2025/02/18

ミクロネシアの神話伝説(3)

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ここでは、マーシャル諸島から東カロリン諸島で語り継がれている、半神、トリックスター「エタオ」の物語をご紹介します。

 

トリックスター(trickster)とは創造的で破壊的、いいところもあれば悪いところもあるという、功罪半ばする半神のことを指して言われます。普段はいたずら好きで悪いことばかりしてますが、いざとなると頼りになるという、結局なんだかんだいいながら人気のあるモチーフのようです。ハワイ、あるいは広くポリネシアのトリックスターといえばマウイが有名ですが、ミクロネシアにも、このトリックスターの神話がいくつか伝わっており、これもその1つです。

 

エタオ(Etao)とは、マーシャル語でそのものずばり「いたずら者」という意味です。(Letao、と書かれることもあるようです)

彼は変身が得意で、ハンサムな男にも美女にも老人にも、あるいは魚にも果物にも化けることができたので、その技を使ってしょっちゅう人々をからかって楽しんでおり、そのせいかマーシャル諸島では、何か悪いことが起きるとたいてい「エタオにやられた」というひどい言われ方をしているようです。

 

【エタオと怪物鮹】

昔、ある村にレロランという大変村人思いの村長がいました。ある日のこと、村の沖合に怪物蛸が出現し、村人を襲うようになってしまいました。レロランは、カヌーにいっぱいの食料を積んで単身沖に出ます。食料を海にばらまきながら鮹をおびき寄せ、陸に上げて捕らえようという作戦です。

 

何度かの失敗の後、レロランはうまく鮹を陸におびき寄せることに成功しました。しかし、なんということ。鮹は陸に上がっても全く弱ることなく、レロランに向かって来るではありませんか。慌てたレロランは、エタオの小屋に飛び込んで助けを乞います。

 

エタオは昼寝をしていましたが、話を聞くと

「そりゃ面白そうだ。お前は梁の上にでも隠れて見てろ」

と、泰然自若。やがて入り口に鮹がやってきて

「今ここにレロランが逃げてきただろう?」と訊ねます。

 

「いや、そんな男は知らん。まあ上がってゆっくりしていけ」とエタオ。

「俺は腹が減っていてレロランを喰いたいんだ。そんなヒマはない。」

「まあ遠慮するな。ゆっくり歌でも歌おう。俺は歌が好きでな。」

「何だと?(怒)」

「ほらもう日が暮れる。歌うにはいい時刻だ。まあちょっとだけでも」

「しようがないな、じゃあちょっとだけ」

「そうこなくちゃ。じゃあ、まず、お前さんからどうぞ。」

「何だと?(怒)。俺は疲れてるんだ。お前から先にしろ。」

「いやいや、それは礼儀に反する。お客様からだ。」

 

鮹は仕方なく、あろうことかレロランが鮹を捕まえに来たときに歌っていた歌などうたいます。エタオがそれに応えて歌ったのが子守歌。ココナツの葉をゆりかざしながら「あー眠いー、まぶたが重いー」などと歌い、その抑揚のきいた声で鮹はとうとうウトウトしはじめ、ついに眠りに落ちてしまいました。

 

「おいレロラン、降りて来い、手伝え。」と、エタオ。怪物鮹はいろんなところに毛が生えており、エタオとレロランは協力してその毛をエタオの小屋の柱にくくりつけ、また、一部は互いに撚り合わせて身動き取れなくしてしまいました。そして最後に小屋に火を付け、怪物蛸を小屋ごと燃やしてしまったのです。

村人は、レロランが無事に帰って来たことを喜び、安心して漁に出られるようになりました。

 

【エタオの母】

エタオには、ジェメリウットという名前の兄がいました(Jemeliwut:虹の意)。また、彼らの母親はリジョバケ(Lijobake:高貴な亀、の意)という名前の亀の女神で、遠く離れたBikar環礁近くの海底に住んでいました。Bikarというのは、マーシャル諸島のはずれにある海鳥と海亀の楽園のようなところで、その砂浜は彼らと彼らの卵で埋め尽くされているようなところです。

 

ある日、エタオは兄さんと一緒に母親を訪ねに行くことにしました。道のりは随分遠く、彼らの喉はからからです。やがてBikarに到着、母親も喜んで海底から姿を現します。

「母さん、喉が乾いた、何か飲み物は無い?」

と、ジェメリウット。リジョバケは海底に住んでいながら、真水が好きでしたので、ちょっと待ってなさい、というと小屋の中から器に入った水を持って来ます。

 

ところが、その器も水もずいぶん薄汚れており、ジェメリウットは「こんなもの飲めないや」というと、器をそのまま返してしまいました。ところがエタオは、「じゃあ僕がもらうよ」と言うやいなや、目をつぶって一気にその水を飲み干してしまったのです。

 

・・・母親は彼らに、それぞれお土産に自分の甲羅の一部を持たせました。

しかし、エタオには彼女の肩のあたりの美しい甲羅を持たせ、ジェメリウットには尻尾の当たりのあまり美しくないところをあげたのです。まあ、気持ちの問題ですね。エタオはその上、生と死すらコントロールできる不思議な力を母親から授けられたのです。

 

エタオが何にでも変身できる技を持つことができるようになったのは、このときからだと言われています。しかし、母親は、このとき魔術だけ授けて、聡明さや親切さを授けるのを忘れてしまったために、エタオのいたずらは歯止めがなくなってしまった、ということです。

 

【エタオ、火をもたらす】

エタオとジェメリウットは、一緒にマーシャルの島々を訪ね回っていました。そんなある日、彼らはリキエップ島に到着しました。彼らはたいそうお腹が減っていましたが、釣り具を持っていません。誰かに貸してもらおう、と考えていました。

 

最初に出会った男に頼んだところ「自分のを使えばいいじゃないか」とケンもホロロです。その後何人かに頼みましたが、誰も見知らぬ2人に釣り具を貸してくれようとはしません。「そういうことか。それならば」とエタオは怒って人々をコネの木に変えてしまい、エタオが許すまで2度と動けなくしてしまいました。

 

2人がなおも暫く海岸を歩いていくと、子供達が釣りをしているのが見えました。しかしながら1匹も釣れていません。「ちょっと釣り竿を貸してごらん」とエタオ。エタオはたくさんの魚を釣り上げ、みんなに分けてやります。気分が良くなった彼は、釣り具を貸してくれた少年に

「いまからとっても不思議なことを教えてあげよう。火の起こし方と調理の仕方だ。君は、リキエップで最初に火をおこすことができる人間になれるんだ」

 

そのころリキエップでは誰も火の起こし方を知らず、皆、魚を生のままで食べていたのです。

というわけで、エタオは少年に火の起こし方と、ウム(蒸し焼き)料理の作り方を教え、ついでに火種にした石を魚籠に入れて持たせてやります。

少年は走って家に戻り、両親にこの大ニュースを伝えました。ところが、魚籠に入った火種はその後もくすぶり続け、やがて家に燃え移って全焼してしまったのです。

 

少年は泣きながらエタオのところに戻って「何もかも燃えちゃったじゃないか!」。エタオは笑いながら「心配するな。家に戻ってごらん」。実際、少年が家に戻ってみるとあら不思議、家はもとのまま建っているではありませんか。・・・このときから、リキエップ島では、みんなが自由に火を使えるようになたっということです。

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