うけど、取り敢えず交渉してみるので現場では穏便に願いますよ・・・」

 

と、交渉を請合った。

 

その時点で抱えていた管理案件は「VMサーバ新規構築」、「監視システム導入」、「ドキュメント受け入れ検査」、「サーバのバックアップ方式検討」、「障害案件の対応検討」があった。ユーザーの言う「今月一杯で・・・」というのは、それらのタスクの完了を想定してのものだろうが、そうは問屋が卸すまいことか。

 

このうち「バックアップ方式検討」は、前回の担当者に計画までは作らせたので、あとはユーザーとの調整と実作業は誰でも出来る。「監視システムの導入」は多少進捗遅れが出てはいたが、なんとか担当者をコントロールできていたから、リカバリは難しくない。「VMサーバの新規構築」も同様だ。

 

問題は「ドキュメント受け入れ検査」と「障害案件の対応検討」の二つで、これはボリュームも影響度も大きく、仮にその月一杯勤め上げたとしても完了する見込みはまったくない。「障害案件の対応検討」の方は、PMとI氏との3人で検討した結果、PM指示でI氏に担当が代わった。この「障害案件の対応検討」も「ドキュメント受け入れ検査」同様に他システムからの引継いだもので、以前に関わっていた作業者の伝手を辿り独自の有益な情報を入手していた。が、これはPMやIには知らせていないから、さすがのハイレベルの二人もまったく名案が湧かないようで

 

(これは、一体どうしたらいいのか・・・)

 

と、大いに頭を悩ませていた。

 

「ドキュメント受け入れ検査」については、依頼が飛んできたタイミングがあまりにも遅く(担当者の話では、PMにはかなり前に話しておいたと言うことだったが)納期が迫っていたが、なんといってもボリュームがでかすぎた。また、その性質上から対応できるのが「有識者」に限られていたが、当然ながら「有識者」の数が限られる上に、それぞれが沢山の別案件を抱えていて忙しいだけに、遅々として捗らなかった。

 

今後、これらの舵取りをやるのは、どう見渡してもI氏以外にはいなかった。あれだけPMと親密な関係のI氏だから、すでに「契約終了」の件は耳にしているはずである。そうした「暗黙の前提」に立って

 

「ドキュメント受け入れ検査の進行管理をしてください」

 

と頼むと

 

「なんでオレが・・・?」

 

と顔をしかめ、方針検討のミーティングでもスケジュールにI氏を登録すると

 

「他の打ち合わせがあるので、出られない」

 

と、あくまで我関せずを決め込んでいた。

 

「それだと後々、困るんじゃないですかね?」

 

と皮肉を飛ばすと

 

「これはにゃべさんの仕事だから、自分は関係ない・・・」

 

と、あくまでシラを切っていた。

 

(オレが月末まで居て、完了させると思っていたら大間違いだ!

すぐに消えるから、残りの面倒はアンタに任せたぜ)

 

と、腹の中でせせら笑っていた。

 

(Iよ、これが穢い「謀略」のツケだぜ!

精々、自分で自分の穢い尻拭いをするがいい)

 

これまでのPMのムチャ振りの全てが、I氏の首を絞める結果になっていくのだ!

ザマアミヤガレ!

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