一方、この「アルクマイオン伝承」もギリシャ悲劇の題材になっていて、エウリピデスに『アルクマイオン』という作品があった。その作品は失われているが、当時は良く知られた作品であったらしく、そのあらすじが引用・紹介などで残されている。
それによると、アルクマイオンは放浪の旅の途中、テバイの有名な盲目の預言者テイレシアスの娘「マント」によって一男一女を得て、これをコリントスの王に預けておいたとなる。この兄妹は成長していくが、その女の子は飛び抜けた美人に育って行ったため、后がヤキモチを焼き奴隷に売り飛ばしてしまった。
一方、旅先で浄められていたアルクマイオンは、知らずしてその奴隷となっていた娘を買い取って、侍女として仕えさせていたという。そしてコリントスに来て、かつて預けておいた子ども達を引き取りたいと申し出たけれど「娘」がいない。こうして色々話が展開して、やがて自分の侍女として仕えていた女が「自分の実の娘」であることが判明して「めでたし、めでたし」となるといった話であった。
アムピアラオスの神域
上にみてきた「アムピアラオス」が、大地に飲み込まれて神となって祭られた場所は「アムピアラオスの神域」とされているが、ここは通常「医療の聖地」として知られており、その予言の術で病気を治す英雄神として、この地で祭られたとされている。
しかし、本来はそれだけではなく、神託そのものとしても有名な場所であったことが、ヘロドトスの記述によって知られる。それによると、あの「リュディアのクロイソス王」の話に関わっているが、クロイソス王が自分の相談所として信頼に値する神託所を求めて試験をしたというのは有名な話になっている。
すなわち、クロイソスは各地の神託所に遣いを出して、一定の時を見計らって一斉に神託所に答えを求めさせた。それはクロイソスの都サルディスにあって、大きな青銅の鍋に羊とカメの肉を切り刻んで、かき混ぜて煮ているクロイソスの姿を当てさせるものあった。それを見事に言い当てたのが「デルポイの神託所」と「アムピアラオスの神託所」であった。その後クロイソスは、この二つの神託所を自分の相談相手としていったと伝えられている。
一方、アムピアラオスの舞台となっていたテバイ攻めの伝説というのは、ホメロスの「トロイ戦争伝説」に先立つ話であるから、このアムピアラオスの神託所のあった土地の由来は相当に古く、おそらくこの地で遥かな大昔から何等かの祭儀があったと考えられる。それが古代ギリシャ時代になって、ギリシャの古い伝承の一つであった「アムピアラオス」に託されて「神域」という形で整理されていったのだと思われる。
他方、ここが「医療の神託所」とされていった理由であるが、ここは海に近くオゾンが豊なばかりでなくきれいな清水が流れ、大体そうした場所は「医療の場所」とされていたから、ここも古くから「医療の祭儀」があったのだと思われる。それはエピダウロスなどの「アスクレピオス信仰」とは独立した、もっと古いタイプのものだったと考えられる。
ギリシャでの「医療施設としての祭儀」は、殆どアスクレピオス信仰という形になっているのに、ここだけが独自の祭儀を持っているのは、その由緒の古さを語るものであろう。こうして、ここは「預言と医療の神託所」とされていったのであろう。
なお医療の預言は「夢判断」だとされているが、これはここだけではなく「アスクレピオス神域」でもそうなので、古代ギリシャ全体の普遍的な医療の特徴であったと考えられる。
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