2023/04/02

主神オーディンとトール等の主要な神々(1)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/

はじめに

 世界を創造した神「オーディン」たちは世界の真ん中に在って世界に君臨し、その一族は「アース神族」と呼ばれました。その「アース神族」の主神が「オーディン」であり、そのほかアース神族を代表するのが「トール」と「テュール」とされて、この三人は英語でそれぞれ「水曜」「木曜」「火曜」に名前を残し、かつては三人ともゲルマン民族の部族ごとの主神であったと考えられるので、ここではこの三人の物語を紹介することにします。その他、先住民族の主神と考えられゲルマン民族に融合していった部族の主神であったと想像される「フレイ」が、このアース神族の中でも大きな地位を占めているので、彼についても紹介しておきます。

 

オーディン

 アースの神々の中で、もっとも年長となる神「オーディン」は、その兄弟と共に作った世界に「王」として君臨することになったわけで、そのためオーディンは「アルファズル(万物の父)」という別名を持ちます。他にもたくさんの名前を持ち、それはさまざまの部族の人たちが、さまざまに呼ぶに応じてのことだとされます。

 

 こうしてオーディンは「万物の父」として、他の神々はすべて子が父に仕えるように彼に仕えると言われ、オーディンの他に超越した地位が言われます。

 

 ここはギリシア神話でのゼウスとは、大きな違いを見せています。この「絶対者」を持つか否かという「民族の精神」の違いは、ホメロスの物語に見られるようにギリシアの「王」が単に「民衆の第一人者」であるにすぎず、やがては「民主制」を生み出していったのに対して、ゲルマン民族は「絶対的君主」を持ち、ピラミッド型の「封建制社会」を完成させたのとの違いとなって現れてくることになります。

 

 彼が住む館は、世界中でもっとも壮麗な館であり(アースの神々の紹介では、その館の立派さがひどくこだわって紹介されていました。この精神は、やがてゲルマン人が支配した西欧で壮大華麗な宮殿が造られていく精神に繋がるようです。他方のギリシアは、神殿や劇場など公共物の建造にはひどくこだわりましたが、私宅にはとんとこだわっていないあり方との違いになっています)、その名前は「グラズヘイム」と呼ばれて極楽のような世界であると言われます。ここに彼はひときわ高く壮麗な座を持ち、その周りには主立った神々のための座が設えられていました。

 

 そして、この館には「ヴァルハラ」と呼ばれる広大な館が付設されており、その館の屋根は「盾」でできており、垂木は「槍の柄」が使われていました。ここに住んでいるのはかつて地上に住み、戦場で勇敢に戦って死んだ英雄・豪傑たちで、ここでは「アインヘルヤル」と呼ばれていました。彼らは選ばれてこの館に連れてこられたのです。すなわち、オーディンは地上で戦いがあるたびに「ヴァルキューレ」と呼ばれる武装した姿の戦いの乙女たちを遣わし、戦場で活躍していた勇士を、時にはわざわざ戦死させてまで連れてこさせるのでした。それは、やがて来たるべき世界の終末戦争に備えるためで、ここで彼らは朝起きると中庭で武術に励んで、そして正餐の席に着くのでした。

 

彼らに供される肉は「セーフリームニル」という特別な猪の肉であり、この猪は殺されて肉料理にされても、また元通り生き返ってしまうので尽きることがないのでした。料理人も特別なら、料理の大鍋も特別なものなので、アインヘルヤルがいくら増えても困ることはないのでした。もちろん「飲み物」も特別で、ヘイズルーンという雌山羊の乳房から絶えることなく流れ出る「蜜酒」でした。給仕を務めるのは、彼らを選んでここに運んできたヴァルキューレがみずから務めていました

 

 どうもこういうのが古代ゲルマン人戦士の理想だったようで、こういう信仰、つまり勇敢に戦って戦死したら神々のもとに招かれて、神々と共に戦う終末戦争のために武術に励むことができ、正餐では美しい少女たちに仕えられて宴会にあって、仲間たちとワイワイやりながら肉や酒をたらふく食らう、というようなあり方です。ギリシアの英雄・戦士たちのモチベーションが「名声・名誉」にあったのと比べ、かなり具体的なのがおもしろいです。

 

 またこの「ヴァルハラ」とか「ヴァルキューレ」とかの名前は、ヴァーグナーの楽劇「ニーベルンゲンの指輪」で有名ですが、この楽劇はこのゲルマン神話を下敷きに中世キリスト教的な物語に仕立てられたものをもとにしたものです。

 

 他方、これはオーディンの主催になる宴会ですから主人のオーディンも当然出席しているわけですが、彼は自分の前に置かれた食べ物はすべて自分のペットである二匹の狼にくれてやるのでした。というのも、オーディンは「ワイン」だけしか口にしないからで、それだけで十分なのでした。

 

 ペットというと、オーディンはさらに二羽のカラスも飼っていて、それはそれぞれ「フギン(考え)」と「ムニン(記憶)」といい、彼らは毎日地上を飛び回ってあらゆることを見て回り、夕暮れ戻ってきて宴席のオーディンの肩に止まって見聞きしたことを報告するのでした。

 

 また彼の馬はというと「八本の足」を持った「スレイブニル」という名前の怪物馬であり、八本の足を使って疾風のように走ることができるのでした。

 

 また、彼の武器は「グングニル」という名前の「投げやり」であり、彼は戦闘の際、真っ先にこの槍を敵に向かって投げつけるのでした。

 

 そして彼は指や腕に「黄金の輪」を着けているのですが、これこそ彼の「王権」を象徴するもので、この指輪と腕輪とは九日目ごとに八つの自分と寸分違わぬ「子」の指輪と腕輪を生み出すので、オーディンの宝物は限りなく増え続けるのでした。

 

 このオーディンは「片目」であることが特徴としてありますが、それは彼が世界を支配するに必要な「英知」を得るため、その知恵を含んでいる「ミーミルの泉」の蜜酒を飲もうと望み、その泉を持つ巨人の「ミーミル」が、その代償としてオーディンの目を要求したために片目を彼に与えてしまったからでした。おかげで彼の片目は今もってミーミルの泉に沈んでいますが、その代わりオーディンは最高の知恵を得ることができたのでした。

 

 また魔力を持つ神聖な文字(文字は古代人にとっては不思議で魔的な力と思われていた。日本でも「言霊」という言い方に、それが現れている)を発明したのも彼であり、そのために彼は自分自身を世界樹に吊し、九日の間飲食を絶って、槍で自分を傷つけ、自らを最高神、つまりオーディン自身に犠牲として捧げるという苦行をしたといいます(ゲルマン民族は、人間を犠牲として木に吊すという習慣を持っていたことが知られ、それをキリスト教がクリスマスツリーに人形を吊すことで昇華させていったとされます)。

 

 またオーディンの息子の「ブラギ」が司ることになった「詩」を、神々と人間のもとにもたらしたのもオーディンでした。彼は巨人のスットゥングが所有していて、その娘グンレズが番をしている「詩の蜜酒」を手に入れたいと願い、蛇に身を変えてグンレズのもとに忍び入り、そこで彼女と三日三晩にわたって床を共にして、その上でグンレズに三口だけでいいから、その「詩の蜜酒」を飲ませて欲しいと願い、グンレズが差し出した三つの容器に入った詩の蜜酒を三口ですっかり飲み干してしまったのです。そして今度は「鷲」に身を変えて、アースガルズに飛び帰ってきて用意されていた瓶の中にその蜜酒をはき出し、これ以降ブラギがその酒を守りつつ、この酒を与えることで神々や人間の世界に詩を広めたのでした。


 真実の詩人というのは、この酒を口にした者なのですが、人間界には真実の一流の詩人の他に二流・三流の詩人がいて、彼らはそのおこぼれを口にしたからなのでした。つまりオーディンが逃げ帰ってくる時、それと気付いた巨人のスットゥングが同じく鷲に身を変えて追いかけてきたのですが、オーディンはそのためにあわてて数滴の蜜酒を口からこぼしてしまったのです。それを手に入れた人間が、二流・三流の詩人になっているというわけでした。

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