2019/12/19

アリストテレス(4) ~ アリストテレスの思想


トラキア地方のスタゲイロスに生まれる。

紀元前367年にアテナイに行き、プラトンの設立したアカデメイアに入門し、プラトンが死ぬまでの20年間、アカデメイアに学んだ。

プラトンの死後はアカデメイアを去り、アテナイをも去る。

紀元前347年、マケドニア王フィリッポス2世に招聘され、アレクサンドロス3世の家庭教師を務めた。

紀元前335年にアテナイに戻り、「リュケイオン」という学園を設立した。弟子たちと学園の歩廊(ペリパトス)を逍遥しながら議論したため、彼の学派は「逍遥学派」(ペリパトス学派)と呼ばれた。

紀元前323年には母の故郷カルキスに行くが、そこで病に伏し、紀元前322年に死去。

著作
後述する「学問区分」を元に、アリストテレスの著書を区分したものである。なお、紹介したのは一部で、実際にはさらに膨大な著書が存在する。アリストテレスの著書は1/3だけが現存するといわれるから、実際に書いた著書はさらに多いと思われる。

アリストテレスの思想における重要概念が登場する著書については、著書の右に登場概念を記してある。

理論    
『形而上学』……「形相(エイドス)」「質料(ヒュレー)」「可能態(デュナミス)」「現実態(エネルゲイア)」「四つの原因」
『自然学』……「形相(エイドス)」「質料(ヒュレー)」
『天体論』……「四元素説」「エーテル」「天動説」
『動物誌』

実践
『政治学』……「最高善」「王制」「貴族制」「共和制」「僭主制」「寡頭制」「衆愚制」
『大道徳学』……「中庸(メソテース)」
『ニコマコス倫理学』……「中庸(メソテース)」「実践知(フロネシス)」

制作
『詩学』……「模倣(ミメーシス)」
『弁論術』……「弁証術(ディアレクティケー)」「弁論術(レトリケー)」「言論(ロゴス)」「パトス(感情)」「人柄(エートス)」

論理学
『範疇論』
『命題論』
『分析論』

アリストテレスの思想
万学の祖」と呼ばれるアリストテレスは、哲学をはじめとしてあらゆる学問について論じているため、彼の思想を要約するのは並大抵のことではない。

そこで、まず彼の学問区分を説明した上で、彼の思想について順番に説明しよう。

学問区分
まず、彼は学問を以下の三つに分けた。

理論(テオリア)
実践(プラクシス)
制作(ポイエーシス)

理論」は、(形而上学・数学・自然学などの)世界や自然の事象を研究する学問を指す。「テオリア」とは元々「見ること、観想」を意味する言葉で、観察によって真理を発見する理性的な態度を指すものである。アリストテレスは「理論」の中でも形而上学を「第一哲学」、自然学を「第二哲学」と序列をつけた。

実践」は、(倫理学や政治学などの)人間社会を研究し、行為する学問を指す。「理論」に比べると、観想にとどまらず、実社会において実践することに重きが置かれている。

制作」は(文学や音楽などの)芸術に関する学問である。「ポイエーシス」という言葉からも分かるように、アリストテレスは特に詩を重視しており、『詩学』という本も書いている。

さらに、論理学をすべての学問の根底をなす「道具(オルガノン)」だと考えた。

この学問の区分けを踏まえた上で、上記の著書の項目を見ていただきたい。アリストテレスの思想が、「理論」「実践」「制作」のすべてに渡っていることが分かるだろう。

本稿では、彼の思想すべてについて説明することは不可能である。そこで、彼の思想の中でも重要な点に絞って説明を行うことにする。

形而上学
形相と質料
初めに、『形而上学』『自然学』において展開されている、基本的な思想について説明する。

形相(エイドス)」……個物に内在し、個物の本質を規定する特徴
質料(ヒュレー)」……個物を形成する素材

例えば、家を建てることを考えてみよう。家を建てるにあたって、家の模様・形・構造などを考えることがまず必要である。家の構造が決定された後、木材や鉄骨などを用いて、実際に家を建てる作業を行う。

このとき、家の構造などが「形相」、木材や鉄骨などの材料が「質料」に該当するのである。

ここで重要なのは、形相は普遍的に存在するものではなく、「個物に内在」するものであるという点だ。つまり、形相は個物を離れたところには存在せず、個物と結びついている、ということである。

これが、「イデア」という現実界を離れた普遍的な概念を想定し、イデアが個物とは離れて存在すると考えたプラトンとの大きな違いであり、アリストテレスがプラトンを批判する理由でもある。

可能態と現実態
可能態(デュナミス)……質料の中に、可能性としての形相が含まれている状態
現実態(エネルゲイア)……可能性としての形相が実現を行う状態
完全現実態(エンテレケイア)……形相が実現された状態

この「形相」「質料」の議論を踏まえた上で、アリストテレスは『形而上学』において、このようなことを述べる。

先ほどの例で、家を建てるための木材を考えてみる。木材は、それ自体では家を建てるための材料ではない。木材は家を建てるためだけの材料ではないので、「橋を架ける」「燃やす」など、他の用途にも使うことができるからである。

つまり、このとき木材は、「家を建てる」「橋を架ける」「燃やす」など、複数の可能性を持っている。いいかえれば、「家」「橋」「燃料」など、いくつかの形相を可能性として含んでいるということであり、この状態が「可能態」である。

では、実際に木材が家を建てるために使われている場面を考えてみよう。この時、木材は「橋」「燃料」などの他の形相を放棄し、「家」の形相のために使われている。これは、可能性として持っていた一つの形相が実現されている状態であり、これが「現実態」である。

やがて家を建て終わった状態を考える。この時、木材は家の形相を完全に実現し終えている。これが「完全現実態」である。

以上のように、形相と質料は、可能態→現実態→完全現実態という段階を経て、現実において実現されゆくわけである。

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