2019/07/27

神話を彩る妖精たち(ギリシャ神話60)

出典http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html
 
 ギリシャの神々の一族はなかなか複雑で、オリュンポス山に館を構える「オリュンポスの12神」が中心にはなっているものの、それ以前の神々いれば、オリュンポス神族に属していても「12神以外の神族」もいた。さらには「河の神」のようにオリュンポス山には館をもっておらず、山野や海に住まっているような神もおり、さらにその下にはそうした山野や海の神の娘たちがいる。彼女たちは、もう神とは呼ばれず「妖精」ということになってくる。
 
  この妖精は、古代ギリシャ語の発音では「ニュンフェー」と呼ばれる。これが英語に流れてきて、通常我々は「ニンフ」と呼び慣わしている。このニンフは、もう神々のような際だった特殊能力は持っておらず、山や河、木や海や泉の「精気の具象化」ともいうべきもので、ようするに「自然の精」というべきものとなる。従って、自然の霊気を与えたり奪ったりすることはできたようで、そうした物語もある。また「自然の精」なので生気溌剌としていたのであろう、彼女たちは皆「若く、愛らしく、美しい少女」であり、そのため男神を含め多くの男性の恋の対象となって、さまざまの物語の主人公となっている。英雄の母親に彼女たちが多いのも当然である。

  彼女たちの住まうところは当然自然の中で、従って自然の霊気を感じさせるような洞穴などが「ニンフの祠」とされたり、泉がそのまま「ニンフの住まい」とされたりしているのを、ギリシャおよびそれを引き継いだローマ世界のいたるところで観察することができる。現在のヨーロッパ各地にもそうした場所がたくさんあるのは、ヨーロッパは元々ギリシャを引き継ぐローマ帝国の一部だったからである。ただしローマから遠かった北欧のものは、むしろ「ゲルマン民族」の神話に属するものが多く観察される。
 
 こんな具合に「妖精」といっても種類が多くなってしまうのは止むを得ず、古代ギリシャに限っても数種類に分けられ、それぞれの呼び名を持っていた。
例えば「泉や河のニンフはナイアス、複数でナイアデス」と呼ばれていたし、「海のニンフ」は出生によって「オケアニデス(オケアノスの娘たち)」とか「ネレイスないしネレイデス(ネレウスの娘たち)」と呼ばれている。また「山のニンフはオレスティアデス、ないしオレアデス」と、「森のニンフはアルセイデス」、「木のニンフはドルュアデス」ないし「ハマドリュアデス」、「谷間のニンフはナパイアイ」、「雨のニンフはヒュアデス」、「岩のニンフはペトライアイ」などである。
 
 ちなみに「女神」なのか「ニンフ・妖精」なのか良く分からないものもいる。オケアノスの娘となるステュクスは、オケアノスの娘「オケアニデス3000人」の一人で通常、彼女たちはニンフ・妖精の扱いなのだが、ステュクス一人「冥界を流れる河」として「誓いの女神」とされていて、これは完全に「神」扱いである。

 同じく海のニンフ「ネレイス」の一人の「テティス」なども完璧に「女神」扱いとなっている。テティスには女神ヘラとの関わりや神ゼウスとの深い関わりの物語があり、そしてトロイ戦争の英雄アキレウスの母となる。
 また、ホメロスの『オデュッセイア』にでてくる「カリュプソ」などは「海のニンフ」の一人なのだが、物語の中では、まるで「女神の一人」のような描きとなっている。

 こんな具合に一口で「ニンフ」といってもかなり色々なのだが、総体としてはやはり「山野や海に住む泉や木などの自然の精」であって「若く愛らしい少女」の姿を持っているものと考えて間違いはない。

 彼女たちは多くが英雄たちの母とされるが、とりたてて物語を持たない場合が多い。要するに英雄たちの素性を神に繋げたい願いによって作られた家系図となっている。その中で物語を持って知られる名前となっている妖精たちを紹介しておく。

海の妖精、オケアニデス(オケアノスの娘たち)
 海の妖精には、様々なタイプがいるのだが、代表的なのに二つの種族がおり、一つはオケアノスの血筋にあり、もう一種族はネレウスの血筋の者たちとなる。オケアノスは原初の神「大地ガイアと天ウラノス」の子であり、水の神として姉妹のテテュスとの間に「すべての河と3000人の娘」を持った、とされている。その娘たちの中で、知られる名前を挙げておく。

ステュクス
 彼女は、ある時父オケアノスの代理としてゼウスの元に援軍に赴き、それを喜んだゼウスによって彼女は「誓いの河」として、神々はあらゆる誓いを彼女の名前によって行うこととしたという。神々がそれを破った時には9年間、呼吸や飲食を禁じられ、他の神々との交際も禁じられたという。ステュクスは冥界を七巻きにわたって巻き、その河は魔力を持ち、そのためアキレウスを生んだ女神テティスは、アキレウスをこの河に浸けて人間的部分を流し去り不死にしようとしたという。ただし、かかとの部分を水に浸ける前に発見されてしまったために、アキレウスはかかとが急所になったという有名な逸話となってくる。

アレトゥサ
 今もシケリア・シラクサのオルティギア島の海辺にある淡水の泉が彼女なのであるが、彼女は元々はギリシャのペロポネソス半島北部にあって、山野を管轄する純潔の女神アルテミスに従っていた処女であった。しかし、ある時アルペイオス河神に見初められて迫られ、処女を守ろうと主人アルテミスに願って泉に変身し、海底を潜ってシケリア島まで逃げてきたが、アルペイオスも河であるから同じく海底を潜って追いかけ、シケリアの泉に身を変えていた彼女に流れ込んで交わり合体してしまったという。

ピュリラ
 神クロノスが彼女を狙い、妻の目を隠すために彼女を馬の姿にした(あるいは彼女がクロノスを逃れるため、馬の姿に変身した)が、クロノスも馬の姿となって彼女と交わり、そのため彼女は「半人・半馬のケイロン」を生んでしまったという。彼女は、そのケイロンを育てて幾多の英雄を育てる最大の教育者にした、とも、恥じて「木」に変身してしまったともいう。その名前は「菩提樹」を意味し、後者はその菩提樹の由来話しとなる。

クリュティエ
 太陽神ヘリオスに愛されたが、ヘリオスは彼女を捨ててレウコトエを愛人にした。しかし未だヘリオスを諦めきれないクリュティアは、レウコトエの父に自分が愛人であったのだと告げた。しかし、かえってヘリオスを怒らせ、彼女は悲しみのあまり死んでしまったが、死んだ後に花となってヘリオスを見つめ続けているという。ヘリオトロープ(太陽、つまりヘリオスに向いて咲く花)と呼ばれる薄紫の草花の所以の話となる。この花は香りが高く、香水の原料となっている。

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