ユダヤ人における影響
同時代のマイモニデスは、イブン・ルシュドの作品を熱狂的に受け入れた初期のユダヤ人学者の一人で
「イブン・ルシュドがアリストテレスの作品について書いたものをすべて受け取った」、「イブン・ルシュドは極めて正しい」
と述べた。また
「アリストテレスは難解であり、それを理解するにはアレクサンドロスかテミスティオス、あるいはイブン・ルシュドの註解によらなければならないと」
と述べた。
サムエル・イブン・ティッボーンは『哲学者の意見』において、ユダ・イブン・ソロモン・コーヘンは『知恵を探求』において、シェームトーヴ・イブン・ファラクェラなど13世紀のユダヤ人思想家は、イブン・ルシュドのテキストに大きく依存していた。
1232年、ヨセフ・ベン・アッバ・マリがイブン・ルシュドのオルガノン註解を翻訳した。これがユダヤ人による最初の翻訳である。1260年、モーセ・イブン・ティッボーンが、イブン・ルシュドのほとんどの註解といくつかの医学書を翻訳した。ユダヤにおけるアヴェロエズムは、14世紀にピークを迎えた。これらの翻訳に影響を受けたユダヤ人には、アルルのカロニュモス・ベン・カロニュモス、マルセイユのサムエル・ベン・ユダ、アルドのトドロス・トドロスィ、ラングドックのゲルソニデスがいる。
西欧における影響
キリスト教圏西欧での主な影響は、アリストテレスの広範な彼の解説によるものであった。西ローマ帝国崩壊後、西ヨーロッパは文化の衰退に陥り、アリストテレスを含む古典的なギリシャ人の知的遺産のほとんどが失われた。13世紀に翻訳されたイブン・ルシュドの註解は、アリストテレスの専門的な説明を提供し、再びアリストテレスの利用を可能とした。イブン・ルシュドは、その影響の大きさから名前ではなく、単に「注釈者」(Commentator)と呼ばれた。
1217年にパリとトレドで始まったラテン語訳の最初の語訳者ミカエル・スコトゥスは、自然学、形而上学、霊魂論、天体論の各大註解を翻訳した。これに続いてヘルマンヌス・アレマンヌス、ルナのウィリアム、モンテペリエのアルマンゴーなどが、時にはユダヤ人の助けを借りて他の作品を翻訳した。その後、まもなくキリスト教徒の学者の間に広まった。それらは、ラテン・アヴェロイストとして知られる強固なサークルを引き付けた。パリとパドヴァはアヴェロイズムの主要な中心地であり、13世紀の主要な人物としてブラバンのシゲルスやダキアのボエティウスがいた。
ローマ・カトリック教会は、アヴェロイズムの蔓延に反対した。1270年、パリ司教エティエンヌ・タンピエは、15の教説に対して教会の教義と反していると非難した。1277年、教皇ヨハネス21世の依頼によってタンピエは別に非難を発し、アリストテレスとアヴェロエスの教説から219の論説を対象とした。
13世紀の主要なカトリック教会の思想家トマス・アクィナスは、アヴェロエスのアリストテレス解釈に大いに頼っていたが、多くの点で彼に反対した。例えば知性単一論に対して詳細な反論を書いた(『知性単一論(フランス語版)』)。また、宇宙の永遠性と神の摂理についても反対した。
1270年と1277年のカトリック教会の非難とトマス・アクィナスの反駁は、ラテン・キリスト教世界においてアヴェロイズムの広がりを弱めたが、影響はヨーロッパがアリストテレス主義から脱却し始める16世紀まで続いた。14世紀にはジャンダンのヨハネス、パドゥアのマルシリウス、15世紀ティエネのガエターノ、ポンポナッツィのピエトロ、16世紀マルカントニオ・ツィマラなどのアヴェロイストが存在した。
イスラム圏における影響
イブン・ルシュドは、現代に至るまでイスラームの哲学的思想に大きな影響を与えなかった。理由の一つとして地理があり、イブン・ルシュドはイスラーム文明の最西端であるイベリアに住んでいた。また彼の作品は、東方のイスラーム教学者には知られていなかったのかもしれない。しかし、イブン・ハルドゥーンと彼の師アービリーはそれを知っており、一部その注釈を書いた。19世紀になり、イスラーム思想家は再びイブン・ルシュドと関わり始めた。アン・ナフダ(an-Nahda覚醒)と呼ばれる文化的ルネッサンスがあり、イブン・ルシュドの作品はイスラーム教徒の知的伝統を近代化するためのインスピレーションと見なされた。
一般文化における影響
1320年に完成したダンテ・アリギエリの『神曲』において、辺獄に古代ギリシア人およびイスラーム思想家の中にイブン・ルシュドを描写している。チョーサーの『カンタベリー物語』のプロローグでは、当時知られていた医家のリストのなかにイブン・スィーナーやアッラーズィーとともに彼の名がある。また、ヴァチカン宮殿を飾るラファエロのフレスコ画「アテナイの学堂」には、その姿が描かれている。ユーセフ・シャヒーンによる1997年のエジプト・フランス映画『Destiny』(邦題炎のアンダルシア)は、イブン・ルシュド死後800年を記念して作られた。
スターフルーツやビリムビを含む植物類名である″アヴェロア”(Averrhoa)、月面クレーター"ibn Rushd"、小惑星"8318Averroes"は、彼の名にちなんで名づけられた。
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