2025/02/08

ミクロネシアの神話伝説(2)

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【テルケレルとテムドクルの「眼」】

天上界では、番人のテムドクルが盗まれてしまったために誰でも直接ウチェルの宮殿に入り込んでくるので、ウチェルは大弱りです。急いで部下のチェリッド(精霊)達を集め、7人の精鋭を選んで「無事にテムドクル奪回するまで決して帰ってこないように」と厳しく言い渡します。

 

チェリッド達は、奪回の準備としてココナツを焼きます。なぜそんなことをするかというと、精霊は皆、焼いたココナツが大好きで、うまく焼いておけば目的地に近づいたとき、緑色のトカゲの精霊が出てきて道案内をしてくれるからです。

 

準備の整った彼らは地上へと向かい、パラウ中を探し回りました。やがて、ンガレケブクルの村に差しかかったとき、ココナツの実が割れて中から緑のトカゲが飛び出し、森の中へと入っていきます。チェリッド達は急いで後を追い、まず到着したのがテルケレルの母、ミラッドの家です。ミラッドはチェリッド達が、ココナツの実にはさんだ焼き魚が大好きであることを知っており、彼らにそれを出して歓待しました。

 

大変満足したチェリッド達はとうとう、テルケレル達のいるバイの前に到着し、そこにテムドクルが安置されているのを発見します。ところがなんということ、テムドクルの眼が無くなっているではありませんか。これではもう、番人とするわけにはいきません。しかも、その「犯人」はミラッドだということです。実はテムドクルが天上に持って行かれないように、ミラッドが気を利かせて眼を取り去っておいたのです。

 

チェリッド達は、ミラッドの家に戻りましたが、ついさっきあれほど歓待してくれたので怒るわけにもいかず、彼女にこう告げます。

「テムドクルの眼を盗まれた我が王ウチェルは大層、お怒りだ。次の新月までに、地上に大洪水をもたらすだろう、とりあえずお前だけに予告しておく。」と言って去っていきました。

 

予告通り、新月を待たず大雨が降り始め、島は大洪水となります。ミラッドはテルケレルと協力して、大きないかだを作っておいたためにとりあえずは無事でしたが、他の人々はみな溺れてしまいました。ところが、いかだを大きなパンの木にくくりつけておいたロープが短かすぎ、いかだは転覆、ミラッドもとうとう溺れ死んでしまったのです。

 

結局、テムドクルの眼は、テムドクルにも天上にも戻らず、パラウの島のどこかに残りました。その後、この「テムドクルの眼」は小さく分けられて最近までパラウの通貨となり、大変高価なものとして珍重された、ということです。

 

また、テムドクルの石像は1870年まで実際にンガレケブクルに存在しており、その年、ドイツの学者がこれを持ち帰って、今ではStuttgartのリンデン博物館に収蔵されているそうです。

 

【テルケレルと命の水】

ミラッドを失ったテルケレルは大変悲しみ、天上に出かけていって7人のチェリッドに彼女が死んだことを告げると共に、何とか生き返らせることはできないかと相談します。

 

チェリッド達にとっても彼女の思い出は優しいものであり、何しろ地上で唯一の女性になってしまっているので、放って置くわけにはいきません。早速、テルケレルと一緒に地上に降りると、樹上に引っかかっていた彼女を取り下ろし丁寧に寝かせます。「これは命の水が無いとだめだな」とチェリッド達。

 

彼らはすぐに天上に戻ると、王ウチェルに頼み込んで命の水を分けてもらいます。それをタロの葉で大切にくるむと、もと来た道を引き返します。ところが、その道の途中にはハイビスカスの植え込みがあり、焦っていた彼らはその植え込みに足を取られてあろうことか、命の水をこぼしてしまったのです。そのせいで今でもハイビスカスは、どんな小さなかけらからでも木が育つようになり、逆に人間は必ず死ぬという運命になってしまったのです。

 

チェリッド達は再び宮殿に戻り、王に命の水をねだりますが、ウチェルは怒っていて水をくれません。そのかわりに、と言ってウチェルがくれたのは魔法の石でした。

「この石をミラッドの身体の中に入れておけば、彼女は不老不死になるから」と。

 

と、その話を近くで聞いていたのが、へそ曲がりの精霊タリードでした。彼は人間のような奴に、不老不死の力が渡るのが面白くありません。そこで家来のうみつばめに命じて、帰路についた7人のチェリッド達を攻撃させます。その攻撃はあまりにも執拗だったため、とうとう我を忘れたチェリッドの1人が命の石を、うみつばめ目がけて投げつけてしまったのです。当然、命の石もうみつばめもいなくなってしまいました。

 

チェリッド達は途方に暮れます。しかし

「地上で唯一の女性のミラッドにはどうしても生き返ってもらい、新しい部族の先祖になってもらわなくては」との思いは強く、彼らは再び宮殿に戻りました。ウチェルは当然、怒り爆発です。「お前達のような大馬鹿者は、もう二度とここに来るな」と、けんもほろろで追い返されてしまいました。

 

なすすべなく地上に戻ったチェリッド達。道ばたにしゃがみこんで、どうしたらいいかを相談します。と、そのとき、チェリッド達の1人にデレップ(失われた魂)という精霊がいることに気づいた1人が

「そうだ、君はもともとカラダが無いのだから、君がミラッドの中に住んでしまえばいいんだ!」とアイデアを出します。

 

デレップは、最初はいやがりましたが、他に方策も無く

「わかった。僕がミラッドの中に入ることにする。でも、それは午前と午後だけだ。昼と夜は、僕だって自由の身でいたいからな。」というわけでどうなったか?

人間は、夜は必ず眠り、昼は必ず昼寝をするようになった。ということです。

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