2016/03/06

失業(小説ストーカー・第二部part1)



●タコ坊の場合
 (くそっ!
 実に胸糞が悪りぃー、あのクソじじーめ!
 オレをクビにしやがって・・・
 あんなクソ工場なんぞ、くたばっちまえ!)
 
 タコ坊は、職場をクビになった。
 
 鬼のような形相の工場長から言い渡された原因は、勤めている印刷工場で「機械の操作ミスにより、工場に損失を与えた」というものだ。

●工場長の証言
 あれが「機械の操作ミスにより、工場に損失を与えた」ちゅーんは事実なんだが、クビこいたんは必ずしもそれだけが理由じゃにゃーて。
 
 アイツが、常日頃から「世の不幸を一身に背負ったように」陰気なんは、単にあの不景気なツラだけの問題じゃにゃーてば。
 
 なんちゅーのかな・・・そう全身から「負のオーラ」が発散されとるちゅーかね、まったくもって「目障りこの上ねー野郎」としか言いようがねーんだが。
 
 元々、愚直なだけが取り柄のヤローで、存在そのものすら鬱陶しかったんだなも。
 
 なんせ機転とか融通が効かんこと、この上もにゃーヤツだで。
 
 歳から言ったら、まーえー加減リーダークラスになっとらにゃあかんような歳なんだが、なんせ人望もゼロだしみんなから敬遠されるような、あーした陰気な者じゃあ「お荷物」以外の何ものでもにゃーてな。
 
 まあ、うちゃーこんな工場だで「底辺三流校」と言われるような学校しか出とらへんのが殆どだしなあ。
 
 中には中卒の職工もおりゃーすが、そいつらはまだ若けぇ分だけ元気があったりするで、工場の雰囲気を明るくするメリットがあるわな。
 
 ところが、あのタコオヤジだけは、ちーとも「使えん」かったわ。
 
 そーは言ってもなー、なんも理由なくクビこくわけにもいかんで、手ぇー拱いとったとこで、えー塩梅にデッカいミスやらかしてくれたで、まあこっちとしちゃー勿怪の幸いだわな。
 
 こいで、やっとこさ「厄介払い」できたで、手切れ金で残り1週間分の報酬をタダでくれたって、今日限り馘首を言い渡したったわ。
 
 あの陰気なツラで、まあ不満そうな顔しとらすったが、元来気の小さいオトコだで、口に出しちゃーなんもよー言わんと、案外大人しく消えてったがね。
 
 あんなのに手切れ金はまあ、どえりゃー損害だったがね・・・あーゆータイプは陰に籠るちゅーで、変に逆恨みされて刃物でブスリなんてやられたら目も当てられんがね、まあしゃーないわな。
 
 ああ、こいで、ようやっと清々しよったわ

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