2024/11/28

アイヌラックル (アイヌ神話)(2)

アイヌラックルは、アイヌ伝承の創世神話における英雄神で、アイヌ民族の祖とされる地上で初めて誕生した神。アイヌ語で「人間みたいな神」という意味。エピソードを通じて人々の日常生活を支える多くの品々の起源が語られることから、アイヌ神話の上での文化英雄の役割を持つ。オイナ、オイナカムイ、オキクルミなどの別名でも伝えられている。

 

名称

文化英雄・人文神としてのオイナ(oyna)またはアエオイナカムイ(Aeoynakamuy)は、アイヌラックル(Aynurakkur)、オキクルミ(Okikurmi)とも呼ばれている。

 

アイヌラックルのrak"~匂いのする"の意味で、すなわち「アイヌラックル」のは"人の匂(い)の人""人間らしいひと"の意と説明される(金田一京助)。クル kur は厳密には""の意であるが、他の解説をみると"人間の匂いがする神=半神半人の神"(久保寺逸彦)、"人くさい神"などと語釈されている。

 

オイナカムイは、直訳すれば"伝える(神)"であるが、知里は"巫術を行う神"の意であると語釈している。

 

「アエ」という接頭語は"我ら"を意味するもので、アエオイナカムイは"我々がそれを伝える(神)"と直訳される。文法的な説明では、「アエ」という代名詞的接辞をもちいた「オイナカムイ」の活用形 だとされる。

 

オキクルミは"裾のきらきらする(皮/毛皮の)衣を身につける神"の意である。

 

コタンカルカムイ

創造神コタンカルカムイ(kotan-kar-kamuy)も、結局アイヌラックルと同神だと知里真志保は結論づけているが、土地によっては別個の神々で兄弟とされている。

 

コタンカルカムイは、別名をサマイクル("託宣を云う神")等(北海道の中東北部から樺太)と呼び、オキキリマという神より優位("オキキリマの方は事毎にその下風に立つ")とされているが、北海道南西部(胆振・日高の沙流郡)では、サマイウンクル、サマュンクル等と呼ばれ、立場逆転してオキクルミより劣位(その同伴者)とされている。

 

伝承

アイヌの神話や伝説は、口承で伝えられてきたため、伝承地や伝承者によってさまざまな差異があり、このアイヌラックル(オキクルミ)の伝説に関しても、定説というものは存在しない。 ここでは、アイヌラックルの伝説のパターンの一つとして、釧路の山本多助エカシの記した「アイヌ・ラッ・クル伝」に収録の伝承を紹介する。

 

家系

母親は天上から最初に地上に降りた女神、ハルニレの木の精霊でもあるチキサニ姫。ひとつの伝承によると、父親は日の神で、単にチキサニ姫を美しいと思ったことから、その神慮が作用して姫がアイヌラックルを妊娠したとある(日の神はそのとき、火の女神が左手にラルマニ姫、右手にチキサニ姫をとってお供にさせている様子を窺っていた)。異説では父親は天上界で一番の荒神である雷神カンナカムイであった[要出典]

 

アイヌラックルの妻は天上の高位の女神、白鳥姫レタッチリ。

 

誕生

かつてまだ大地に動植物も人の姿も何もない頃、神(カムイ)の何人かが大地に降り立ち、世界を作り始めた。神々が大地に降臨したときには既に、混沌とした大地から悪魔や魔神たちが生まれていたが、神々は魔神たちから大地を守りつつ、世界作りに努めた。

 

天上の神々は、この地上の様子に大変興味を持っていたが、その中で雷神カンナカムイが地上を見下ろすや、地上にいるチキサニ姫に心惹かれ、たちまち雷鳴と共にチキサニの上に降り立った。

 

雷神の荒々しい降臨によってたちまちチキサニは火に包まれ、数度の爆発の末、燃え盛る炎の中から赤ん坊が誕生した。これがカンナカムイとチキサニとの間に産まれた子、アイヌラックルである。アイヌラックルは、地上で誕生した初めての神だった。

 

幼年期

天上界の神々は地上に神の子が産まれたことを知り、ただちに養育の準備に執りかかった。まず幼い神の子を育てるための砦を地上に築き、養育役には太陽の女神が任に当たった。

 

チキサニは我が子の誕生後、6日間燃え続けた末に消滅してしまったが、その炎は絶やされることなく、養育の砦の囲炉裏に入れられ、生活の中心として用いられた。

 

やがて地上世界が完成し、動植物や人間(アイヌ)たちができあがると、神々は人間に言葉を教え始めた。知恵を身につけた人間たちは、神の子の養育の様子に倣い、それまでの洞窟生活をやめて家を建て、生活用具を作り、火を生活に用いるようになった。

 

少年期

神の子は元気な少年神へと成長を遂げ、地上で人間の子供たちとよく遊び、共に仲良く生活していた。この頃から彼はいつしか、神の子でありながら人間同様に暮す者として、アイヌ語で「人間くさい神」「人間と変わらぬ神」を意味する「アイヌラックル」の名で呼ばれるようになった。

 

アイヌラックルと子供たちとの交流の中、網、弓矢などの生活道具が発案され、それらは人間たちの生活において欠かせないものとなった。

 

青年期

ある雨の日にアイヌラックルは、養育の女神に大事なことを告げられた。

 

それは、アイヌラックルがもうすぐ16歳となって成人すること、神であるアイヌラックルは人間を指導する重要な役割を担っていること、争いを起こす人間は魔物同然として厳重に罰しなければならないこと、成人後の婚約者として天上では既に白鳥姫が選ばれており、後に姫が地上に降りて来ることだった。

 

この頃には、かつて地上に蔓延っていた悪魔や魔神たちは、地底の暗黒の国へ身を潜め、地上には平和な日々が続いていた。

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