ある時、こんな事があった。
深夜の1時過ぎ。毎日行うルーチンワークで、ちょっとしたトラブルが起こった(あるいは操作をミスして、トラブルになったのかもしれない)
そこでK氏から、自力で考えて復旧してくれと言われたが正直、お手上げ状態だった。手をこまねいていると
「どうしました?
全然、難しくないでしょう、こんなものは。今まで私が教えて来た範囲で、充分に対応できますよ」
と、鼻で笑った。しかし、考えてもサッパリ対処の仕方がわからない。仕方なく、そう告げると
「本当に考えているのなら、こんな簡単な事が解らないはずがない。いつまでも人に頼らず、自分で解決しないとダメですよ」
と、ヒステリーを起こした。
さすがに、ムカついたので
(絶対に、もうコイツには訊くまい)
と、心に誓っていると
「にゃべさんが解決するまで、ボクも待ってますよ・・・」
と背後から、実に楽しげにニヤニヤしているではないか。と言っても、それまでに散々考えてもわからないのだから、どうしようもない。実際、この世界は知識や経験がなければ、気合だけでどうにかなるものではないのだから、正直なところK氏が痺れを切らして教えてくれるまで、解決は覚束ないと思っていた。
K氏にしても、これが解決しなければ寝られないのだから、いつまでも放っては置かないはずである、という計算もあった。 考えてもわからないながら、K氏の手前あたかも考えている風を装っていたものの、背後でじっと見つめているK氏の存在は、かなりのプレッシャーだった。
前にも記述したように、このK氏というのはスキル的にはメンバーの中では飛び抜けていたし、元々の頭の回転も早い人物だったから、見ていれば解決は到底覚束ない事は最初から百も承知していたのだろう。それでいながら敢えて助け舟を出そうとせずに、楽しげに眺めていたのは彼のイヤミな性格だったろうし、こちらとしても最初からそう感じていたから、意地でも彼に聞くまいと考えていた。
いずれにしても、朝の交代メンバーが来るまでに解決しなければならないし、もしもその時点でトラブルが残っていれば、作業リーダーの彼の責任の方が問われる事になるのだから、最後には彼が解決に導かなければいけないのであるが、そうしてのんびり構えているところを見ると、すでに彼自身は明確な解を持っているのは明らかだった。
こちらが、そんな狡猾な計算をしていると、知ってか知らずか
「まだ時間はたっぷりあるから、ゆっくり考えて自力で解決してください・・・」
と腰を上げて、マシン室から出て行った。彼がいなくなれば解決は覚束ないが、後ろでジッと見られているのはなんと言ってもプレッシャーだから、いなくなってくれたのはこの際ありがたかった。
(やっと、寝る気になったかな?)
とホッとしていると、直ぐに戻ってきた。しかも、本を持ってきているではないか。
「まだ朝まで時間はたっぷりあるので、頑張って考えてください。解らない事があれば、訊いてください」
と言うと、後ろで本を読み始めた。ここまで来れば、まさにイヤミ以外の何物でもない。
「解らない事があれば、訊いてくれ」といっても、訊いても碌な返事が返って来そうにないから敢えて訊かずにいると、向こうも聞いてくるまでは一切教えないぞとばかり、知らぬ顔で読書に耽っていた。こうなれば、つまらない根比べだ。
こうしてわからないまま、ただ考えているフリだけを続け、向こうは読書をしているうちに時計は3時を過ぎていた。
「どうです?
わかりましたか?」
「全然・・・」
「しょーがないですね。本当は自力で解決して欲しかったんですが、その調子ではいつまで経っても無理そうだから、今回だけは教えましょーかねー」
教えるといっても、簡単に解を教えるタイプではないからひとつずつ確認しながら、またその都度イヤミをいいながら、それでもようやく解決に導いてくれた時は既に3時半くらいになっていた。
この話はあくまで一例であり、何の因果かその嫌味なK氏と組まされたその1ヶ月間は、こんな事の連続だった。
お互いに性格だから、簡単には変わりようがない。こちらのわからないことに対し、K氏は簡単に教えてくれるわけもなく散々に嫌味を言った。
「なんでも、人に聞けばいいというのはダメでしょう。少しは自分の頭で、考えてるんですか?
自分で考え抜いてわからないのならともかく、ロクに考えもしないで人に頼っていては、いつまで経っても進歩がないよ」
「考えてもわからないから、こうやって聞いてるんだけど。何故、そのように決め付けるのか?」
「考えてねーよ。考えてたら、こんな簡単なことくらいわかるって」
こういった調子で、K氏は簡単に教える気がないし、こちらもまた下出に出て教えを請うような真似はしたくなかったから、どうしてもぶつかり合うのは避けられない。
また、こんな事もあった。毎日やる作業で、非常に手間の掛かる面倒なものがあった。K氏は
「凄く面倒だと思うでしょう?
実は、もっと簡単にやる方法があるんですがね。にゃべさんはまだ仕事に慣れてないから、当面は安全確実にやってもらいます。そのうち慣れてきたら、楽な方法を教えますよ」
と言った。
こちらとしては「楽な方法」が思い浮かばないから、面倒だと思いながら毎日やっていると、偶々別のメンバーがやって来てそれを見て驚いたらしい。
「えー。なんで、そんな面倒なやり方をしてるの?」
「これしか教わってないからね・・・」
「なんで?
Kさんは、簡単なやり方を教えてくれなかったですか?」
そこで、先の話を伝えると
「そんな面倒なやり方じゃ、やってられないでしょ。実は、これには簡単な方法があってね」
と「楽なやり方」を教えてくれたのだ。
ところが間が悪い事に、ここにK氏がやって来た。
「あれ?
Tさん・・・例のやり方を、にゃべさんに教えたんですか?」
「というよりKさんは、このやり方をまだ教えてなかったのは何故?」
と問われると、K氏は
「なんだ・・・折角、慣れるまでは地道にやって貰おうと思っていたのに。ちょっと自分に、考えがあったんですがね」
と、恰も「余計な事をするな」と言わんばかりに、不機嫌になったから
「すいません。でも、あのやり方だと、時間に間に合いそうになかったから」
と、T氏もバツが悪そうだった。
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