2011/02/10

クレーム(プロジェクトS)(2)

どうにかこうにか金曜日となったところで、元請会社の現場リーダーM氏から

「昼飯に行きましょう」

と誘われる。

 

切れ者の若いM氏は別のシステムに居たのを引き抜かれて、今はユーザー側のフロントに立っていた。調子はどうかという、当たり障りのない話から始まり

「実はですね・・・」

と本題を切り出した。

 

「にゃべさんは、タスクを丸投げにしている・・・という声が耳に入ってきています・・・」

 

「は?」

 

「どうです?

心当たりがあるか、それとも、なにか言い分がありますか・・・?」

 

「丸投げにしているつもりはありませんが・・・誰が、そんなことを言ってるのでしょう?」

 

「直接は、Hさんから言われました・・・」

 

H氏というのは、PMの上司に当たるVPvice president)だった。が、PMですら担当者レベルと直接話している場面は殆ど眼にしていなかったから、その上司のVPが正しい情報を把握しているはずはない。

 

「いや、Hさんは色々と情報源がありますからね。それに、そう言っているのはHさんだけではなく、メンバーからも不満の声を聞いています」

 

と、M氏が言う。

 

「それは、誰?」

 

「まあ、名前は言いませんが・・・1人ではなく

『スケジュール管理だけで、タスクの中にまで入り込んでいない』

という不満は、自分も何人かから聞いているので。自分もあちこちに情報源を持っていて、一人や二人じゃないですよ」

 

と言った。

 

「昨日、Hさんから呼ばれて

 

『そうした声が出ているが、にゃべさんになんらか別の考えがあるのかもしれないから、そこを確認してくれないか』

 

と言われました。それで、どうかと聞いているのです」

 

「なんと言っても、まだ本格的に始めてから1週間しか経っていない。まだまだシステム全体も理解できていないし、タスクの中身にまで入り込むようには言われていましたが、正直そこまで手が回っていないのが現状です。まだ1週間で、そこまで完璧にやるのは無理でしょうな」

 

「なるほど・・・では

『タスクを丸投げにしている』

ということについては、どうですか?」

 

「『丸投げ』というのを、どういう意味で言っているのかがわからんけど、自分としては丸投げしているつもりはないですが。実作業は担当者がやって、その進捗を管理するのが自分の役目であって、先にも言ったように現状でタスクの中身までは入り込めていないにしても、丸投げという認識はないです。タスク管理のやり方は色々あると思いますが。ここの現場の担当者は総じてレベルが高いから、相手は小学生じゃあるまいしベッタリ張り付いて見るような必要はなく、ポイントを抑えていれば問題ないと思っていますがね」

 

「なるほど。考え方はわかりましたので、Hさんには伝えておきます。ただ、先のような声が出ているのが事実ではあるので、にゃべさんもタスクの中身にまで入り込んで、担当者と一緒に問題を解決していくような姿勢を見せてほしい」

 

とM氏が言い、その場は別れた。

 

しかしながら、この話には大きな違和感が付きまとった。まず第一は「H氏が言っていた」と言うことである。先にも触れたように、H氏はVPVice President)だから大きなところしか見ていないはずで、このような細かい状況を把握しているとは思えなかった。なにより本来であれば、このような改善要望であればPMから出てくるのが筋のはずだがPMの名前は一切出てこず、いきなりVPに飛び越えているのが解せない。M氏が、こちらのチームの担当者数人と親しいのはわかっていたから、その辺りから不満やら意見やらを聴取している事実として、いきなりH氏が絡んでくると言うのが解せなかった。

 

単に「メンバーが、そう言っている」というだけではインパクトに欠けるため、VPの「H氏」の名前を持ち出したのかもしれない。日ごろ接触のあるPMの名前を出した場合だと、万一直接に確認されたら嘘がばれるため、その心配のないVPの名を騙った・・・・ありそうな推測だ。若いが百戦錬磨のM氏であれば、このくらいのことはやりかねなかった。

 

ともあれ「タスクの中身に入り込む」努力は心がけはしたものの、現実は進捗遅れが多かったり、その理由(というよりは言い訳)をどうにか捻出して、毎週やってくる「定例会」をスムーズに進める準備だけで手一杯で、まだまだ「タスクの中身に入り込む」というのは簡単ではない。なにせ、まだ本格的に取り組み始めて1週間しか経っていないのだ!

 

ところが、その週が明けた3日後、つまり水曜日の事だ。この現場のビルは喫煙所が外にしかないため、タバコを吸う都度いちいち外に出ないといけなかったが、その時も喫煙場所には大勢の人間が屯していた。その大勢の中に、PMI氏がひそひそと密談のように額を寄せて話しこんでいたが、こちらの姿を見つけると急に立ち上がって戻っていった!

 

「直感」というのは不思議と的を射ている場合が多いもので、その振る舞いは「やけに不自然」に映った。なんとなく、嫌な感じに見舞われながらタバコを取り出すと、M氏の姿が眼に入った。バッグを持っていたので

 

「これから、客先訪問?」

 

と、声を掛けると

 

「そうそう、直ってないじゃん!

直ってないって、昨日PMから言われたよ・・・」

 

と、大きな声を出した。

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