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一方、彼が出征する前に子どもたちに残した遺言について話を続けるが、その話は子どもの名前をとって「アルクマイオン」の伝承となる。
アムピアラオスたちの敗北から十年が経ち、その諸将の子ども達も成人に達すると彼等は皆、父の仇を討つべく「テバイ遠征軍」を結成しようとする。これを通常「エピゴノイ(後裔)による戦い」と呼ぶ。結成に当たって神託(当時「神託」は、すべてアポロンの神託を意味する)を伺うと、その神託はアムピアラオスの子アルクマイオンが総大将として攻めるならば勝利が得られる、と答えてきた。しかしアルクマイオンは、その前に父の仇をと思っていた。
その仇になる母エリピュレは、カドモスの妻ハルモニアが神からもらっていたもう一つの贈り物である「長衣(ペプロス)」をポリュネイケスの子どもテルサンドロスから贈られて、早速にもテバイ遠征軍をと急かされてこれを受け入れ、渋る子ども達を出征させることにしてきた。こうして、慌ただしくテバイ遠征軍が結成されてしまう。
こうして、アルクマイオンを大将にしたテバイ遠征軍には、昔日の将軍の子ども達も参加してきた。その中に、トロイ戦争で大活躍するテュデウスの息子「ディオメデス」もいた。彼等はテバイに来て、神託通りアルクマイオンはテバイの大将エテオクレスの子どもであったラオダマスを討ち取っていく。テバイの市民は城壁内に逃げ込むが、予言者テイレシアスが和睦の使者を送る一方、市民はこのテバイを捨てて逃れるべしと予言してきたので、その言葉にしたがってテバイの市民は皆この町から逃れていった。そして旅を続けてヘスティアイアーというところに新たに町を築いて、そこに居をさだめることになったという。
こうしてアルゴス軍は、もはや戦う事なくテバイを滅亡させたことになった。テバイはこの後、アルゴス軍の一員となっていたポリュネイケスの子テルサンドロスが支配することになったが、ここにアルゴスと勢力を二分していたテバイは終わった。
一方、アルクマイオンだが、このテバイ遠征軍の結成にあたっても、母エリピュレが賄賂をもらって裏切りを働いていたことを知って激怒し、そして父の敵を討つことを進言するアポロンの神託があったことも手伝って、早速にも母エリピュレの殺害へと及び父の仇を果たした。
しかし、古代ギリシャの倫理の根底には父母殺しを最大の罪とする倫理観があって、その罪を犯した者は復讐の女神エリニュスによって裁かれるとされていた。そのため彼の場合も、その復讐の女神エリニュスが現れて、彼は狂気となって彷徨わなければならないことになってしまう。
父の仇討ちには神アポロンの命令があったわけだが、それでもこのエリニュスは止められないのである。この事情は、後代アイスキュロスの悲劇に描かれて有名となっているアガメムノンの一族の物語の中でのオレステスの伝承と同じで、一つの類型の物語とも言える。アイスキュロスは、このギリシャ的な倫理の落ち着く先を「エリニュスとアポロンの相克の問題」として描いていくのであった。
ともあれ、アルクマイオンは先ず祖父になるオイクレスのもとに流れ着き、次いでそこからプソープスを支配していたペゲウス王のところに行って、彼によって浄めてもらう。その娘アルシノエと結婚して、例の首飾りと長衣を彼女に贈り物とする。
しかしエリニュスの呪いは続いており、その土地が実らなくなってしまう。そうした彼に神託があって、アケロオス河神のもとに赴けば、そこで真に浄められることになるとあったので、彼は再び家を出て、そしてアケロオス河にたどり着きそこで浄められた。
彼が母殺しの罪を犯した時にはまだ地上になく、従って彼の穢れで汚れていない地であったアケロオス河の河口の堆積地に町を建設することとなり、そのアケロオス河神の娘カリロエと結婚という話になった。
ところが、あの呪われた首飾りと長衣は再びここでもその魔力を発揮し出して、カリロエはそれを我がものとすることを切望し、もしそれが得られなければこの結婚はなかったことにするなどと言ってきた。引け目のあるアルクマイオンは、その願いを拒絶することができず、彼は再びかつて自分を浄めくれ、その娘まで与えてくれたペゲウスのところに戻る。そして、例の首飾りと長衣とは、デルポイのアポロン神に捧げねば自分はエリニュスの呪いを逃れることはできないので返して欲しい、と嘘の願いをしていく。
何も事情を知らないペゲウスは、その言葉を信じて返してやるが、事情を知る召使いが酷い話だと思ったためなのか、すべてをペゲウスに告白してしまう。こうして、騙されたことを知ったペゲウスは激怒し、自分の息子達に後を追いかけさせ、待ち伏せしてアルクマイオンを殺させてしまった。
しかし、まだアルクマイオンを愛していた前妻アルシノエは、この前夫の殺害を怒り父ペゲウスや兄弟に反抗していく。怒った兄弟たちは、この妹アルシノエを箱につめてテゲア(ペロポネソス半島、アルゴスの西方にある町)というところに送ってしまい、しかも彼女が夫アルクマイオンを殺した、などと噂を流してしまう。
一方、アケロオス河口の土地でアルクマイオンを待っていた新しい妻カリロエは、夫アルクマイオンの非業の死を知り、神ゼウスに願ってアルクマイオンと自分の間にできていた子どもたちが、父の復讐のために大きくなるように願う。その願いは聞き届けられて、突然その子どもたちは成長して若者となって、父の仇を求めて旅に出ていくことになる。
他方、アルクマイオンを殺したペゲウスの息子達は、例の呪われた首飾りと長衣とをデルポイの神アポロンに奉納しようとして旅に出ていた。そして運命の悪戯で、二組の兄弟はテゲアで鉢合わせすることになってしまった。父の仇討ちということで、突然大きくなっていたカリロエの子ども達の方が分があって、ここでカリロエの子どもたちはペゲウスの子どもたちを倒し、さらにペゲウスのところまで潜入してきて、ペゲウスをも殺してしまった。
ペゲウスの手の者は彼等を追ってテゲアまで追って行くが、テゲア人はカリロエの兄弟を助けて、結局カリロエの兄弟は逃れていく。そして兄弟は故郷に戻っていきさつを母につげ、父オケロオス河神の命によって呪いの首飾りと長衣とは、やはり神に戻すべきということでデルポイに出かけて、これを奉納していった。
その後、兄弟はエペイロスに行って移民を集め、兄弟の一人の名前「アカルナン」にちなんだ名前の都市「アカルナニア」を建造していった。
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