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黄金の羊の毛を求める海洋冒険物語、イアソンとメデイア
「アルゴー船物語」にも、ヘラクレスは主要な乗組員として登場する。したがって時代設定としては、同時代ということになる。この物語は、全体的には「黄金の羊の毛」を求めて、ギリシャから黒海の奧にあるコルキス(現在のグルジア)まで、50人の英雄が旅していく非常に長い「海洋冒険物語」であり、後のホメロスによる叙事詩『オデュッセイア』はこの物語を下敷きとしていて、同じ話が少し設定を変えて頻繁に出てくる。
1.
主人公となるイアソンは、イオルコスの王の息子であったが、王国はあくどい叔父のペリアスに乗っ取られていた。
2.イアソンは成長して王国の奪回をはかるが、ペリアスに黄金の羊の毛の奪取を条件に出される。
3.イアソンは、黄金の羊の毛をコルキスに持っていったプリクソスの息子であったアルゴスに助けを求めて招いた。
4.アルゴスは、女神アテネの進言によって五十の櫂を持つ船を建造し、女神アテネはその船首に(ゼウスの神託所である)ドドネの人語を話す樫の木の材質を付けた。この船は、建造者の名前を取って「アルゴー」と呼ばれた。
5.神託を乞うたところ、ギリシャの最も優れた者達を集めて出航するようにとあった。集まって来た者達の中で、とりわけ有名な者に以下の英雄がいる。
ヘラクレス;ギリシャ最大の英雄豪傑として、数々の冒険物語がある。
オルペウス;有名な音楽の名手として、一般にもよく知られた伝説を持つ。
カストル;有名な双子座となる英雄で乗馬の名手。
ポリュデイケス;後にカストル共々、双子座となる英雄でボクシングの達人。
カライスとゼテス;北風ボレアスの息子達で、足の踝に翼を持つ。
6.イアソンを隊長として出航して、レムノス島に寄港した。アルゴー船の乗組員はレムノス島の女達と交わり、イアソンはヒュプシピュレと交わって二人の息子をもうけた。
7.キュジコス王が支配するドリオニアに立ち寄り歓待された。夜になって出航したところ、逆風にあって再びドリオニアに戻され、敵襲と思われて戦闘になり、キュジコス王は殺される。夜が明け、この事実を知ったアルゴー船の英雄は嘆いて、髪の毛を切り(大きな嘆きを表す風習)、キュジコスを立派に弔った。
8.その後、彼等はミュシアに立ち寄ったが、ここで誤ってヘラクレスとポリュペモスを置き去りにしてしまう。
9.ベブリュクス人の地に来る。そこの王はアミュコスといい、この地に立ち寄る男に強いて拳闘を行い、殴り殺していた。その王の挑戦ポリュデイケスが受けて立ち、逆に王を撃ち倒す。
10.トラキアのサルミュデソスに行く。ここに盲目の予言者ピネウスがいたが、怪鳥ハルプゥイアイに悩まされていた。
11.北風の神ボレアスの息子達であるゼテスとカライスが、これを追って倒した。
12.ピネウスはアルゴーの一行にこれからの道を教え、大岩が漂ってぶつかり合い船の航行ができない海峡について教示した。ここは深い霧がかかって、鳥でも抜けられないとされていた。ピネウスはここで一羽の鳩を放ち、もしその鳩が無事通り抜けたならそこに船を入れて良いよいが、駄目だったら諦めろと教えた。
13.鳩を放ったところ、鳩は尻尾の毛を挟まれたが何とか通り抜けた。そこで一行も岩が離れたのを見て取って、急ぎ船を漕いで突進していった。女神ヘラの助けもあって、アルゴー船は通り抜けることができたが、船尾を挟まれて切り取られてしまった。それ以来、定めによってこの岩は動かなくなった。
14.マリアンデュノイ人のところに来たが、そこで予言者イドモンが猪に襲われて死に、名航海士ティピュスもいなくなってしまった。
15.コルキスの地に辿り着き、イアソンはそこの王アイエテスに「黄金の羊の毛」を譲ってくれるよう頼む。
16.王は、凶暴な青銅の足を持ち口から火を噴く牡牛を一人でくびきに繋いで畑を耕し、そこにテバイ建国の英雄カドモスが退治した龍の歯の残りを蒔くよう命じた。この龍の歯から凶暴な戦士たちが産まれ、それと戦う必要からであった。
17.王の娘であったメデイアが、彼に恋をした。彼女は魔法が使えた。メデイアはイアソンに、自分を妻とするなら助けようと約束した。
18.イアソンが承諾すると、メデイアは刀によっても火によっても害されない薬を渡し、それを身体に塗るように教えた。こうしてイアソンは、火を噴いて向かってくる牡牛をくびきに繋ぐことができ、龍の歯を蒔くと凶暴な戦士が生えてきた。イアソンは、メデイアに教えられていたように彼等の間に隠れて石を投げつけると、彼等は互いに争い始め、その隙にイアソンは彼等を倒していった。
19.アイエテスは約束を守らず、アルゴー船に火をつけ、一行を皆殺しにしようとした。
20.それを知ったメデイアは、イアソンを黄金の羊の毛のあるアレスの神域に連れて行き、番をしている龍を薬で眠らせそれを奪い、アルゴーの一行と夜の間に出航していった。
21.この時、メデイアの弟が彼女に付いて来ていた。アイエテスはアルゴー船の出航に気付いて、船で追いかけて来たのでメデイアは弟を八つ裂きにして海に投げた。アイエテスが、それを拾って集めているうちにアルゴー船は遠くまで逃れていった。
22.アルゴー船の方は、メデイアの弟殺しを怒ったゼウスによって嵐に遭った。
23.アルゴー船は人語を発して、キルケ(ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物として有名な魔女。このキルケとメデイアは「叔母・姪」の関係とされている)によって、メデイアの弟殺しの罪を浄めてもらわなければゼウスの呪いは解けないと言ってきたので、キルケのところにやって来てメデイアを浄めてもらった。
24.セイレン(これもホメロスの『オデュッセイア』に登場して有名で、上半身は女性、下半身は鳥の妖精ないし妖怪。その音楽を聴いた者は立ち去ることができなくなる)の傍らを通る。「音楽の英雄オルペウス」が対抗して歌を歌い、乗組員を船にとどめたが、一人だけセイレンに負けてそちらに向かって泳いで行ってしまった。
25.カリュブデスとスキュラと浮き岩の海峡のところに出る。(ここも『オデュッセイア』で、よく知られているところ)
26.太陽神ヘリオスの島の傍らを通り、パイアケス人の島にくる。ここの王アルキノオスに歓待される(『オデュッセイア』では、オデュッセウスが最後にたどり着いた島で、そこで王女ナウシカに会い、アルキノオス王のおかげで帰還できた)
27.アルゴー船を追っていたコルキスの追跡隊が偶然パイアケス人のところに来て、アルゴー船を発見しアルキノオス王にメデイアの引き渡しを求める。
28.王はメデイアがすでにイアソンと夫婦の契りをしているのならば、それはイアソンのものであるが、もしまだ処女のままだったら父の元に送り返そうと言った。アルキノオス王の后のアレテは、イアソンとメデイアを一緒にしたのでコルキス人はメデイアをコルキスに連れ帰ることを諦めめ、この地に住むことにした。
29.イアソンたちはメデイアと共に出航していったが、夜になって激しい嵐に遭遇したため、近くに島を見つけてそこに避難した。
30.クレタ島に近づいたが、その地を守るタロスによって上陸を妨げられた。タロスというのは青銅人で、このタロスをメデイアが倒した。
31.アイギナにやって来て、水汲みのことで争ったりした後、エウボイア島と本土の間を通ってイアルコスへと戻ってきた。全航海四ヶ月であった。
32.イアソンは黄金の羊の毛をペリアスに渡したが、王国を返すというペリアスの約束は果たされなかった。
33.イアソンは、アルゴー船をコリントスの外れのイストモスに運んでポセイドンに捧げ、メデイアに復讐の方法を求めた。メデイアは、ペリアスの娘達に若返り法を教えると言って、騙して殺させてしまった。
34.ペリアスの息子は父を埋葬すると、これまたイアソンをイオルコスから追放した。
35.コリントスに亡命したところ、王クレオンはイアソンと自分の娘との結婚を申し出、イアソンはメデイアを離婚し王の娘と結婚することを承諾する。
36.絶望と憤怒のメデイアは、新婦に毒を仕組んだ着物を贈って、新婦は父と共に烈火に包まれて死んだ。またメデイアは、イアソンとの間にできていた子ども達を殺し、太陽神ヘリオスから送られて来た馬車に乗って、アテナイへと逃れていった。
37.イアソンは失意のうちにアルゴー船の傍らで休んで居た時、朽ちた船首が落ちてきて撃たれて死んだ。
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