2024/02/02

ムハンマド(6)

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ムハンマドの登場

 今は世界中に広がっているイスラムですが、生まれたのは7世紀のアラビア半島です。

 当時のアラビア半島の人々は、どんな暮らしをしていたのか。

 アラビア半島の住民は、アラブ人が大多数です。セム語系の人たちです。

 当時かれらは国家をつくっていません。民族としても全然まとまっていません。部族単位の暮らしをしていた。

 

 暮らし方も多様でした。ラクダの遊牧民、小規模農業、隊商貿易などです。アラビア半島の西側、紅海に面した方ですが、ここはインド洋と地中海を結ぶ交易ルートになっていて、隊商貿易の商人たちが都市をつくっていた。

 

 宗教は多神教でした。土着の神様を、それぞれ信仰していたようです。また、ユダヤ教やキリスト教も商人によって伝えられていた。

 

 このアラビア半島にメッカという町がある。隊商貿易で栄えていた町で、住民も商人が多い。この町で生まれたムハンマド(570?~632)が、イスラム教をつくるのです。

 ムハンマドは、マホメットという呼び方の方が有名ですが、ムハンマドで覚えてください。

 

 ムハンマドの父親はメッカの商人でしたが、ムハンマドが生まれる前に旅先で死んでしまう。母ひとり子ひとりですが、母親も6歳の時に死んでしまって、ムハンマドはお祖父さんのもとに引き取られます。そのお祖父さんも8歳の時に死んで、今度は叔父さんのもとに引き取られる。

 

 要するにムハンマドは孤児で、親戚の間をたらい回しにされるという幼年時代を送ったのですね。叔父さんも隊商貿易に従事する商人で、ムハンマドは幼いときから叔父さんのキャラバンについていった。雑用をしていたんでしょう。そのまま成長して、ムハンマド自身も隊商貿易の商人となりました。

 

 メッカに、かなりの財産をもったハディージャという女性がいた。未亡人のハディージャはお金を出して、商人に隊商貿易をさせて儲けていたんですが、ある時、ムハンマドが彼女に雇われて隊商貿易を取り仕切った。

 ムハンマドの仕事ぶりを気に入ったんだろう。このあと、ハディージャはムハンマドに求婚しました。

 

 逆玉です。財産のないムハンマドには、おいしい話だ。ところが一つ問題があった。年齢です。このときムハンマドは25歳。ハディージャは40歳。常識的に考えて、バランス悪いです。もし、このシチュエーションで結婚したら、財産目当てだと思われる。

 ムハンマドは非常に普通の発想をする人だから、財産目当てなどとほかの商人たちに思われたくはないし、逆に自分を婿にしてただ働きさせるつもりじゃあないか、と疑うわけです。そこで、人を介してハディージャの真意を尋ねた。結局、ムハンマドはハディージャが真剣に自分を愛しているということを確信して結婚します。

 

 二人の間には子供は産まれたけど、男の子はみんな死んでしまう。跡取りの男の子をつくるために何人も妻を持ってもよいんですが、ムハンマドはそういうことはしない。ハディージャが死ぬまで、他の妻を迎えなかった。仲の良い夫婦として過ごしていたようです。

 

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イスラム教の成立

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 結婚後のムハンマドは、メッカの商人の旦那として不自由のない生活を送るようになった。そのあとは何事もなく日々は過ぎて、ムハンマドは40歳になった。

 

 ムハンマドは趣味があった。瞑想です。メッカの近郊にヒラー山という山がある。暇があるとムハンマドはヒラー山に登り、何日も洞窟にこもって瞑想をするのです。

 

 ある日のこと、いつものようにムハンマドが山のなかで瞑想をしていると、いきなり異変が起こった。金縛りにあったように身体が締め付けられて、ぶるぶる震えてきたんです。そして、目の前に大天使ガブリエルが現れて、ムハンマドに向かって「誦(よ)め!」と迫った。

 ムハンマドは、今自分に起こっていることがなんなのかわからない。恐怖でいっぱいで、「誦めません!」と抵抗した。

 

 「誦む」と訳しているのですが、この「誦む」という字は「声に出して読むこと」なのです。朗々と歌うように読むことをいう。大天使ガブリエルというのは、ムハンマドがあとあとになってそう解釈したもので、その時点ではなんだかわかりません。

 

 とにかく、訳の分からない魔人のようなのが「誦め!」という。その手には文字を書いた何かを持っていたんだろう。ムハンマドは字が読めなかったらしい。だから、「誦めません!」というのですが、そうすると大天使ガブリエルは、さらにムハンマドの身体をぐいぐい締め付けて「誦め、誦め!」と責める。

 

 苦しさのあまりに、口を開いて声を出したら、誦めた。

 

 すると、自分を締め付けていたわけのわからない力が、スッと抜けてガブリエルも消えて、ムハンマドはもとの状態に戻ったのです。

 ムハンマドは、あわてて山から降りて、ハディージャの待つ我が家に帰った。とにかく怖かったのです。

 当時、砂漠にはジンと呼ばれる悪霊がいると信じられていた。砂漠で道に迷って死んだりする商人がいると、ジンにとりつかれたんだといわれていた。そこで、ムハンマドは、自分にもその悪霊がとりついたんだと考えたんだね。

 

 ムハンマドは、この体験をはじめは誰にもしゃべらない。自分の胸にそっとしまっておく。しゃべって変に思われるのを怖れたんじゃないかと思う。ところが、それ以後何回も同じような体験をするんですね。とうとう、ムハンマドはハディージャに打ち明けた。

 これこれ、こんなふうに悪霊に取り付かれて、俺は気が変になっているんじゃないだろうか、とね。ハディージャは「大丈夫よ、あなたは変じゃないわ。」と言ってなぐさめた。

 

 それ以後もムハンマドに何かがとりつく、ということはしばしば起きるのね。その時に聞こえてくる声を、ムハンマドはハディージャに伝えるようになる。ハディージャも、ムハンマドの身に起こっていることが何なのか、だんだん気になってきます。

 心配になったハディージャは、物知りのいとこに相談するんですが、このいとこはアラブ人には珍しいキリスト教徒だったのです(一神教に詳しかっただけで、キリスト教徒ではなかったという説もあります)。

 

 相談を受けたいとこは、「ムハンマドみたいな声を聞いた奴は、昔から何人もいたんだよ。」と答えた。「たとえば、アブラハムだろ、ノア、モーゼ、イエス、預言者といわれた人たちは、皆同じような経験をしたんだ。」とね。アブラハムというのは旧約聖書に出てくる有名な人物です。

 ハディージャは「そうか!」と安心して、その話をムハンマドにする。ムハンマドもその話を聞いて、胸にストンと落ちるものがあったんだろうね。自分が陥っている事態をそういうものとして受け入れた。

 

 そういうものというのは、つまり、自分に聞こえているのは神の声で、自分は神の声を授かるもの「預言者」である、ということです。

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