2011/01/13

東京砂漠(プロジェクトF)(8)

(仕方ない・・・惜しいが、ビジネスホテルにでも泊まるしかないか・・・)

 

という想定は、もろくも崩れる。

 

(ここは、本当に東京か?)

 

と目を疑うほどに、駅の周辺にビジネスホテルはおろか、ネットカフェや漫喫もなにもなかった。

 

「ここは、なんにもないよ。途中の新百合まで行けば、満喫が1件だけあったはず」

 

というT氏の言葉を信じて、途中の駅までは行っている最終電車で新百合ヶ丘まで行った。先の駅よりは大きな駅ビルであり、車窓から駅ビルの中にホテルが入っているのが見えた。ところが、このホテルが田舎の分際でシングルが11万円と高かったが、野宿をするわけにもいかないから自腹覚悟で意を決してフロントへ行くと、シングルは既に満室でデラックスツインしか空いていないという。こちらは115000円で、経費で精算できるのは精々が50006000程度だろうし、1万円もの自腹などは冗談ではない。

 

(ビジネスホテルくらいは、他にもあるだろう・・・)

 

としばらく歩いてみたが、ここもビジネスホテルはおろかネットカフェや漫喫もなにもないではないか。T氏に電話をして

 

「さっき言ってた満喫ってのは、どこにあるの?

全然、見当たらないが・・・」

 

と聞くと

 

「前はあったのに、なくなっちゃってるよ・・・潰れたのかなー」

 

という、例によっていい加減な話だった。

 

次第に寒くなる深夜の雨上がりの寒空で寒気に震えながら、散々うろついた挙句、駅ビルのファミレスで夜を明かして始発で自宅に帰ることになった。ところが

 

「始発だから、電車もガラガラだろう」

 

という田舎者の期待を裏切り、ナント座るのもままならない混雑だ。これだけ泊まる施設もない田舎でこれだから、改めて東京の人の多さに呆れた。

 

そんなこんなで風呂に入って惰眠を貪っていると、10時前には

 

「どーしましたか?

早く来てくれ」

 

というメールが飛んで来た。この前までの蒸し風呂のような現場とは違い、こちらはデータセンターだけに空調の風が吹きさらしの風に晒されながら、今度は寒さとの戦いが続く。

 

初日に酷い目にあったため、二日目は

 

「終電に遅れないように、時間管理をしっかりしないと」

 

と、T氏に釘を刺しておく。技術者にありがちなタイプのこのT氏は、熱中すると時間を忘れてしまうタイプだ。PMは、いつも

 

「あいつはリーダーではなく作業者になっちゃてるから、にゃべさんがうまくコントロールしてやらないと・・・」

 

といっていた通りで、T氏の自覚が薄い点は否めなかった。そうした経過もあって、この日はキリのいいところで作業を終えて帰途に着く。役立たずのMは、そもそも作業の目的も内容も理解できていないから、指示の内容が理解できずにモタモタしたり、トンチンカンをやったりで散々に足を引っ張った。温厚なT氏は呆れた顔をしながらも、仕方なく根気よく説明して聞かせていたが、温厚でないワタクシは何度もも怒鳴りつけていた。

 

作業現場に近いMがさっさと下車すると、T氏と自分が残る。

 

「なに考えてるのか、よくわからん人だ・・・」

 

とかなんとかMの事を言い出したので、この時とばかりかねてからの疑問をぶつけてみた。

 

「正直、なんであんなのを採ったのかが不思議でしょうがないんだけどね・・・面接は、誰がやったの?」

 

実際には、Mと一緒に面接を受けた以前のメンバーから、T氏がやったと言う話は聞いていた。

 

「ああ、あれオレがやった」

 

「だよね。前から聞きたかったんだけど、なんであんなの採ったの?」

 

「ごめん、適当だよ、適当。書類見て、ある程度決めてたから。CCNPCisco認定プロフェッショナル)とか、LPICLinux技術者認定)とか書いてあったし・・・」

 

「嘘だよ、あんなの」

 

「あれ、嘘だなー。騙されたよ・・・」

 

「そもそも、会話すら成り立たんから。あれでよく、あの歳までやってこられたもんだ・・・」

 

「うむ・・・よく生き残ってこれたよ。あーゆータイプは、オレも初めて見たなー」

 

「あんなに喋れんし・・・面接で、ちゃんと喋ったのか不思議だわ」

 

「ちゃんと喋ってた・・・と思う」

 

「前のメンバーから聞いた話だと、6人面接して3人採ったらしいけど・・・どう考えても、あれ以下のって考えられんけどなー」

 

「確かに・・・あれは失敗だったなー」

 

いい加減なT氏は、さして悪気もなさそうに自嘲気味に呟くのみだった。

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