2013/04/26

醜態(プロジェクトD)(9)

「Yさん、どうしたのか?

突然呼ばれて状況がサッパリわからんのだが・・・手短に説明してくれないかな?」

 

と問いかけても、Y君は貝になったように固く口を閉ざしたままだ。対面するN社の製品事業部のリーダーらしき人物が、業を煮やしたように

 

「どうも・・・突然に呼び出しを喰らって状況がわからんと思いますが・・・とにかく私どもとしては、レビューをお願いしますといわれてやって来たのに、まったく準備不足なのか何を言っているのかわからなくてね。どう見てもレビューの準備が整っていないようにしか見えないんだけど、どうしますか?

今日の予定は準備不足ということでキャンセルとするか、それとも改めてこれか立て直してちゃんと説明してもらえるのか・・・いずれか方針を明確に決めてもらいたいな。我々だって遊んでいる身ではないし、もうレビュー始まってから結構時間経ってるけど説明も始まりそうにないし、どうしたいのかハッキリしてほしいんですがね・・・」

 

「なるほど・・・承知しました。まずは、ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした・・・」

 

と、一応は形式的に詫びておいて

 

「で、Y君!

レビューの準備が出来ていないというのは、確かなのか?

なぜ、このような状況になったかは後でヒアリングするとして、この場のレビューは始められるのか、もしくはキャンセルしてリスケさせてもらった方が良いのか?」

 

と問うても、Y君は固まったまま返事がないのである。

 

「私も突然呼ばれたので、準備状況がどの程度か把握できていませんが、どうも見る限りレビューができる状況ではなさそうなので、本日のレビューはキャンセルとして、改めて日程調整をさせていただきたい」

 

とN社製品事業部に申し入れると

 

「その方が良さそうですね・・・どうも、なんとも。今後は、このようなことがないようにして欲しいね・・・」

 

と、思いっきり嫌味を言われてしまった。

 

「なんで、こんなことになったんだ?」

 

N社製品事業部のメンツが去った後、Y君を追求してみるも要領を得た返事が返ってこなかったが、これまでの経緯など色々と考えてみると、どうもN部長がスケジュール優先の考えで勝手にレビュー日程を設定してしまったが、実際の作業が追いつかずに準備不足のままにレビューを迎えてしまったらしい。

 

しかも相手が海千山千のN社製品事業部だから、レビュー開始早々にその点を突っ込まれて、その場はなんとかごまかしてやり過ごせばよいものを、技術力は凄いが案外に世間ずれしていなかったY君が、すっかり舞い上がってしまい立ち往生してしまったというところらしい。

 

この一事をもってしてもわかる通り、リーダーのN氏は明らかにこの地獄のように過酷なPJから「逃げる気満々」のようで、事実この頃になると赤坂の現場に出勤する頻度はじり貧に減っていき、遂には偶にしか来なくなっていた。

 

N社との定例会議については、こっちも概ね内容を把握できて来ていたのでそこを任される分にはまだ我慢できたが、それを良いことにN氏の知らぬ顔はさらに酷くなっていった。

 

ある日のこと。

その日も「自社用」とやらで不在のN氏から、突然に電話がかかって来た。

 

「私は自社でどうしても抜けられない用事があるので、今日はそっちに行けません・・・」

 

「またですか。まあ今日はN社との定例も、他のmtg予定もないから良いですが・・・」

 

「実はですね・・・今日水曜は『高度化WG』というヤツがありまして・・・」

 

「高度化WG

なんすか、それは?」

 

「いや、大した内容じゃないけど、一応私は毎週出席しているので・・・今日はにゃべさんが、私の代わりに出ていただきたい・・・」

 

「といっても、なにをやるのかもサッパリわからないですが・・・」

 

「大丈夫です。その会議で、うちらが発言を求められるようなことはない・・・はずです」

 

と、なんだか語尾が怪しい。

 

「じゃあ、今日はNさんがいないので欠席で良いんじゃないですか?」

 

「いや、この会議にはTさんが出るので、欠席はまずいな~。代わりに出てください。」

 

「しかし・・・」

 

「何も聞かれないハズですが、もしわからないことを聞かれたら、持ち帰り回答するとでも言っておけば・・・」

 

なんとも無責任なリーダーだ。

 

こうなれば、仕方ない。何と言っても一応はサブリーダーとしてN氏不在の時は代行の役割だから、出ないわけにはいかぬ。

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