2023/03/10

ゲルマンの神々(3)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/


「アースの女神たち」

 彼らに次いで「女神」が紹介されていきますが、ここは「12神」とはされていません。彼女たちは全員が物語の中で活躍するわけではありませんが、ゲルマン人が大事とした「職分」のあり方が見えてきますので、以下に列挙していきます。ただ「ヴァンル神族」に属する神で、今は「アース神族」にいるフレイの妹「フレイア」は非常に大事なので、最初に特別扱いで紹介します。

 

「フレイ」

 「エッダ」では六番目に挙げられる「フレイ」ですが、彼女は「主神オーディンの妻であるフリッグに並ぶ、最も優れた女神である」と言われてきます。彼女は「ヴァンル神族」の人質として「アース神族」の中にきたニョルズの娘ですから、普通に考えれば「人質の娘」ということで、地位など最も低いくらいに位置づけられそうなのですが、そうではなく「最高女神フリッグに並ぶ」とされているのは「ヴァンル神族」の重要性を物語っていると考えられます。これは、すでに兄の「フレイ」も同様であり、彼はもっとも高名な神であるとされていましたし、実際重要神として活躍しています。

 

 この事情は、おそらく歴史的な事実として「オーディン」を最高神とする部族が移動して来て「原住民」と出会い、争いの中で和解して融合し、オーディンを神とするゲルマン人が優位ではあるものの原住民も十分なる社会的地位と待遇を受けることになり、その事情が原住民の主要神がオーディンの神体系の中に入れられていったと考えられます。その原住民の主要神が「ニョルズ、フレイ、女神フレイア」だったのだと考えられるわけです。ですから男神の場合は、支配者のシンボルそのものですからオーディンと並ばないまでも主要な神としての地位を得、女神の場合は「並ぶ」とまで形容できるような位置にあったと考えられるわけでした。

 

 その「フレイア」は、戦において生じた戦死者の半分を選び取り、後の半分をオーディンに渡すとされていますから、その権威は大変なものです。ちなみに戦死者はやがて来たるべき世の終末に備えて、この「アース・ガルド」で客分として歓待されつつ武芸に励んでいるのでした。また彼女は貴婦人のシンボルであり、恋愛問題での祈願は彼女にするべきとされています。

 

 こんな事情で、またさらに名前も似ていることから彼女は「フリッグ」と混同されるようになったようでした。しかし少なくとも「エッダ」では、はっきり区別されています。

 

フリッグ

 「エッダ」に戻って、まず最も重要な女神とされるのが、オーディンの妻である「フリッグ」となります。彼女の重要性は「Frigの日」、つまり「Friday(金曜)」に名前が残っていることにも現れています。彼女は予言こそしないけれど、人間の運命をすべて知っているとされます。フェンサリルという、たとえようもない豪華な館に住んでいると紹介されています。

 

ついで「サーガ」といわれますが、彼女については「大きな館」くらいしか言われていません。

 

次に「エイル」とされ、彼女は「医者」だとされます。

 

次が「ゲヴィウン」で彼女は「処女神」であり、嫁入り前に死んだ者が彼女に仕えているとされています。

 

次に「フッラ」で彼女も処女神であり、「女神フリッグ」の世話をし、その秘密にあずかっていると言われます。

 

ここに「フレイア」が挙げられているのですが、彼女は女神の中では最初に紹介しておきました。

 

「シェヴン」という女神は「恋愛」を司るとされます。それ故「恋愛はシアヴニ」と言われるとされます。

 

「ロヴン」という女神ですが、彼女は人間の祈願に対して親切であり、禁じられた愛であっても結びつける「許可」を持っており、それゆえ「許可」というのは「ロヴ」といい彼女にちなんで言われるとされます。

 

「ヴァール」は男女間の誓いを司り、その誓いを破る者に復讐するとされます。それゆえ「取り決めをヴァールと言う」と言われます。

 

以上の三人はいずれも「男女の仲」に関係する神であり、どうもゲルマン人はこの「男女間」のあり方に並々ならぬ関心を持っていたと思われます。

 

「ヴェル」は探求・詮索を好み「聡明」な女神であると言われます。それ故、女性が何か知ったとき「ヴェルになる」という言い回しがあるのだといわれます。

 

「スュン」は館の扉の番をしており、入ってはならぬ者を拒否し、異議を唱える性格を持つとされ、それゆえ人が何か「否認」するときには「スュンがおかれる」と表現されるとされます。

 

「フリーン」はフリッグが守護しようとする者の後見役であり、そのため「身を守ることをフレイニルという」とされます。

 

「スノトラ」は聡明で立ち居振る舞いが上品であり、そのため節度のある人々を「スノトル」と言う、と言われます。

 

「グノー」は「フリッグの使者」として天地を駆けめぐる女神で、そのため高く駆ける者を「グネーヴァル」と呼ぶのだ、と言われます。

 

 以上の8人の女神は「語源の説明」であったことも了解されると思います。ギリシャでも神々の名前が、そのまま太陽や月や虹や曙などの自然事物や現象、また人間の内面、愛とか憎しみとか平和とか勝利とかを表していたわけで、これはむしろそうした事象を神格化したことに由来しているわけです。これは実は「男神」のところでもあって、「ブラギ」という神は雄弁であるとされていましたが、それ故「男であれ女であれ、雄弁な者は男のブラグ、女のブラグと呼ばれる」などと言われていました。

 

 女神については、その他に「ソール(太陽)」という女神、「ビル(月の神マーニのつきそい)」もいる、と「エッダ」は言ってきますが、それより「男神」の紹介のところで言及された「妻」たちの中でも重要なのが抜かされているのが解せません。

 

たとえば「ブラギの妻イズン」ですが、彼女は神々が年取った時に食べなくてはならぬ「リンゴ」を持っていて、それを食べることによって神々は世の終末まで若くしていられるのだ、と語られています。「不老を司る女神」というわけですから、もっとしっかり紹介されてもいいと思うのですがこんな程度でした。

 

敵役

 神々の敵役となる者たちもたくさんおりますが、その中で神々の物語を追うために必ず覚えておかなければならない名前は、次の二人となります。

 

スルト

 まず「灼熱の国のスルト」ですが、彼は世の終末においてこの世界を焼き尽くすとされていて、これは世界の創世の初めからそう運命づけられていたようです。実際この世界が生じてきたのも、この「灼熱」の作用だったわけですから「終わり」もこの灼熱の作用によるというのも筋は通っているわけでした。ですから敵役というより世界の必然のようなものですが、しかし彼が「攻め寄せてきて」世界は燃え尽くすとされています。これに立ち向かった神が「ヴァンル神族」出身で、今は「アース神族」にいる有力神「フレイ」であったわけでした。

 

ロキ

 「ロキ」は先に少し紹介しておきましたが、もともと「アース神族」に先行する巨人神の末裔で「アース神族」に敵対する「巨人神」に属していた神とされ、いきさつはよくわからないのですが今は「アース神族」に属し、気まぐれでひねくれ者であり、神々を助けたり、ひどい中傷をしたり、神を騙して仲間の神を殺させたりといったトラブル・メーカーです。ついに神々の怒りを買って幽閉されてしまいますが、世界の終わりにはここを抜けだし、神々の敵の一軍を率いて攻め寄せてくる「最大の敵」となっていきます。

 

彼に立ち向かったのが、この日に備えてこれまで世界を見張っていた有力神「ヘイムダル」で、二人は相討ちとなりました。彼については、別に一章を割いて紹介します。

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