2016/02/10

執念(小説ストーカーpart6)

●ラッキーボーイの場合
 これは、どう考えても絶対に「偶然」ということは考えられない。
 
 認めたくはないが、最早あの「タコ坊」は明らかに「明確なる意志」を持って、こちらと同じ電車の同じ車両に乗ってくるということが、間違いなく証明されたと言える。
 
 そこまでは明らかだが、なんといっても不気味なのは
 
 「なぜそうまでして、あの「タコ坊」がこちらと同じ電車を狙って、乗ってくるのか?」
 
 の動機やら目的が、サッパリわからない点にあった。
 
 これが、こちらが絶世の美少女だとか、或いは顔の売れた有名人いうのならまだしも理解できるが、残念ながらこっちはまったく無名な一市民に過ぎない。
 
 しかも、れっきとした男である。
 
 こう言うと
 
 「相手に、ホモっ気があったんじゃないか?」
 
 などと、勘ぐられるかもしれない。
 
 当時のラッキーボーイが、脳ミソのスカスカなジャニ系タレントなど問題にならないような、知性の滴るイロオトコだったと仮定してみようか。
 
 にしても気楽な自由業のこちらとは違い、真面目に働いていそうな分別盛りの中年男が、わざわざ電車の時間を1時間以上もずらしてまで、同乗しようなどという酔狂な真似をするものだろうか? 
 
 という疑問は、やはり拭えない。
 
 第一、そこまで入れ込んでいたとしたら、様子などからしてなんらか怪し気な気配でもありそうなものだが、見たところ「タコ坊」がそのようなヨコシマな恋心に憂き身を窶しているようにはまったく見えず、繰り返すように仮面を被ったように毎度「世にも面白くなさそうな不景気な顔」を続けていたのである。
 
 それはそれで安心すべきかもしれないが、そうなると結局また最初の疑問に戻ってしまい、この「タコ坊」の不可解なストーカー行為を説明する理屈に思い当たらないという、実になんとも厄介な状態であった。
 
 どんなしつこい嫌がらせでも、その意図や狙いがハッキリしていればまだ対処のしようもあるだろうが、それがサッパリわからないのだから、これほど厄介かつ薄気味の悪いことはなかった Ψ(ーωー)Ψ
 
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●忍の場合
 ふっふっふ・・・ラッキーボーイったら、もう諦めたら?
 
 私から逃げようたって、そうはいかないよ。
 
 でもねぇ・・・彼って、変わってるの・・・
 
 あのわけのわからない行動って、一体なんなんだろう。
 
 毎日のように時間もメチャクチャなら、乗る車両もメチャクチャだし・・・
 
 ひょっとして、変人?
 
 でも考えてみれば、仕事が忙しければ帰る時間は毎日ずれたりするだろうし、車両も毎日変えたりする人ってのも案外いるのかな?
 
 そうそう、気付いたんだけど、車両を変えるといっても大体、後ろの方に乗るのよね。
 
 6用編成なら4両目以降、8両だと5両目以降と決まってるから・・・あれって多分、前の方に乗ると、彼の降りる駅で沢山歩かないといけないとかじゃない?
 
 どっちにしても、彼の行動パターンが読めた私は、ホームの最後尾の方で目を凝らして監視していればいいだけ。
 
 ここなら絶対に見逃すことはないし、なんとかダッシュで間に合う距離だしね。
 
 8両の場合の5両目はちょっときついけど、ダメなら乗ってからでも移動するしかない。
 
 移動するにしても、あれだけの混雑だから近い車両じゃないとね。
 
 そう、私はたとえ足が攣っても諦めない!!

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