2020/06/22

ローマ帝国(3)



貴族の暮らし
公衆浴場を私有するほどに裕福な貴族たち。彼らにとって財産を労費することは、一種のステータスだった。彼らは贅の限りを尽くしたが、とくに奴隷の使用においては、ある意味で退廃していた。また食事と恋愛についても、退廃的といえる様相を呈する者もいた。

奴隷
貴族は出かけるとき、最低でも2人のお付きの奴隷を連れていた。それならば、まだ(古代ということもあって)理解されうるだろう。しかし大貴族の奴隷ともなると、意味不明の領域に達する。例えば、主人が靴を脱ぐ時専用の奴隷。金持ちにもなると、帰宅後「右脚用の奴隷」に右足の靴を脱がさせ、「左脚用の奴隷」に左足の靴を脱がさせた。また、後述する「宴会用の奴隷」も今から考えれば奇妙なもので、いくら下僕とはいえ、中々に大変な玄人であった。

食生活
※食事中の方は読まないでください
ローマの貴族たちはしばしば宴会を開き、ひたすらに珍味を仕入れ食卓に並べた。宴会において、主催者と招かれた客は食事用の服を着る。これは1回限りの使い捨ての服だが、貴族の中にはそのようなものにも大金を使う者がいた。食事のマナーは「横たわって、だらだらと素手で食べる」。だから手がすぐに汚れ、食事用の服で拭く。それ故に食事用の服は1度限りの消耗品なのだが、それでもなるべく豪華に彩ろうとした。貴族の中には、その食事用の服を何度も着替えた、つまり財産を労費したものもいたのだった。

一部の貴族の中には、食事を延々と楽しむために、嘔吐してでも空腹になろうとした者もいた。連れている奴隷を呼び、孔雀の羽根を持たせ、貴族自身は口を大きく開ける。すると奴隷は、主人である貴族の口へ孔雀の羽を突っ込み、喉でそのままかき回す。こうなると、満腹のその貴族は食べていたものを汚物として戻し、再び空腹になるのである。ちなみに吐かれた汚物は、別の奴隷が処理してくれた。

夫婦生活
男女ともに、浮気は珍しいことではなかった。また節度ある性欲の発散は、必要悪としてある程度許容されていた。

夫にとっては、生まれてくる子供が「誰の子」か分からない。だからこそ、自分の全財産を子に捧げるのがもったいない。理由はこれだけではないだろうが、何にせよ、こうした背景のもと、ローマの出生率は下がる一方だった。ゆえに元老院貴族の家系はどんどん断絶していき、欠員を補充すべく地方の属州から新手が呼ばれていった。ローマ帝国の新陳代謝に繋がったかもしれないが、なにぶん、お粗末な話である。

首都ローマの生活
ユリウス・カエサルから五賢帝時代までのおおよそ200年間、首都ローマは「パンとサーカスの都」と呼ばれた。ローマ市民はどんなに貧しくとも、穀物や娯楽をタダで享受できたのである。また、物乞いとして白い目を向けられる点を我慢すれば、食料品もタダで受給できた。

首都ローマには、属州から搾り取りまくった穀物などの財産が一極集中したため、市民には穀物(注:パンになる前の小麦粉)が無料で支給された。首都のローマ市民は、たとえ無一文であっても「ローマ市民」というだけで、定期的に穀物を受け取れたのである。

無料供給という点においてはカリグラ帝もまた有名で、彼は金貨をローマ市民に対しこれでもかとばら撒いた。また、ネロ帝も裕福な市民から財産を没収し、貧しいものへ分配した。どちらも人気取りである。暴君とされる彼らは、そういった経緯から市民からの人気があったが、ローマ市民はこうした皇帝の人気取りがあればあるほど、楽しい生活が送れたのである。

娯楽面でも、古代とは思えぬほどに充実していた。フラウィウス・ウェスパシアヌス帝の時代から建設が始まったコロッセウムは、およそ50,000人を収容でき、祭日には戦車競走などが催された。こうした祭日は、ローマ市民の人気を得たい皇帝らによってどんどん増やされていった。すると市民は、さらに狂喜するわけである。

ローマ市民は、ほかにも剣闘士奴隷(いわゆるグラディエーター)や猛獣の戦いを観戦したり、闘技場の一面を水浸しにした模擬海戦(今で例えると、東京ドームに水を入れて船を漕ぐようなもの)が行われたり、演劇が披露されたりと充実した時間が提供されていた。これらも、みなタダである。

公衆浴場
ローマ市内には、実に1,000件以上もの浴場があった。なお「浴場」とはいうが、現代の銭湯とは少々違う。あえて現代のものにたとえるならば、スポーツ・クラブやフィットネス・クラブになるだろう。どちらかといえば、公共の運動場や水泳場に近い。

入場料は今の日本円で換算すると10円くらいで、おそらくほとんどタダ。玄関にトレーニング・ルームがあり、レスリングや球技、槍投げや円盤投げを楽しめた。汗を流した後はマッサージ・ルームに行き、体をほぐす。お次は低温のサウナへ向かい、慣れていれば高温サウナへ行く。そして最後に、プールにつかって体を洗った。

ローマの公共施設の充実度を物語るのがここからで、プールをあがった人は、そのまま帰るのではなく、なんと遊戯室や談話室があるのでそこにも寄る。ほどよい疲労感と清涼感の中で、ローマ市民は友人たちと会話を楽しむのである。お腹が空けば食堂があるのでそちらへ向かい、最悪でも6皿の料理を頂けた。そのうち2皿は、肉料理であったという。もちろん、これらもサービスの一環で、食べても別料金は一切取られない。

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