口語訳:七人の少女たちが高佐士野を遊んでいたが、伊須氣余理比賣もその中にいた。大久米命は彼女の姿を目に留めて、歌で天皇に
「きれいな女の子が七人もいますぜ。どの子がいいですか」
と訊ねた。
この時、伊須氣余理比賣は少女たちの先頭に立って歩いていた。天皇はざっと見て、先頭の少女が際立って美しいと思い、歌で
「そうだな、まあ取りあえず、先頭にいる少し年長の子にしておこうか」
と答えた。
そこで大久米命は、天皇が嫁に欲しいと言っていることを、伊須氣余理比賣に告げた。彼女は驚いたが、大久米命の目が黥(いれずみ)で鋭い目つきになっているのを奇妙に思い
「鳥のように、千鳥のように、どうしてそんなに鋭く黥(さ)けているの」
と歌で質問した。
大久米命は
「あなたの美しい顔をはっきり見ようとして、こんなに裂けているのですよ」
と歌って答えた。
すると伊須氣余理比賣は「お仕えいたします」と言った。
この時、伊須氣余理比賣の家は狭井河のほとりにあった。天皇はその家に行って、一夜を共に明かした。<その河を狭井河と言ったのは、川のほとりに山百合がたくさんあった。そのため山百合の名を取って狭井河と言った。山百合はもともと「狹井」と言ったからである。>
口語訳:後にその伊須氣余理比賣が后として宮に入った時、天皇が最初の出会いの頃を懐かしんで
「昔は粗末な小屋だったけれど、菅畳を清らかに敷いて、二人で寝たものだなあ」
と歌った。
そうして生まれた御子が日子八井命、次に神八井耳命、次に神沼河耳命である。<三柱である。>
口語訳:天皇が死ぬと、御子たちの庶兄の當藝志美美命は伊須氣余理比賣を犯し、弟の御子たちを殺してしまおうと謀った。伊須氣余理比賣は苦慮して、歌を詠んで御子たちに知らせた。その歌は
「狹井河の方から、雲が湧き起こる。畝火山では木の葉が騒いでいる。風が吹こうとしているようだ」。また「畝火山は、昼は雲が覆い、夕べになれば、風が吹こうとしているのか、木の葉が騒ぐことだ」。
御子たちはこれを聞いて、その意味を知り、驚いて當藝志美美を殺してしまおうと思った。この時、神沼河耳命は兄の神八井耳命に
「お兄さん、武器を持って當藝志美美の部屋(寝所)に入って、殺してしまいなさい」
と言った。
そこで神八井耳命は武器を持って當藝志美美の部屋に入ったが、いざ殺そうとすると、手足がぶるぶる震えて、殺すことができなかった。そのため弟の神沼河耳命が兄の持っている武器を受取り、部屋に入って當藝志美美を殺した。そこで彼の名を称えて「建沼河耳命」とも言う。
口語訳:その結果、神八井命は弟の建沼河耳命に位を譲って
「私は敵を討つことができなかった。だがあなたは見事に敵を討った。私の方が兄だと言っても、人の上に立つべきではないだろう。あなたが上に立って、天下の政を執れ。私はあなたを助けて、齋人として仕えよう」
と言った。
口語訳:その日子八井命は、茨田連、手嶋連の先祖である。
口語訳:神八井耳命は、<意富臣、小子部連、坂合部連、火君、大分君、阿蘇君、筑紫三家連、雀部臣、雀部造、小長谷造、都祁直、伊余國造、科野國造、道奧石城國造、常道仲國造、長狹國造、伊勢船木直、尾張丹羽臣、島田臣等の先祖である。>
口語訳:神沼河耳命は天下を治めた。
口語訳:この神倭伊波禮毘古天皇は、死んだ時百三十七歳だった。陵は畝火山の北、白檮の尾の上にある。
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