2009/01/17

転職(10年の歴史part1)

思うところあって長く勤めたマスコミ業界からすっぱりと足を洗い、まったく新しい業種にチャレンジする事を決断した。マスコミ業界に見切りをつけた理由は色々とあるが、本題とは関係がないため割愛する。

 

転職を決意したとはいえ、なんらかの想定や「これをやってみたい」という願望があったわけではまったくなく、また特別なコネがあったわけでもない。まさに徒手空拳からの再出発であったが、持っている技術といえば記者としての能力くらいなものだった。

 

だが、これは新しい職種では使わない事に決めていたから、実質的にはなにも「手に技能がない」状態である。元来が楽観的な性格のため

 

(贅沢さえ言わなければ、仕事くらいはどうにかなるだろう)

 

と構えていたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

当たり前のことだが、唯一ともいえる特殊な技能を自ら封印しているのだから、売り物も経験も何もないような人間に、市場価値があるわけはないのだ。それも新卒や20歳代前半という若さなら、それだけでもチャンスがあるかもしれないが、そんな時期はとっくに通り越していた。

 

andodaなど、当時流行っていた転職やバイトの求人媒体を漁ってみる。本当の意味で「仕事を選ばなければ」なくはないのだろうが、やはりいざ自分が働く事になると考えると、それなりに建設的な仕事に就きたいと考えてしまうのだ。

 

本格的な就職は難しく、バイトや契約で入る事になるのは覚悟していただけに、その仕事が終わればまた同じ「未経験の壁」にぶつかる事は目に見えている。 さらには、歳を取る分だけ益々転職活動は難しくなってくるのは確実だから、年齢を重ねる以上の付加価値を自らに付けていかなければ、この先さらにジリ貧になっていくのは明らかだった。

 

と行った具合に、基本的な「哲学」だけは確立していたものの、肝心要の「今、なにをやりたいのか」や「今の年齢で、なにをやっておくべきか?」が見えてこないままに、無駄に月日が経過して行った。

 

生きていく上で「哲学」は大事だが、哲学だけでは生きてはいけない。「人はパンのみにて生きるにあらず」の考えは尊いが、今日明日のパン代がなければ生きてはいけないのもまた紛れもない現実なのだから、時によっては哲学を捨てる必要があった。

 

ただし実際に「捨てる」つもりは毛頭なく、言ってみれば鎧の上に衣を羽織るだけである。いずれにしても、マスコミ業界以外はまったく知識がない井の中の蛙なのだから、あれこれ下手な考えを考えてもよいアイディアが出てくるはずもなく、ともかくその道の専門家に相談するのが良いと判断して、大手の人材派遣会社に登録する事にした。

 

思った通り

 

「折角、これだけの経験と実績があるのですから、マスコミ業界でやっていかれた方が良いんじゃないでしょうか?」

 

と、強く説得されたが

 

「まったく別の業種にチャレンジしてみたいのです。転職するには年齢的にもギリギリのタイミングだし、今のうちになにか確固とした技術を身に付けておきたい」

 

と意思を伝えると

 

「未経験では、どの業種もあまりニーズがないでしょうが・・・では何か出てきたら、連絡します」

 

と、あまり乗り気でない感じであったのは、仕方なかったろう。一応、登録だけは済ませたものの、あの調子では直ぐに仕事が出てくるとは思えないから、当てにはしない事にした。

 

結局、また振り出しである。数ヶ月と日にちが経過するにつれ、元々心細かった蓄えも底が見えてきた。

 

(もう本当に、贅沢行ってる場合じゃないぞ。運良く内定が出たものならなんでもやるしかないか、持論を撤回しても一時凌ぎでマスコミ業界に戻るしかないのか・・・)

 

というところまで追い込まれていた。

 

マスコミ業界に戻るとは行っても、すでに足を洗う覚悟でそれまでのパイプは全部切ってきていたから、新たな仕事先を開拓していかねばならず、その面倒を考えたら新しい職場に入る方が、遥かに楽だという気がしていた。あくまでも、受け皿があればの話ではあるが・・・

 

そうしてさらに、虚しく時が経過する。登録したことすら忘れていた派遣会社「F社」から電話が掛かってきたのは、いよいよ金が底をついて来たタイミングだった。

 

「是非ともご紹介したい仕事がございまして、ご連絡を差し上げました」

 

電話では説明が難しいため、ともかく来社願いたいというのでF社を訪問する。 

 

「ご紹介したいのは、コンピューター関連の仕事なのですが・・・IT業界のご経験は、おありでしょうか?」

 

「まったく、ないですが・・・」

 

なんでIT関連の紹介が来るのかすら不思議なくらい、それまで無縁の世界だ。

 

「一応、先方では業界経験のない方でも、大丈夫だと言っております・・・」

 

「しかしPCすら、まったく触った事がないけど」

 

「一応、話をしてみます・・・とにかく早急に人が必要だということなので、まったく未経験でもOKかもしれません」

 

半信半疑のまま、話を聴いていると

 

「もし先方がOKという事でしたら、やる気があるでしょうか?」

 

改めて訊かれて、答えに窮した。

 

なにせIT業界などは、まったく考えてもいなければ知識もゼロだから、判断のしようがないのである。ただ、そんなド素人の耳にも、IT業界が凄い勢いで伸びており、どの業界よりも将来性がありそうなことだけは予想がついたから、ある意味いいチャンスかもしれないと思い直した。

 

そもそも仕事を選んでいる状況ではないが、IT業界ならば客観的にも悪くはないと思えたし、巧くすれば技術を身に付けられるのではないかというのも魅力だった。

 

「それでは早速、先方に打診してみます」

 

という事だったが、なにせPCすら触った事のないド素人中の素人だけに相手にされるとは思えず、過大な期待は持たない事にした。ところが意外な事に、その日のうちに早速派遣会社の担当営業から、先方から面接依頼が来たとの連絡があった。

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