2009/01/18

半信半疑(10年の歴史part2)

「前回、コーディネーターの方にもお伝えした通り、これまでコンピューター関係はおろかPCにすら一度も触った事がない私に、そのような仕事が出来るかどうか不安ですが・・・」

 

と、本音を伝えると

 

「仕事はそんなに難しいものではないし、先方が素人の方でも大丈夫だという事なので、その点は問題ないと思います。今回は、あくまで人柄重視という事なので」

 

こちらの様子が不安そうに見えたか、営業のK氏はこう付け加えた。

 

「実はですね・・・今回は他にも3人を提案しているのですが、みんなにゃべさんみたいな未経験の人ばかりなんですよ。お客さんは、とにかく今すぐに人が欲しいと言っておられるので、案外決まる確率は高いと思っています。

勿論、OJTなどの教育はしっかりしているし、基本的に21組のコンビで仕事をするスタイルなので、しばらくはベテランとのコンビで業務を覚えていく事になるでしょう」

 

ということだった。

 

勤務は24時間3交代制で早朝から夕方までと昼から夜まで、夜勤は夕方に出勤し翌日朝まで通しの勤務となる。単価は未経験にしてはそれなりに悪くはなく、深夜には25%の割り増し精算があった。

 

計算上では、かなり切り詰めてもギリギリで生活できるかどうかというところだったが、ともあれ失業中は一銭も入らないのだから、この際文句は言ってられない。夜勤も経験がなかったが、ローテーションということでは仕方ない。ともあれ騙されたつもりで面接に赴くと、話の通り他に3人の面接者が同席していた。

 

元請けは小さな会社だったが、担当のS部長はかなりのやり手らしく、よく通る大声のマシンガントークで4人の面接者に、業務内容を説明して行く。

 

「お客さんは、NTTの某データセンターだ。メンバー構成は、現在10名。リーダー2人を筆頭にウチの社員が4人で、後はX社(派遣会社)さんのところから出してもらっている。

 

で、ウチの社員の方は業務拡張の関係もあって、順次別のプロジェクトに移していきたいので、今後はNTTさんの方はXさんとこのメンバーを中心に回していきたい。今回は、2名入れ替えと2名増員で4人が必要だから、数的には丁度いいかな・・・」

 

と銀縁のメガネを光らせながら、神経質そうに4人の顔を確認するように順番に見回して行った。

 

30分ほど、次々と質問の雨を降らせていくと

 

「よーし、大体、わかった。4人とも経験はないみたいだけど、それはあまり関係ない。勿論、経験はあるに越した事はないけど、基本的にはうちのがメンバーが教育していくし、中途半端な知識があるとかえって邪魔になったりもするからな。言葉は悪いが、まったくの素人の方がウチとしては好都合だよ。

一旦、持ち帰って検討させてもらうが、決まった場合は直ぐにでも出て欲しい」

 

と、かなり乗り気な様子に見えた。

 

その後、4人が席を外してS部長と15分ほど打ち合わせをしたK氏が、戻ってきた。

 

「今までの経験からですが、さっきの面接と今S部長と話をした感じでは、恐らく4人とも来てくれという流れになりそうに思う。勿論、まだ決定してないから確約は出来ないけど・・・」

 

と、好感触を伝えてきた。

 

「いずれにしても、今の面接でわかる通り、あのS部長は非常にハッキリとした人だから、結果は直ぐに出ると思う」

 

とのこと。ちなみに他の3人のうち、1人は20歳そこそこと若かったが、後の2人はほぼ同年齢だった。

 

そしてK氏の言っていた通り、その日の夜に早くもX社から電話が入った。  

 

「本日の面接結果ですが、さきほど連絡が入りまして『是非、お願いしたい』  との事でした」

 

「わかりました」

 

「それで先方は早速、直ぐにでも出て欲しいとのことですが、大丈夫でしょうか?」

 

「私の方は、特に問題はないですが・・・」

 

「では、そのようにお伝えします」

 

という流れで話が進んで行き、翌週からいよいよ未知の「ITの現場」に入る事になった。

 

一緒に入った新人4人は、それぞれベテランの先輩とのコンビを組む事になったが、何の因果か一番イヤミなK氏とコンビを組まされた。長髪を後ろでポニーテールのように縛り、見るからに怪しげな風貌のK氏は口の悪い御仁だったが、そのイカツイ風貌に似合わずセーラームーンなど、可愛い系のアニメキャラをコレクションしているというオタクでもあり、他のメンバーからはかなり薄気味悪がられていた。

 

当時、こちらはまったく素人だっただけに、他人の技術力の正確なところを推し量るのは難しかったものの、後になって考えてみるとリーダーを含め、元請け社員にはそれほど技術力の高い者がいそうになかった。

 

そんな中で素人目にも、このK氏のスキルが他のメンバーに比べてずば抜けて高い事だけは、誰の目にも明らかだった(もう一人、技術力が高そうなのがいたが・・・)

 

なぜ、K氏のような高いスキルを持った技術者が、あのレベルが低く単価の安い仕事を引き受けたのか不思議だが、逆にK氏などの目にはこちらのような素人こそは、宇宙人のように奇異に映っていた事だろう。

 

OJTでも、基本的な知識すらない事に対して呆れていたような場面がしばしばだったが、案に相違してこちらがまったくのド素人である事に対しては、文句を言う事は殆どなかった。

 

ただし自分が教えた事を憶えていなかったり、応用できないなど自分のレベルで考える事が出来ない場合には、必ず文句を言う。その言い方には容赦がなかったし、他のメンバーが大勢いるところなどでも聞こえよがしに、大声で文句を言っていた。

 

そのため、一緒に入った他の3人も

 

「あのKってのは、一番の曲者だな・・・」

 

と、各々が自分がKとコンビを組まされなかった事に、感謝しているようだった。

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