2025/03/11

ミクロネシアの神話伝説(5)

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【ギルバート諸島(キリバス)】

昔、世界に「テ・ボマテマキ」と呼ばれる闇しかなかった頃、創造主であり蜘蛛の神でもあるナレアウが水と土をこね合わせてナ・アチブという最初の半神と、ネイ・テウケという最初の人間を創り出しました。面白いのは、ネイ・テウケという「人間の祖先」が、鮹の神とか波の神とか海蛇の神などの神を創り出したそうです。

 

また創造主ナレアウは、原初の木から花を摘み、その花びらをサモアの北の海に撒いたところ、花びらからタラワ島、ベル島、タビテウエア島など、ギルバートの島々ができあがった、という伝説もあります。

 

【グアム】

かつて世界は水しかなく、その中を巨人プンタンと、妹のフウナが歩き回っていました。ある日のこと、プンタンは自分の死後のことについて、フウナに次のような遺言を残しておくことにしました。

 

自分の2つの目をそれぞれ太陽と月にすること、眉で虹を作ること、背中で空を、からだでグアムの島を作ること、そして砂利から人間を作ること。

フウナは忠実に言いつけを守り、グアムの赤い土を海の水と混ぜて大きな岩も作りました。

その岩を小さな石と砂利に割り、その砂利がグアムの人々になったということです。

 

【マーシャル諸島】

その昔、最初の人間ウエリップは、妻と共に「ウプ島」というところに住んでいました。ある日、彼の頭に木が生えてきて、彼の頭に大きな裂け目ができました。その裂け目から生まれてきたのがエタオとジェメリウットの兄弟です。ある日、エタオは父親と喧嘩してしまい、大きな袋に土を詰めて外界に向けて家出します。ところが、この袋には穴が空いていて、土がいろんなところでこぼれた結果、今のマーシャル諸島の島々ができあがった、ということです。

 

【クワジェリン環礁(マーシャル諸島)】

現在のクワジェリン環礁は、世界最大の環礁と呼ばれるように、大小97の島々が300kmにも及ぶ巨大な環礁をかたちづくっています。ところが大昔、この環礁はもっと小さく、島々は互いに相手の島が見えるくらい近くにあったそうです。

 

ある日のこと、クワジェリンに絶世の美女「リエン」が、どこからともなく現れました。それぞれの島の領主達は、我こそがリエンの心を射止めようとやっきになりましたが、またある日、彼女は忽然と姿を消してしまいます。

 

彼女を巡る戦いに疲れ果てていた領主達は話し合い、今度彼女がどこかの島に現れたとしても、互いに見えないくらいに離れた場所にいれば、それに気がつくこともないし争いが起こることもないだろう、と衆議一決します。その結果、それぞれの島は、お互いに思い思いの方向に離れていくことになり、現在の環礁の姿になったのだということです。

 

ミクロネシア各地には、恋人達にまつわる伝説が多く残っています。ここでとりあげるのは、パラウで広く伝えられる、ひょっとするとどこかで聞いたような話ですが、こういったモチーフは世界共通なのかもしれません。

 

昔、パラウにオレングという美しい娘が住んでいました。彼女の家は貧しくて、母親は常々、オレングを金持ちと結婚させて、楽な暮らしをしたいと考えていました。彼女には、ウギラマリアという恋人がいました。彼もまた、亀を捕ってべっこうの加工で生計を立てる、という貧しい暮らしでしたが、ハンサムで優しい若者でした。彼は、いつの日にか正式に彼女に結婚を申し込みたいと思い、一生懸命働いていました。

 

そんなある日、ゴシレクという極めて羽振りの良い男が、オレングの住む村にやってきます。彼はカヌーの船団を所有する酋長で、財産だけは人一倍持っていたのですが、たいへん醜い顔をしていたために、中年を過ぎてもまだ独身でした。

 

彼はたまたま漁の帰りに村に立ち寄っただけでしたが、話をききつけたオレングの母親が早速彼に娘を紹介します。ゴシレクは美しいオレングを見て一目惚れ。2人の結婚の話は、オレングを抜きにしてトントン拍子に進みます。

 

オレングは母親に

「私は愛し合って結婚したい。あんな醜い年寄りと結婚するのは嫌!」

と懇願しますが

「何をばかなことを言ってるの。私らのような貧しい女は愛で結婚するもんじゃないよ」

と、全く取り合ってくれません。

オレングは、ウギラマリアに相談しに行きました。彼は「僕にもっと年齢と財産があれば」と、悲しみに暮れますが、何も打つ手が見つからず、結局オレングは父親ほども年の離れたゴシレクと結婚することになってしまいました。

 

盛大な宴会も終わり、ゴシレクは花嫁を自宅に連れて帰ります。しかし、オレングは実家の村のほうを見やって、ため息をつきながら日に日にやせ細っていきます。ゴシレクは、また優しい男でしたので、彼女がホームシックにかかっているのだと気遣って「1回実家に戻ってみるかい?」と声をかけます。

 

オレングは、ゴシレクには悪いと思いながらも、実家のある村に戻るやいなや、こっそりとウギラマリアに会いに行きますが、2人の逢い引きはこれといって打開策のない悲しいものでした。彼女は再びゴシレクの家に戻り、ウギラマリアが漁に出ているはずの海を見ながら暮らしていました。

 

ある日、彼女はウギラマリアに何か贈りたいと思いつき、日頃つけていたココナツオイルをココナツの殻に詰め、ウギラマリアに届くよう祈って海に流します。ココナツは、ほどなくして亀を捕っていたウギラマリアのところに届きました。彼は、実は死にもの狂いで働くことで彼女のことを忘れようとしていたのですが、ココナツを手に取るやその場で倒れてしまい、病の床についてしまいました。

 

オレングはもう一度実家に戻らせてくれないか、とゴシレクに頼みます。ゴシレクは可愛い花嫁のためならと快諾し、従者をつけて送り出しました。その途上、ウギラマリアがとうとう死んでしまった、というニュースが彼女の元に届きます。彼女は、従者に「私を1人でウギラマリアのところに行かせてほしい」と頼み、みんなを戻らせました。従者から「ウギラマリア」という名前を聞いたゴシレクは「親族の誰かだったかな」と、あまり深く考えず、ウギラマリアの家宛に、盛大な葬式の贈り物を届けようとさえします。

 

オレングは青白い顔をしながらも、身体を清め精一杯の化粧をし、精一杯のおしゃれをしてウギラマリアの実家を訪ねます。そこでは多くの弔問客が、食べ物を供えたり悲しみの歌を歌ったりしていましたが、オレングは飲まず、食べず、歌わず、死に花に埋もれた彼の側をかたときも離れようとはしませんでした。

 

やがて弔問の期間も終わり、遺体にカバーがかけられるときになって、オレングは突然「私も一緒に埋葬して!」と彼の身体に重なるように身体を投げ出し、そこで息絶えてしまったのです。

 

その直後、ゴシレクからの贈答品を持った従者が来訪し、一切のできごとが知れてしまいました。従者は大急ぎでゴシレクのもとに帰り、これまたオレングの帰りを楽しみに、崖に立って海のほうを眺めていたゴシレクのところに走ります。

「えらく早かったじゃないか、どうしたんだ?」

「実は、美しい奥様がお亡くなりになったのです。それに・・・・」

ゴシレクは、大変な衝撃を受けました。彼は、彼なりにオレングのことを深く愛していたのです。彼は、あまりの悲しみに、そのまま崖から身を投げてしまいました。

 

オレングは、愛する人と自分自身のために、べっこう細工のイヤリングを作っていました。彼女のは半月形、彼のは盾の形をしたものです。パラウの恋人達のあいだでは、このべっこう細工のイヤリングの交換と共に、オレングとウギラマリアとゴシレクの物語を歌った歌が、長い間歌い継がれてきたということです。

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