●巫女の予言:世界の起源と終焉
世界の起源と終局は『詩のエッダ』の中の重要な一節『巫女の予言(ヴォルヴァの予言)』に描かれている。
これらの詩には、宗教的な全ての歴史についての最も鮮明な創造の記述と、詳述されている最終的な世界の滅亡の描写が含まれている。
この『巫女の予言』では、ヴァルハラの主神オーディンが、一度死んだヴォルヴァ(巫女)の魂を呼び出し、過去と未来を明らかにするよう命じる。
巫女は、この命令に気が進まず
「私に、そなたは何を問うのか?
なぜ私を試すのか?」
と述べる。
彼女はすでに死んでいるため、オーディンに対する畏怖は無く、より多くを知りたいかと続けて嘲った。
しかしオーディンは神々の王としての務めを果たす男ならば、すべての叡智を持たなければならないはずであると主張する。
すると巫女は過去と未来の秘密を明かし、忘却に陥ると口を閉じた。
●始まり
北欧神話においては、生命の始まりは火と氷で、ムスペルヘイムとニヴルヘイムの2つの世界しか存在しなかったという。
ムスペルヘイムの熱い空気がニヴルヘイムの冷たい氷に触れた時、巨人ユミルと氷の雌牛アウズンブラが創り出された。
ユミルの足は息子を産み、脇の下から男と女が1人ずつ現れた。
こうしてユミルは、彼らから産まれたヨトゥン及び巨人達の親となる。
眠っていたユミルは後に目を覚まし、アウズンブラの乳に酔う。
彼が酔っている間、牛のアウズンブラは塩の岩を嘗めた。
この出来事の後、1日目が経って人間の髪がその岩から生え、続いて2日目に頭が、3日目に完全な人間の体が岩から現れた。
彼の名はブーリといい、名の無い巨人と交わりボルを産むと、そこからオーディン、ヴィリ、ヴェーの3人の神が産まれた。
3人の神々は自分たちが十分に強大な力を持っていると感じ、ユミルを殺害する。
ユミルの血は世界に溢れ、2人を除くすべての巨人を溺死させた。
しかし巨人は再び数を増やし続け、すぐにユミルが死ぬ前の人数まで達した。
その後、神々は死んだユミルの屍体で大地を創り、彼の血液で海・川・湖を、骨で石・脳で雲を、そして頭蓋骨で天空をそれぞれ創りだした。
更にムスペルヘイムの火花は、舞い上がり星となった。
ある日、3人の神々は歩いていると2つの木の幹を見つけ、木を人間の形へ変形させた。
オーディンはこれらに生命を、ヴィリは精神を、そしてヴェーは視覚と聞く能力・話す能力を与えた。
神々は、これらをアスクとエムブラと名づけ、彼らのために地上の中心に王国を創り、そこを囲むユミルの睫毛で造られた巨大な塀で、巨人を神々の住む場所から遠ざけた。
巫女は、ユグドラシルや3柱のノルン(運命の女神)の説明に進む。
巫女は、その後アース神族とヴァン神族の戦争と、オーディンの息子でロキ以外の万人に愛されたというバルドルの殺害について特徴を述べる。
この後、巫女は未来への言及に注意を向ける。
●終局(終末論信仰)
古き北欧における未来の展望は、冷たく荒涼としたものであった。
同じく北欧神話においても、世界の終末像は不毛かつ悲観的である。
それは、北欧の神々がユグドラシルの他の枝に住む者に打ち負かされる可能性があるということだけでなく、実際には彼らは敗北する運命にあり、このことを知りながら常に生きていたという点にも表れている。
信じられているところでは、最後に神々の敵側の軍が、神々と人間達の兵士よりも数で上回り、また制覇してしまう。
ロキと彼の巨大な子孫達は、その結束を打ち破る結果となり、ニヴルヘイムからやってくる死者が生きている者たちを襲撃する。
見張りの神であるヘイムダルが、角笛ギャラルホルンを吹くと共に神々が召喚される。
こうして、秩序の神族と混沌の巨人族の最終戦争ラグナロクが起こり、神々はその宿命としてこの戦争に敗北する。
これについて既に気づいている神々は、来たる日に向けて戦死者の魂エインヘリャルを集めるが、巨人族側に負け神々と世界は破滅する。
このように悲観的な中でも、2つの希望があった。
ラグナロクでは、神々や世界の他に巨人族もまたすべて滅びるが、廃墟からより良き新しい世界が出現するのである。
オーディンはフェンリルに飲み込まれ、トールはヨルムンガンドを打ち倒すが、その毒のために斃れることになる。
最後に死ぬのはロキで、ヘイムダルと相討ちになり、スルトによって炎が放たれ「九つの世界」は海中へと沈む。
このように、神々はラグナロクで敗北し殺されてしまうが、ラグナロク後の新世界ではバルドルのように蘇る者もいる。
ただし、ラグナロク後の展開は解釈や資料によって異なり、異版では新たな世界が生まれることなく、世界が滅亡するというものもある。
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