2016/04/14

京たこ(小説ストーカー・第二部part4)



 その後、職工以外の職を探して町を彷徨い、何度か面接に行ったものの、結果はどれもが捗々しくなかった。
 
 面接では、どれも30半ばという年齢と、資格やスキルがなにもないことがネックとなった。
 
 「あと10歳若ければねー」
 
 とか
 
 「その年でスキルがないと、なかなか厳しいねー」
 
 などと繰り返された。
 
 考えてみれば、こうして繰り返される指摘は、最初にあの職安のイヤミ職員に言われた内容に、見事に集約されていた
 
 中には、遠慮のない面接官も居て
 
 「せめて明るさがあればまだしも、イメージ暗いし・・・」
 
 とまで言われる始末だ。
 
 そうしたプー生活が1か月を過ぎると、家にいる時には両親からイヤミを言われ雰囲気は益々暗くなって、どこにも居場所がないような具合になっていた。
 
 あんな家は飛び出したいのはヤマヤマだが、なにせ金がないから独立などは夢のまた夢だ。
 
 このように、何ひとつ良いことのないオレにとって、今や彼女と同じ電車の車両に乗ることのみが唯一の楽しみとなり、そのため実際以上に益々彼女が魅力的に見えて来た
 
 そうした、ある日のことだ。
 
 最寄り駅から家路へと向かう道端で、京たこの店員募集のチラシを見たのは、全くの偶然だった。
 
 場所は、最寄駅から3つ目の大きな駅で駅前に
 
 「新装オープンxx店 店長候補募集」
 
 と書いてある。
 
 転職活動当初のオレなら「タコ焼き屋なんて・・・」と言いたいところだったが、ここまでの面接が全く話にならないような全滅ぶりだったから、現実を鑑みればこの際、贅沢は言ってられん。
 
 「京たこ」の名前は、なんとなく聞いたことがあったから「タコ焼き屋」といっても、それなりに大きな構えの店を予想していたし「新装オープン」だから、それなりに綺麗な店を想像していた。
 
 ところが面接に行った「京たこ」は、予想外に小さい貧弱な店構えであり、また「新装」とは思えないような薄汚れた物件だ。
 
 後で聞いた話では、つい数日前までタバコ屋だったらしい。
 
 店頭では、若くてかわいい女が、一心にたこ焼きを焼いている。
 
 「あのー」
 
 若い女店員は、たこ焼きを焼くために俯いていた目を上げた。
 
 「?」
 
 「求人広告を見たんですがね・・・」
 
 「あ・・・ちょっと、お待ちください」
 
 と、いかにも世慣れない調子で言い
 
 「マネージャー!」
 
 と呼ぶと、奥から30半ばくらいの男が出て来た。
 
 「応募の方ですか?」
 
 マネージャーと呼ばれたその男は、30半ばくらいでオレとほぼ同年輩のようだったが、いかにも如才がなさそうで愛想も良かった。
 
 奥(と言っても、店頭からは目と鼻の先で、衝立で外から見えなくしているだけ)の、薄汚れた狭い場所に通された。
 
 「汚くて狭いとこですが、こちらへどうぞ・・・」
 
 と、安っぽい丸椅子を引くと
 
 「えーっと・・・応募の方ですね。
 履歴書などは、お持ちですか」
 
 と言われ、用意してきた履歴書を差し出すと
 
 「ちょっと失礼・・・」
 
 と、タバコを取り出し火を点けたマネージャーは、煙に目を細めてしばらく履歴書を眺めていた。
 
 「ほー。
 ずーっと職工さんだったのですか・・・これまで店員などの経験は、ない?」
 
 「はあ・・・ずっと工場勤めだったので・・・」
 
 「なるほどね・・・そうすると、今度はなぜまた、うちに?」
 
 「実はですね・・・工場で、ちょっとしたミスをしてしまいまして・・・まあ、大したことではなかったですが、責任を取って辞めました・・・今まで工場勤め一筋だったけど、これを機になにか新しいことにもチャレンジしてみようかと・・・」
 
 「ふむ・・・新しいことにチャレンジするのは、良いことですね。
 ところで、工場での『ミス』というのは、差し障りなければ・・・」
 
 と、痛いところを突かれた。
 
 ところが、用意してきた説明をしようとしたところ、まことに絶妙のタイミングでマネージャーの携帯電話が鳴った。
 
 「はい・・・」
 
 (ちょっと失礼・・・)
 
 というように手を挙げたマネージャーは、向こうむきになって携帯で話し始めたが、話が長引きそうなのか、ほどなく店の外へと出て行く。
 
 電話は案外と長引いて、手持無沙汰に待っている間にも、ポツポツと客がたこ焼きを買いに来ているようだった。
 
 小さい店とはいえ、さすがに「駅前銀座商店街」の入り口という好立地だけに、駅から吐き出されてくる客が帰宅前に気軽に買いに求める需要は思った以上にあるらしく、大学生のような女店員はてんてこ舞の様子だ。
 
 10分ほど待たされた末、ようやくマネージャーが戻ってきた。

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