2016/02/17

妄執(小説ストーカーpart7)



●ラッキーボーイの場合
 さて、ここまでこの物語を読んできた読者の中には、もしかすると
 
 「タコ坊がストーカーなんかじゃなくて、単なる被害妄想じゃないのか?」
 
 といった疑いを持っている人も居るのではないか?
 
 世間一般によく見かける例として、もてない女性に限って「痴漢だ!」と騒ぎたてることがよくあるらしいが(?)、あの手の被害妄想的な勘違いに過ぎないのではないかと。
 
 ところが残念ながらそうではなく、これは厳然とした客観的事実なのである。
 
 それを証明するのがデータであり、前にも触れたようにあれだけ時間や車両を意図的にずらしたのにも関わらず、同じ車両に乗車している確率は80%以上であり、さらにはそれが1ヶ月程度のことでなく、数ヶ月単位という期間に渡り延々と続いたのだから、これで「ストーカー認定」しない人間が居たら、よほど鈍感であるとしか言いようがない
 
 元々、かつてオトコマエと言われ(?)、また喫茶店やレストランなどに入ると、それまで空いていたのが決まって客がドッと増えてくるような、集客体質の強い「ラッキーボーイだけに、電車に乗っていてもさりげなく近寄ってくるヤツがいて辟易したものだったが、それにはそれなりの常識的な節度があったからまだしも、コヤツに限ってその厚かましさは我慢の限界を超えていた
 
 同じ車両に乗っていたとしても、向こう向きで顔が見えなかったり、或いは時には離れたところに立っていればまだ許せるが、コイツに限っては常に半径数メートル内(こちらの立ち位置は、毎日同じでないのに!)に陣取り、あの世界の不幸を一身に背負ったような不景気で陰気な顔を、常にこちらに向けていたのである。
 
 時には珍しく向こうの方にいたと思っていても、次第に混雑してくるにつれて押し出されたような格好を装いながら、気がついた時には常にさりげなく傍にきているのだから、その気色の悪さは最早G並みのレベルに達していた (-o-)ノ ┫
 
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●タコ坊の場合
 まったく、彼女の執念深さには呆れた。
 
 あんなかわいい顔して、どこにあんな執念が・・・世の中には、恐ろしいストーカーが居たもんだ・・・あ、オレも人のことは言えんか。
 
 まあオレの方は彼女が熱中している分、こっちのストーキングがまったくばれないのは幸運と言えたが。
 
 それにしても、あそこまで彼女に追っかけられるラッキーボーイ野郎、まったく心底羨ましい限りだぜ!

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●ラッキーボーイの場合

 
毎日にように電車に乗っていれば、機嫌のよい日や悪い日もある。
 
 虫の居所の悪い時などは
 
 「アンタはなぜ、人に付き纏うんだ?」
 
 と文句を言ってやろうかと考えたこともあったが、言ったところで「知らぬ存ぜぬ」で惚けるに違いないから、時折ガンを飛ばすくらいが関の山である。
 
 そうした際の「タコ坊」は、あの例の不景気そうな表情でそ知らぬ風を装っていて、決して挑戦的な態度を見せることがなかった。
 
 むしろ挑戦的な態度で、向こうからもガンを飛ばし返してくるようであれば、それはそれで日頃の鬱憤を晴らしてやれるチャンス到来というところだったが、幸か不幸かそこはあくまで「分別臭いオジサン」なのだ。
 
 このようにして乗車時間をずらしたり、車両を変えてみたりと考え付く手は色々と試しながらも悉く空振りに終わったのだから、これ以上は有効な手立ては見つからなかった
 
 しいて言えば特急に乗る時に限っては座席指定だから、あの嫌な顔を付き合わせることはなかったくらいである。
 
 とはいえバカ高い無駄な特急料金が発生するから、こんなものを日常的に利用できるわけがない。
 
 次第に「なんであんなヤツのために、こっちがペースを変えなければならんのか」という思いも手伝い、時間や車両を変えたりすることもなくなったため、依然として「タコ坊」は当然のような顔(?)で、同乗を続けていたのである。
 
 こうして、内心では多大なる不快感と不気味さを抱えながらも、これといった効果的な策も思い浮かばないまま、虚しく月日が経過していった。

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