大相撲に、化け物が復活した。
初日から完璧な相撲を取っていた白鵬に対し、引退間際の断崖絶壁に立って
「この調子では、果たしていつまで持つか?」
というような薄氷の勝利を続けながら、なんとか持ち堪えていたのが「ズル休み明け?」の朝青龍である。ところが中盤からの朝青龍が、本来の動きと勘の良さ、そして鋭さ力強さが戻ってきたのには、まったく目を瞠った。
元々、休場云々を除いても、2年ほど前から緩やかに下降線を辿っていたはずだったのが、まるで時計の針を強引に3年くらい前まで戻してしまったようなバカ強さであり、後半からは誰が挑んでもまったく勝負にならないくらい、大関以下とは天文学的な力の差があった。
そんな化け物のプレッシャーを感じたか、あれだけ安定していた白鵬が終盤から俄かに崩れ始め、遂に黒星を喫する。星ひとつの差で迎えた千秋楽は、久しぶりの優勝決定戦となった。盛り上がりは最高潮に達したものの、結果は「朝青龍復活Vという、最悪の幕引き」だ。
改めて確認すると、朝青龍は人間的にはまったくダメなヤツで、横綱に相応しい「品格」からは、まったくほど遠い。これは間違いがないし、常に泰然自若として温厚篤実な白鵬とは、雲泥の差である。ところがこのオトコは、こと相撲に関してはやはり「稀に見る天才」だったのだ、ということを改めて認めるしかなさそうなのだ。
なんと言っても、あれだけのブランクがありながら、復帰した場所の中の僅か数日間だけで、ここまで勝負勘を戻してくるのである。集中力、状況対応力、勝負にかける執念と、どれをとっても全盛期並みに充実していたのには、最早怒りを通り越して呆れるほかはなかった。あれでも稽古不足だと言われ続けているのだから、真面目に稽古をしていたら、すでに30回以上の優勝をしていたのではあるまいか? と思われるし、スポーツや格闘技観戦歴の長いワタクシも、これだけ「人間性と勝負師としての力量が乖離した例」には、お目にかかったことがないかもしれない。
多くの人がそうであったように、ワタクシとて心情的には白鵬に勝って貰いたかったのはヤマヤマだが、人間性はともかくとして力士としての総合力で白鵬はまだ、朝青龍の域には及んでいないかに見えた。或いは今場所の朝青龍の強さは、夜空に一瞬で消えてしまうあの打ち上げ花火のような、例外的な華やかさに過ぎなかったのかもしれないし、それは来場所以降を見てみないことには、まだなんとも言えない。とはいえ、少なくとも「横綱としての凄み」とか、(善悪は別として)全身から放たれるオーラのようなものは、他の力士と一線を画している特異な才であることは確かだ。
繰り返すが、ここでは「人間性の問題」と「力士(またはアスリート)としての力量」とは、まったく別次元の話として論を進めている。「人間性」という点では、やはりこれほどの非常識なヤツはいないし、ワタクシも大嫌いである。これは以前から、一貫して変わっていない。しかしながら「力士(またはアスリート)」として、これだけ魅力溢れる相撲を魅せることが出来るのは、やはりこのオトコしかいないのである。実に困った事だが、世の中とはこのように総てが理屈で割り切れるものではないのだろう。だからこそ、早く引退を望む声が上がる一方で、いざ引退が現実になりかかるとどこか一抹の寂しさを拭いきれないような、あの観客の複雑な反応はワタクシにもよくわかるのである。
千秋楽まで優勝を争って大いに盛り上がり、最後に白鵬にやられるというのが、ワタクシを含めて大多数が頭に描く理想のイメージだ。勝てば官軍とばかりに、朝青龍がまたデカイ顔をして土俵にのさばってくれるのは困るのであり、強いからといって過去の数々の狼藉の罪が消えるわけはないし、これによって掌を返したように化け物の前に拝跪するのは節操がなさ過ぎる。あの涙に騙されてはいけないw
とはいえ、現実として他の不甲斐ない力士たちではまったくの論外だから、どうしても白鵬一人に期待するしかないのだが・・・
※それにしてもアホウ首相は、この国家の大事に暢気に相撲など観戦してる場合か。
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