2016/04/23

面接(小説ストーカー・第二部part5)


 「失礼。
 申し訳ないですが、ちょっと急用が入ってしまいましてね・・・あまり話が出来ませんでしたが、もしよければうちとしては、是非来ていただきたいと思っています」
 
 「はあ・・・未経験ですが、よろしくお願いします」
 
 「まあ、経験者は滅多にいないですしね。  
 タコ焼きを焼くのに、特別な技術は必要ないですよ。
 要は、やる気さえあれば大丈夫・・・」
 
 というと、マネージャーは再度タバコを咥えて声を潜めた。
 
 「実はですね・・・ここは先月、開店したばかりでね・・・先週まで、ある人物に店長のような立場で任せていたんですがね・・・明るい人物で能力も高かったんだけど、これがとんだ食わせ物でしてね・・・」
 
 ここで言葉を切ると、思い出したようにマネージャーは苦々しく顔を顰め
 
 「売り上げはちょろまかすは、女の子にちょっかい出すわ、挙句には店の金をネコババしてトンズラこきやがってね。
 
 おまけに履歴書に書いてある番号電話から住所から、なにからなにまで全部デタラメでね、要は持ち逃げされちまった次第で・・・」
 
 「それは・・・なんとも、大変な災難でしたね・・・」
 
 「お蔭で、こっちは社長から、こっぴどく叱られました。
 そんなことがあったもので、こんな小さなチェーン店とはいえ、念のため身元の確認をさせていただくのですが、差し障りはないでしょうな?」
 
 「勿論、それは構いませんが・・・」
 
 「どうも最近の若いモンは、倫理観が薄いというか、なにをしでかすかわかりませんな・・・その点、アナタくらいの年輩なら間違いはないと思いますし、ずっと工場に勤めてこられたくらいだから、きっと真面目な方なのでしょうね」
 
 「はあ・・・真面目が取り柄です・・・」
 
 「実を言うと私も学校出た後、すぐにトヨタの工場に勤めておりましてね。
 5年ほど勤めていましたので、工場勤めの人の真面目さはよく知っていますし、転職理由もなんとなく想像できる気がします」
 
 相手の経歴も手伝ってか上手い具合に話が進み、その場でOKが出た。
 
 無論、こっちが勤めていたのはトヨタの工場などとは天地雲泥の差がある個人のクソ工場だったが、ここは折角だから相手の「勘違い」に乗じておこう

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 (こんなに、スムーズに話が運ぶとは)
 
 予想外に貧弱な店構えにはガッカリしたものの、これまでの全滅だった面接とは違い「即決」でのOKだ。
 
 正直、店を見た時こそ
 
 (もうちょっと、気の利いた店や仕事はねーもんか・・・)
 
 という色気をまだ捨てきれない部分はあったものの、マネージャーはよさそうな人物だし、なにより今の心境からして即決でOKしてくれたのが有難かった。
 
 それでなくとも、これまで数々の面接で散々に扱き下ろされたりバカにされて来続けて居ただけに、これ以上無駄な面接を繰り返す勇気も湧いて来なかった
 
 「じゃあ早速、来週から来て下さい」
 
 店のあるxx駅は、最寄駅からはいわゆる「下り線」で名古屋とは反対方向だから、通勤ルートはこれまでの反対である。
 
 (これで彼女にも、もう会えなくなるわけか・・・しかし、店の女の子は、案外かわいかったな・・・)
 
 せめて「冥途の土産」に、今週一杯でもストーカーを続けたい願望はあったが、ここ数か月の失職のため、薄給の中から爪に火をともすように貯めたなけなしの預金は使い果たし、いよいよサラ金に手を出す一歩手前の窮状だったから、無駄な出費は慎まなければならん。
 
 「今の人、来週から来てもらうことになったから」
 
 マネージャーが、フリーターの女店員に声を掛けた。
 
 「そーなんですか?」
 
 「この前のホリウチには、まったくトンデモナイ目に遭ったからな・・・社長からは、早く後釜を決めろと矢の催促をされてるし、オレも辛い立場なんだよ。
 まあ、無口だが実直で真面目そうだし、問題ないだろう。
 上手くやってくれないかな・・・」
 
 エリア内の幾つかの店舗の管理を任され多忙なマネージャーは、実のところ面接で人材を吟味しているだけのゆとりがない
 
 が、セクハラ&持ち逃げの前任者ホリウチの轍に懲りていただけに「若くて口が達者で調子ばかり良い」ホリウチとは全く対照的な「中年、無口、分別臭い」タコオヤジが、実際以上に実直そうな好ましい人物に映っていたのも無理はなかった。
 
 が、バイトの看板娘は、僅か一瞬の初対面の印象から
 
 (前のホリウチは、トンデモな悪いヤツだったとか。
 でもセクハラは別にすれば、面白くてけっこー良い兄ちゃんだったけどな。  
 さっきのオッサンは、なんかネクラでつまんなそーじゃん?)
 
 と「女の直感」で鋭く見抜いていた!

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