この現場は、当初から「ボタンの掛け違い」があったのだ。こちらとしては面接でも、当初からあくまで「マネージメント希望」の意思を強く伝えていた。ユーザーの大手SIerは、過去に2度ほど面接に行っていたが、やはり「SIer」だけあって技術的な要求が高かった。
その時の感触から
(やはりSIerでの仕事は、自分には向かない)
と考えていた(「SIer」とは「System
Integration」の略称「SI」に「~する人」を意味する「-er」をつけて「System Integrater」とした造語である。System Integrationとは、個別企業のために情報システムを構築することであり、戦略立案から、企画、設計、開発、運用・保全までトータルに提供する SIerもある)
それだけに今回話があった時も、即座に断りを入れていた。が、知り合いの営業U氏から
「断わってもいいので、とにかく面接だけでも行ってくれないか」
と熱心に請われ
(まあ、行くだけなら)
と、重い腰を上げたのが間違いだった。
窓口となっているU氏の会社と元請との間には1社が入っていた。その営業には、面接前に
「自分はあくまでマネージメントが希望であり、実作業は希望していない」
とハッキリ意思を伝えた上で、元請の営業と合流する。
元請営業との引き渡しの際、中間会社の営業が
「最近の経歴としてはマネージメントが中心であるため、本人はあくまでそのようなポジションを希望しており、実作業は希望していない」
と伝えたが、元請の営業は
「それを私に言われてもねー。面接の場で、ユーザーの担当者に直接伝えてほしい」
と言われた。
担当(部長と次長)の説明では、やはりCiscoルータやスイッチなどNW機器の構築がメインの仕事であり、その辺りを中心に過去の経歴を話して欲しいということだったが、そんな注文に構わず
「ここ数年はPMOなどマネージメントをメインにやってきているので、細かい実作業はしばらくやっていないし希望もしていない。希望は、あくまでマネージメントである」
ことを声高に宣言してきた。
(こりゃ、確実にNGだな・・・)
と苦笑いしつつ、またむしろ自分の方から辞退の連絡をしようかと迷っているところで、即座に営業のU氏から
「先方からは、是非お願いしたいとの回答が来ました」
という予想外の結果が出てしまった。
こちらとしては、やはり
「結局のところ、実作業をやらされるのではないか?」
というのが最も気がかりなところだから、再度自分の希望を伝えた上で認識違いがないか確認して欲しいとU氏に頼んだ。あくまで実作業が中心なら、辞退するつもりだった。
確認の結果は
「改めて確認しましたが、希望はちゃんと伝わっていますよ。N社は大きな会社なので、案件がたくさんあります。なので、実際に案件にアサインする場合に、その都度相談して進めていくそうで、案件によっては多少は実作業をやってもらうこともあるかもしれませんが、あくまでマネージメントをメインで考えている」
という、上位会社からのメールを転送してきた。そうしてU氏の強い勧めもあり、遂に入場を決めた。
現場リーダーのO氏は、非常にスキルが高い人物で
「メンバーには、スキルの高いのがいない」
というのが口癖だった。そのO氏に、面接した部長や次長からどのように話が伝わっていたかは定かではないが、どこで話が捻じ曲がったのかO氏からはやけに期待されている様子だった。
「スキルの高い人には、それにあった案件を担当してもらわないと」
ということで、某大手証券会社のリプレース案件の担当にアサインされる。ここで最初に、ユーザー担当からヒアリングを受けた際にも
「自分はマネージメントが得意だが、実作業はあまり好きではない」
と、やはりハッキリと伝えておいた。ところが実際の仕事はといえば、来る日も来る日も「Config作成、修正、チェック」ばかりだ。
手順書作成は自信があったが、ここで作る手順書というのは
「実行、確認するConfigが、素人でもわかるレベルで書かれていなければならない」
という技術的な細かい仕事ばかりであり、また悪いことにユーザー側の担当者が「エキスパート」の肩書を持つ人物で、レビューなどの指摘は実にうんざりするほどに詳細を極めた。
これまで担当してきた工程は、主に要件定義や基本設計といった上流工程だったから、ここでやるような詳細設計や構築といった下流工程は原則ベンダーがにやっていた。が、今回は自分がその「ベンダー側」に回っているだけに、戸惑うことが多かった。 これまで使ってきた立場から、おおよそどのようなことをやるかは想像がついていたものの、想像以上に詳細を極めた。が、技術的なことは簡単に考えているらしいリーダーのO氏は
「最初は誰も戸惑いますけど、こんなものは1回やればすぐにできるようになりますよ。 これまでと違うというのも、いい経験になって良いでしょう?」
などと、どこか面白がっているようなところがあった。
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