「夏」といえば「麺類」である。東京へ来て便利さを感じるのは、JR線の各駅コンコースにそば屋などがある事だ。
上京したばかりのころの、新宿駅でのひとコマ。その日は、9月も半ばに差し掛かろうかというのに真夏のような暑さで、例によって冷やし中華かおろしそばでも食べていくところである。が、いつも同じものばかりでは芸がないからと店内を見渡すと、壁という壁の至る所に
「新商品・新宿冷麺」
なるポスターがベタベタと貼ってある。
いかに食べ物に無頓着とはいえ、冷麺がコリア料理であることくらいは知っているし、料理も含めてK国嫌いだから普段なら間違ってもオーダーしない筆頭格である。が、他の事に気を取られていたこの時は
(要するに、冷やし中華のようなものだろう・・・)
なんとなく「新宿冷麺」という語呂の響きに惹かれ、オーダーをしてしまったのが失敗だった。
(まてよ・・・「冷麺」というからのは、コリア料理?
しかし「新宿冷麺」というくらいだから、あくまで和風なんだよな?)
などと自問しながら
(やっぱ、いつもの冷やし中華に変えよう・・・)
と、即座に席を立ったまでは良いが、そこは新宿駅構内店のこと。いつの間にやら、背後には順番待ちのオジサン、オバサンたちの行列ができており、この中を敢えて割り込んで
「やっぱ、冷やし中華に変えてくれ」
とは、とても言い難い雰囲気だ。
(まあ、いいや・・・)
と「新宿冷麺」に挑戦する腹を決めるとともに
(和風であってくれよ)
という祈るような心境であった 八(^□^*) タノム!!
が、そのような愚か者の期待を裏切り、店のレシピに忠実に作られたであろう出来上がって来た冷麺は、当然といえば当然だが想像していた「冷中」とは似ても似つかぬ代物だった。
なんと言っても、デリケートな嗅覚を持つ身としては、あのキムチの強烈な匂いだけで食欲が引いてしまうのである。そもそもキムチが乗っている時点で全ては終わっていたが、おまけに中華の麺と違い、あのゴムのような半透明の太く粘々とした食感の麺が、どうにも口に合わないのみならず食べ難くて仕方がない。要するに匂いといい味といい、どれもこれもがキムチのものしか感じられないのは、キムチアレルギーの成せる業だったろうか・・・
「これが、なんで『新宿冷麺』になるのか・・・冷中より100円も余分な金を払って、クダラン冒険などするんじゃなかった・・・」
と店を出るなり、早速コーヒーで口直しをした事は言うまでもない。
■数年後
「あの新宿冷麺だけが、格別不味いわけではない」
と気付いたのは、数年経ってからだった。前の記事を書いたのは2005年の8月で、その後キムチ嫌い(と言うよりは、コリア料理そのものが苦手)のワタクシが「冷麺」を食うわけがなかった。ところが、つい先日行きつけの中華食堂「日高屋」で、不覚にも同じ「大間違い」を冒してしまった。
ちょうどタイミング悪く、店に入った直後にかかってきた電話の対応に気を取られ、例によってよく考えもせずに看板にデカデカと出ていた「冷麺」をオーダーしてしまったのである。
頭の片隅には、またしても
「要するに、冷やし中華のようなものだろう」
という安易な思い込みがあった。
運ばれてきた「冷麺」には、当然ながらキムチが入っている。あの「新宿冷麺」と同じだ。
(やってしまった・・・)
と「失敗」に気付いた時はアフターカーニバル。いかに厚かましい客とは言え、既に運ばれてきた後だけに今更、変更などは出来るわけがない。見ればキムチの乗っている周辺は、汁が赤々となっている。
キムチの乗っている反対側から急いで食べ始めるが、見る間にジワジワ侵食されていく汁は瞬く間に真っ赤に染まっていき、あの独特の匂いと味が皿全体に染み渡って来るには、さほど時間を要さなかった。
間抜けなことに
「キムチを小皿に出しておいて、食べればよかったのだ!」
と気付いたのは殆ど食べ終わってからで、ほぼ真っ赤に染まった汁とキムチの塊がそっくり残った皿を前に
(なにも新宿冷麺だけが、格別まずいわけじゃなかった・・・)
と、6年越しの誤解に気付いた愚か者であった。
※「そんなにキムチが嫌なら、最初から冷麺など食べるんじゃない!」は自覚しているため、敢えてそのようなコメントは要りませんw
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