2013/05/17

新体制(プロジェクトD)(12)

こうしてN氏は、地元の北海道に逃げて行った。

 

N氏の代わりにLBチームのリーダーとなったのは、これは東京本社から出向となったK氏だ。

 

見たところ、年齢はN氏よりは少しばかり若い40台半ばくらいか。

 

「娘の入学式に出るため北海道に帰省するので、本番リリースには出られない」

 

などとトンチンカンなセリフは、口が裂けても吐きそうにない生真面目なタイプだ。

 

ただしスキルという点でいえば、LBやネットワークだけでなくほぼオールマイティだったN氏には、足元にも及ばなそうだった。そもそも、N氏ほどの技術的な下地がないだけでなく、すでにプロジェクトも本番移行を意識するような佳境に入った段階で、いきなりの抜擢だ。スキルが高そうに見えなかったK氏にとっては突然に降って湧いたように、この大プロジェクトの大変な局面に投入されたことで、かなりパニックに陥っている状態らしかった。

 

参画当初こそ

 

「一応、私はこれまでNさんの代理的な立ち位置でやってきたので、わからないことがあれば聞いてください。なにしろ、Nさんは肝心な時にいつもトンズラしてたんで、私が代理をしないといけなかったわけですが・・・」

 

と、こちらとしては気を利かせたつもりだったが、なにやら上から目線と勘違いされたか、質問もせずに間違ったことを繰り返すK氏だった。

 

最初こそ

 

「Kさん、それは違いますよ・・・」

 

などと、こちらも好意でレクチャーしていたのだが、K氏の場合はN氏のように圧倒的なスキルに裏打ちされた自信がないせいか、恰も

 

「C社課長のオレ様が、どこの馬の骨かわからんやつの指導を仰げるか」

 

とでも考えていたのか、こちらには聞かずに独断で迷走した挙句、間違いを繰り返していた。

 

前任のN氏は、圧倒的なスキルに裏打ちされた余裕があり、また自分としても本人から三顧の礼を尽くす形で迎えられていただけに、代理もやむなしという意識があったが、K氏の場合はC社の社員でもないワタクシが大きな顔をして(いるように見えていたようだ)いるのが、どうにも気に入らないらしい。

 

K氏がマネージメント力に優れているのであれば、それはそれでよかったのだが、どうもそっちに関してもN氏には遥かに及ばなかった。ましてや、これだけの大プロジェクトを回した経験も、あまりなさそうなのは明白だった。

 

考えてみれば、一応「上場企業の課長」とはいえ、この急場に投入されて来たくらいだから、この時点では大した仕事は受け持っていなかったのだろう。どこから見ても自分より劣っているのは明らかだったのに、変にプライドが高く人の言うことを素直に聞かないから、こっちとしても

 

「だったら好きにやってろ!」

 

と、次第に投げやりな気持ちになっていった。

 

当然ながら、その状態でK氏はミスを繰り返し、T社のマネージャーからはこっ酷く嫌味を言われる。

 

T社マネージャーとしても、サブリーダーだったワタクシがN氏の代わりとは認めず「C社の課長以上の人を出せ」とリクエストした手前、いまさらワタクシにK氏のフォローをしてくれとは言い出し難いようだった。また、前任N氏の場合は、さしものマネージャとはいえ自分よりもスキルが上だと認めるところもあったろうし、会社の格は自分の方が上と言っても相手も上場企業の「部長」であり、恐らく年齢も上だけに幾らかの遠慮があったが、K氏は同じ「課長」だから明らかに格下と見たか、K氏への扱き下ろし方は容赦がなかった。

 

こうしてT社マネージャに虐められるうちに、ようやく現実に目覚めたK氏は

 

「にゃべさん、ちょっと教えてください・・・」

 

と聞きに来るようになったが、時すでに遅し。これまでの態度が気に喰わなかった腹いせもあり、自分では意識せずともつい皮肉っぽい口調になってしまっていたらしかった。

 

勿論、K氏が聞きに来る程度のレベルなら、そのころのワタクシに答えられないことは殆どなかったから、我ながら

 

「ああ、思えば僅か半年くらいだが、気付けばなんでもわかるようになっていたんだな・・・」

 

という感慨を新たにしたくらいである。

 

こうした背景も手伝ってか、K氏からは困った果ての必要最低限以下の質問しかこなかったが、こちらとしてはN氏とは違いK氏などはハナから歯牙にもかけていなかったから気にもならなかった。

 

そうこうするうち、これではうまくプロジェクトを回していけないと危機感を持ったか、はたまた煩いT社マネージャーからのプレッシャーがあってか、C社からスキルもそれなりにありマネージメントも多少はできそうな、主任クラスを2名引っ張ってきた。

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