2023/04/21

主神オーディンとトール等の主要な神々(2)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/

 トールについては、アース神の中でも最強の神とされていますが、その逸話についてスノッリは他の神々とは例外的に、かなり長く紹介しています。ここでも、それに基づいて紹介してみましょう。

 

 ある時トールは、羊の車に乗って旅に出た。ロキも同乗していた。彼らはある晩、一人の百姓のところにやってきて宿をとった。トールは夕餉のために山羊を二頭とも屠り、皮をはいで鍋で煮た。トールは百姓とその家族も食事に誘った。百姓の息子の名前はスィアールヴィといい、娘の名前はレスクヴァといった。トールは山羊の皮を火のそばに広げて、百姓に骨はその皮の上に投げて置いておくように言った。

 

トールは一晩そこで眠ると早朝早く起き出して衣服をつけ、槌のミョルニルを振り上げて山羊の皮を浄めた。すると山羊たちは生き返って立ち上がったが、一匹の山羊は後ろ足がびっこであった。トールはそれに気づき、百姓の家族のだれかが山羊の骨を丁寧に扱わなかったと知って怒った。これは息子が前夜、山羊の骨をナイフで切り裂き随までこじ開けてしまった、その部分の骨であった。百姓の家族は、烈火のごとく怒って槌を堅く握りしめているトールを見て怖れ、皆で泣いて謝り命乞いをした。トールは、それを見て怒りを和らげ、息子と娘とを自分の従者とすることにして許した。それ以来、二人は常にトールに付き従っている。

 

 トールたちは、そこから東のヨーツンヘイム(巨人族の土地)に向かい、海のところまでくると、その海をわたって上陸した。それからしばらく進むと、大きな森の前に出た。彼らは一日中、その森の中を歩いた。従者となったスィアールヴィは走ることにかけてはだれにも負けない速さを持ち、トールの荷物を担いで歩いた。

 

暗くなって宿を探し、大きな小屋のようなものがあった。小屋の入り口は大きく小屋全体とおなじくらいであった。彼らはそこに入って寝たが、夜中に大きな地震が起きた。トールは立ち上がり手探りで前に進むと、小屋の真ん中の部屋の右手にもう一つの部屋があった。トールはドアのところに座って身構えていた。騒音とうなり声がずっと続いた。夜が明けてトールが外に出てみると、一人の大きな男が寝ていた。男はすさまじいいびきをしていたので、トールは昨夜の物音の正体が分かった。トールは我が身に力を入れようとしたが、その時男が目をさました。あまりに巨大な男であったのでさしものトールも槌を振り上げるのをためらった。

 

 トールは男に名前を聞いた。男は「自分はスクリューミルだ」と名乗ったが、続けて「しかし儂はおまえの名前を聞く必要はない、おまえがアースのトールだということは知っている、だがおまえは儂の手袋をどうしたのだ」

と言って手袋を拾い上げた。そこでトールは昨晩「小屋」だと思ったものが、スクリューミルの手袋であったのだと知った。

 

スクリューミルはトールに一緒に旅していいかと尋ね、同意されると自分の袋から食料を取り出して食べた。トールたちも食事をした。その後スクリューミルは荷物を一緒にしようと言って、皆の荷物を一つの包みにした。こうして彼らは再び歩いていった。夕方になって一本の樫の木の下でスクリューミルは横になると、すぐにものすごいいびきをかき出した。

 

 トールたちは食料を取り出そうと包みをほどこうとしたが、何としても結び目一つゆるむことがなかった。トールは怒り、槌のミョルニルをつかむやスクリューミルに近づいて、その頭に一撃を食らわした。スクリューミルは目を覚まし、「オヤ、木の葉でも落ちてきたのかな」とつぶやくとトールを見て、まだ寝ないのかいと言ってきた。トールたちはやむなく別の樫の木の下で寝たけれど、寝付けるものではなかった。

 

真夜中になって、相変わらずすさまじいいびきをかいて寝ているスクリューミルをみてトールは怒り、再び槌を手にして近づき力一杯脳天に振り下ろした。槌の先が脳天深くめり込んだ。するとスクリューミルは目を覚まし「オヤ、ドングリの実でも落ちてきたか。トール何をしているのだ」と言ってきた。

 

トールはあわててみんなのところに戻った。夜明け前になった。相変わらずスクリューミルは、すごいいびきをかいていた。トールは三度起きあがって槌をつかみ、今度はあらん限りの力を込めて男のこめかみに槌を振り下ろした。槌は柄までのめり込んだ。しかしスクリューミルは起きあがり、こめかみをなぜながら「枝が落ちてきたみたいだな」といったきりで、

 

「さて、目指すウートガルズと呼ばれている城市まではもうすぐだ、おまえたちは儂のことを大男だとしゃべっていたが、そこに行くと儂なんぞよりもっとでかい男たちに会うことだろう。だから忠告しておくが、そこの王であるウートガルザ・ロキという名前の王の従者たちは子供だましが大嫌いだ、だから引き返した方がいい、だがどうしても行くというなら東の方角に行け、儂はあの山を越えて北に行くよ」

 

と言って分かれていった。

 

 トールたちは再び歩き、昼頃になって野原に城が見えた。その高さは、上に目を上げて反っくり返って頭が背中についてしまうほどだった。城に近づくと柵があったが、何としてもそれはビクともしなかった。やむなくトールたちは、柵の隙間から潜り込むことにした。向こうに広間がみえたので近づくと、大勢の男たちがベンチに座り中央にひときわ大きな男がいた。ここの王ウートガルザ・ロキと知り近づいていった。すると王はじろりとトールを見て笑い、

「さてこの若造が車のトールだと思ったのは間違いかな。しかし見かけよりは優れた者なんだろう。とにかく、ここでは何かひとかどの芸で他人にぬきんでていないような者は、いてはならないのだ」

と言った。

 

そこで後ろに控えていたロキが進み出て、自分は食べ比べならだれにも負けません、と言った。それをきいて王は、それでも芸には違いない、ならば試してみようと言って、ベンチに座っていた男たちの中から「ロギ」という名前のものを召し出した。そして、そこに長い樋が置かれてたくさんの肉が入れられた。二人はそれぞれの端に位置して、合図とともにその肉を猛烈な勢いで食べていった。そして、ちょうどその樋の真ん中のところで二人は鉢合わせしたけれど、ロキは肉だけを食べており骨は残していた。一方のロギは肉や骨ばかりか、肉が置かれていた樋まで平らげていた。ロキの負けであった。

 

 ウートガルザ・ロキは、もう一人の従者の男であるスィアールヴィに向かって、おまえは何ができるのか、と聞いた。そこでスィアールヴィは「駆け比べ」ならと答えた。王は「それは立派な技だ、よほど自信があると見える」と言うと「フギ」という少年を召し出した。二人は競技場に行き、合図と共に走り出した。しかしフギは決勝点に入って、スィアールヴィを振り替えるほどの余裕を持っていた。王は二回目の競技をさせた。今度は大差であった。王は満足そうに「この男もなかなかよく走る、だがとても勝つ見込みはないだろう」と言って、そしてさらに三度目となったが、フギが決勝点に入った時スィアールヴィは半分にも達していなかった。

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