「自社寄り」がどんどんと増えていって、このころは半分も現場にはいないN氏だったが、相変わらずドキュメントは持ち帰って、どこかで直したり作ってはいるようだった。あれだけの仕事のボリュームと厳しい納期を考えてみれば、多少の遅延はあるとはいえそれなりにメンバー数人分の「ゴースト」として作業を完遂していることは、まことに驚異的と言えた。
「CCIE」といっても、机上の知識だけで現場における実践となると
(こいつが本当にCCIEなのか?)
という「ペーパーエンジニア」も多い中、このN部長のスキルに関しては掛け値なしといえたが、その反面で肝心のマネージメントの方はまったく疎かとなり、すっかりこちら頼みのようだった。
N社のマネージャーT氏は「狷介」ともいえる性質だけに、N部長としては苦手らしく、もっぱらサブリーダーのK女史を頼りにしていたらしい。大企業のN社とはいえ、T氏は「マネージャー(課長)」だが、自分はN社ほどの大企業ではないが、一応は「上場企業の部長」としての矜持や、T氏よりは幾つか年上としてのプライドもあるだろうから、マネージャー級の相手からガンガン言われるのは苦痛だったかもしれない。
一方、年齢的にはかなり下のK女史は、まだ主任クラスでガミガミ口煩いのはあるいはT氏以上ともいえたが、ひたすら冷徹なだけのT氏とは違い姉御肌で面倒見の良さがあり、またN部長には好感を持っていたようだったため、N氏は裏ではK女史とコミュニケーションを図っている様子も垣間見えた。
それにしても、いよいよN部長の「自社寄り」頻度が高まり、遂に半分も現場に顔を出さないような状況になりつつある時、遂にC社に「救世主」が現れた。
パートナー会社から新規参入してきたY君で、これがビックリするようなハイスキルの持ち主。年齢こそまだ30そこそこだが、なんとあの「CCIE」のN部長をも唸らせるレベルの男だ。N部長もさることながら、C社メンバーのスキルの低さに頭を抱えていたN社のT氏とK女史にとっても、まさに救世主である。
あの気難しく狷介なT氏が
「Yさんがいなくなったらと思うと、オレは夜も眠れない・・・」
と言うほどだった。
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