2024/04/05

カレワラ(フィンランド神話)(3)

登場人物

カレワラには、実に多くの名前が登場する。なかには一度だけ登場するものもあり、何度もあちこちに顔を出すものもある。人間のように扱われているものもあれば、神、あるいは精霊として扱われるものもある。なお、カレワラでは口調を整える目的もあり、固有名詞に対してお決まりの簡潔な形容が二つ名前のようにつく例が多い。以下、各論において名前の後の「」がそれである。訳は参考にあげた岩波文庫版(小泉訳)による。

 

神的なもの

神として名が出るのはウッコである。

 

ウッコ

「至高の神」 フィンランド語で ukkonen は「雷」のことで、ウッコは老人の姿をした雷神でもある。

このほかに明確に神として名の出るものはいない。

 

明らかに人間ではなく、より神に近い存在としては、大気の乙女や水の乙女として時々姿を現す女性たちがある。イルマタルの他にも、例えば鉄の起源の呪文にも3人の乙女が、その乳を零したものが鉄となったとの言葉がある。

 

イルマタル

ワイナミョイネンの母。「大気の乙女」であったが、海に降りて彼を生んだ。

悪魔に近い扱いをされているのがヒーシである。

 

ヒーシ

本来は犠牲を捧げる森のことであったらしいが、次第に人の近寄れない森、恐ろしい場所、と云ったふうに意味が変わり、人に悪さをする存在を意味するようになったようである。

 

人間的なもの

主要な登場者は、人間のように描かれながらも超人的な能力をもつ。特に全編を通じて主役格を張るワイナミョイネン、イルマリネン、レンミンカイネンは、人びとの中で人間のように暮らし、嫁を求めたりするが、普通の人のできないことを行い、時には多くの人間を率いて活動する。この範囲では人間の中の英雄と見ることができる。他方で魔法の力などにおいては超人的なものがあるが、この物語の中では一般の人びとも魔法を使うから、特に非人間的特徴と見なすことはできない。

 

しかし、例えばイルマリネンは天の覆いを打ち出したと言われるように、この三者の業績とされるものには創世に関わるような神の業に近いものが含まれている。これらについては、カレワラを神話と見るか、伝説と見るかで判断が分かれる。前者的な立場で見れば、これらの登場者は神であり、自然現象などの象徴であると見なせる。後者の立場に立てば、これらの人物の多くは人間であり、実在の人物や複数の人物を元に創造されたものと考えられる。実際にはこのどちらであるかは論の分かれるところが多い。

 

ワイナミョイネン [ワイナモイネン、ヴァイナモイネン](Väinämöinen):「強固な老ワイナミョイネン」「不滅の賢者」

白い髭を長く伸ばした逞しい老人である。広大な知識と魔法の力を持ち、大胆で判断力にも優れる。多くの伝承や呪文の中で最大の英雄である。また歌の最後に彼の言葉として教訓がつく例が多い。語源的にはワイナは、「深く、静かに流れる川」の意であること、彼が海中で生まれ、大渦巻きに姿を消すことなどから、「水の主」という性格を読み取る向きもある。世界の創造も、元の伝承では彼によるものである。

 

イルマリネン (Ilmarinen):「不滅の匠」

鍛冶屋で、壮年。鍛冶屋としては特別な腕をもち、天の覆いを打ち出したと言われる。カレワラの中ではサンポを鍛えた他、ワイナミョイネンなどが必要な道具を彼に作ってもらうシーンが多い。魔法の腕も優れている。しかし、やや軽はずみな面があり、作ったものが役に立たない場合(月日、黄金の花嫁など)もあった。神的性格としてみると、ワイナミョイネンが水の神、イルマリネンは天空の神に当たるとする説もある。

 

レンミンカイネン (Lemminkäinen):「かのむら気なレンミンカイネン」「端麗なるカウコミエリ」

若者である。男前で、武術の腕も、魔法の腕も特級、そのうえに女たらし。しかもわがままで身勝手、そのためにあちこちで騒ぎを起こし、災難にも会う。本来の伝承中ではそれほど出番が多いわけでなく、カレワラ中の彼に関する物語は、他の名のもとで伝えられたものを集めたものらしい。

 

クッレルヴォ (Kullervo)「カレルヴォの息子」「老人の青い靴下の息子」

ウンタモに滅ぼされたカレルヴォ一族の女が、ウンタモのところで産み落とした男子。飛びきり力に優れるが、まともなことが絶対に出来ない。これは、彼が正しい育て手の下で育てられなかったからである。クッレルヴォの物語は、本来はカレワラのそれ以外の部分とは孤立していたものであるが、彼が殺した主婦をイルマリネンの妻にすることで、リョンロットがカレワラの中にうまく取り込んでしまったものである。また、壊れた刀を親の形見とした部分もリョンロットの創作であり、その結果、クッレルヴォは粗暴で残虐な人物から悲劇の主人公へとその姿を変えている。

 

彼は力がありすぎるのに、それを使う知恵が育っていない。だから船をこげば櫂受けを壊し、船を壊すし、網打ちをすれば網ごと粉砕する。しかし、これは彼が悪いだけでなく、まわりのものも悪いのが示されている。彼が「力の限り漕いで良いか(網打って良いか)?」と問うのに「力の限りにやれ」と答えているが、これが間違いであるのは、後の章でレンミンカイネンがワイナミョイネンに同様な問いかけをしたとき、ワイナミョイネンは「状況に合わせて力を出せれば十分」と答えているのでわかる。

 

ヨウカハイネン (Joukahainen)

吟遊詩人にして狩人。アイノの兄。

 

アイノ (Aino)

ワイナミョイネンとの結婚を強いられた娘だがそれを拒み、海に身を投じる。

 

ロウヒ (Louhi)

ポホヨラの女主人。強大なる魔女。

 

キュッリッキ (Kyllikki)

レンミンカイネンの妻。誘拐まがいの結婚劇であった。

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