現場では、どうしたわけか上手い具合に隣の席のむさ苦しい男が、常に暇を持て余していた。この時は、ちょうど担当する案件がなかったらしく、ちょこちょこと色々な担当者の手伝いをしていた。
このK氏は、毎日判で捺したように定時の17時半になると帰っていく。17時を回ると、そわそわと帰り支度を始めるのである。一度など、17時過ぎにある担当者から
「ちょっと手伝ってもらえませんか?
急ぎで、今日中にやって欲しい」
と頼まれ時などは、目に見えて不機嫌になった。
「手伝うのはいいけど、なんでこんな時間になってから言ってくるんだ!」
と、ぶつくさと文句を垂れながらも、それでも18時前には仕上げるとそそくさと帰って行った。それは傍目にも、いい加減な「やっつけ仕事」であるのが歴然だった。とはいえ普段はいつも暇そうにしているから、この男に手伝ってもらうことにした。
スキルが低くて遊んでいるのではなく、案外と高いスキルを持っていた。最初はわからないところを教えてくれという程度だったが、隣席の誼で言葉を交わしていくうちに次第に親しくなっていった。ちょこちょこと質問したり手伝いを頼んでいたが、そのうちに
「暇だから、手伝いましょうか・・・」
と言ってくれたのを幸い、主に細かい技術的なところを任せていた。
K氏の場合、元々ベンダー畑が長いだけに、Config作成など詳細設計は得意のようだった。そのころには、既に口は悪いが気さくなタイプの現場リーダーとも、かなり親しくなっており、喫煙場で
「Kさんが暇そうにしてるから、手伝ってもらってますよ」
と告げると
「Kさんですか・・・自分は苦手なタイプですよ・・・」
と苦虫をかみ殺すような表情をしていた。毎日、判で捺したように定時の17時半になると誰よりも早く帰っていくK氏が、リーダーには気に食わなかったらしい。
「いつも親切に手伝ってくれるし、いい人だと思うけど」
と言うと
「どうせ暇なんだろうから、手伝ってもらうのはいいですけど・・・あまり彼のことは信用しない方がいいですよ。バイト感覚で来ているような人だから・・・」
などと、ボロクソに扱き下ろしていた。
ともあれK氏の働きもあって、証券系の案件はなんとかうまく完了することができた。 実際には「K氏の手伝い」というより、途中からはK氏をメインにして自分はフェードアウトしていた。これを機に
「やはり、自分はこのような細かい作業は向いていない」
と契約の切れ目で終了を希望し、あっさり認められると思ったものの、案に相違して延長依頼が来てしまった。
何をトチ狂ったか、普段から面と向かってボロクソに扱き下ろしてきた現場リーダーに評価されていた模様だ。面接を担当した上司の部長や次長は本社勤務で、現場には滅多に来なかったから、正しい評価はリーダーしかできないのである。
所属会社を通じて
「契約の切れる9月で退場とさせてもらいたい」
と宣言したが
「ぜひ、継続してもらいたい・・・」
というトンチンカンな回答が返って来た。そうは言っても、契約は契約だ。
「求められるスキルが合わず、契約切れ目なので終了とさせて欲しい」
と上位会社に告げたが
「あくまで長期前提の契約であり、また前の案件は気に入らないというから、今度は希望通りのマネージメント案件をアサインした。これで、スキルが合わないということはないはずだ」
と、相手も譲らなかった。
が、こちらとしてはあくまで「契約切れ目」で辞めるつもりで、転職活動を開始する。まずは大手携帯キャリアへ面接に行くと、これまたマネージメントで希望を出していたにも関わらず、実態は100%実作業のワーカーだった。
「とにかく人手が足らなくて困っていまして・・・幾つかのチームがあって、好きなところでいいですから、是非とも協力願いたい・・・」
と懇願せんばかりだったが
「方向性が違いますね。自分はマネージメント希望であり、そう聞いてここへ来たのですが・・・」
と、辞退のハラは固まっていた。
その場で断ろうかとも思ったが、面接担当の部長が
「是非とも、来ていただきたいと思っています。なにとぞ、よろしくお願いします」
と、やけに頭が低く、また間に入ったF社長の立場も考慮し
「ひと晩考えて、所属経由で回答します」
と、その場は逃げておいたが、実際には面接開始直後から辞退のハラは決まっていた。帰りの道中も、間に入ったF社長から
「あれだけ熱心に誘われたことでもあるし、私としても是非ともやっていただきたいが・・・正直なところ、どんな感じですか?」
と聞かれたので
「正直言って、お伝えしている通り自分はマネージメント希望なので、あのような実作業は希望していません」
と、辞退の意思を伝えた。
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