2021/11/12

日本の伝統的な民衆の神々(1)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/


日本の神々

 日本の伝統的な民衆レベルの神々は殆ど意識されない、ということを前章で触れておきましたが、しかし、それでもちゃんと存在しているのです。ただ、この神々は「自分の名前と姿をきちんと覚えておけ」とは言わない神々なのです。自然の中に隠れて私達を見ている神々です。何かあると「何かに宿り」現われてくる神であり、「神社」などに鎮座している神々とは違います。神社にいるのは『古事記』に登場する「朝廷の神々」となります(ただし、両者が融合している場合もあります)

 

そこでこの章では、そうした日本の民衆の神様たちを整理することにします。この神様たちの多くは「固有名」を持っておらず、持っている場合は「地域の呼び名」となります。一般的な名前を持っており、そして「神社」に祭られている神々は『古事記(及び日本書紀)』に登場してくる神々として、次ぎの章で扱います。

 

1.地域、土地に関わる神

 ここには「氏神」、「産土神」、「鎮守神」、「境の神」、「土地神」、「道祖神」を入れておきたいとおもいます。それぞれを簡単に紹介しておきましょう。なお、この表記は「一般名称」であって、実際には各地方で様々な呼ばれ方がしています。そのとき「固有名」を持っている場合もありますが、ここでは特殊命名としてとりあげません。

 

 また、この民衆の神も「朝廷の神」と融合したり、仏教と習合したり、また自身でも歴史的流れに変化していったりで、決して一律な姿を示してきません。さらには地方的な違いというのも非常に大きく、またさらにどの「神格」もギリシャの神々のように「こんな形姿」として示すことは非常に難しいと言えます。実際、こんな「曖昧で不明確な神」など世界的にも珍しいといえます。

 

氏神

 元々は、その名前が示しているように「氏族」の祖先神、ないし守護神ということでしょう。しかし、武士階級が「荘園」を所持拡大していく過程で、その土地の「土地神」を「氏神」としていったようで、したがってもとは「血縁関係」の神であったものが「地縁関係」に拡大されたようです。こうして、さらに「土地の神」である「産土神」と氏神が融合してしまいました。

 

一方、元々はある特定の領域を守護するものであったらしい「鎮守神」が、この荘園の守護神とされていくことで、氏神は「鎮守神」とも融合してしまいました。こんなわけで、この三者は区別がなされなくなっていきました。しかし時には、この氏神は「家、屋敷に限定」される場合もあり、また文字通り「同族氏族の神」と限定されたり、あるいは氏族を離れ「村全体」の神とされ、村人全員が「氏子」とされて「祭り」の担い手とされたりしています。

 

現在、一般には文字通り「氏族の神」というタイプか、「氏子」と合わせて「村・地域の神」として理解されていることが多いようです。

 

産土神

 「うぶすなかみ」といいますが「うぶ」に「」という字があてられているように、本来「生む」あるいは「生産」の神として「土地の生産神」という性格をもっていたようですが、同時に「出産」の神でもあったようです。しかし、上に示したいきさつから「氏神」や「鎮守神」と融合していきました。

 

鎮守神

 由来的には比較的新しく、中国の「寺院の守護神」が由来か、とも考えられているものですが、働きとしてはそのように「一定の寺院、あるいはここから一定の領域、さらには王城、荘園」などの守護神としての働きをもっていました。奈良の「興福寺」の「春日明神」などが、これにあたります。しかし、「氏神」のところで示した理由によって三者が合体し、ようするに「その地域に住む村人および村の守護」ということになっていきます。村々にある「鎮守様」というのがこれです。

 

境の神

 これは朝鮮由来かと考えられていますが、稲作と同時と考えられ古い由来を持っています。今でも朝鮮の村に観察されるといいますが、日本のものも形態はこれと同類とされています。働きとしては「村」に仇為すものが進入しないように立てるバリアーのような働きをします。

 

一方、『日本書紀』に「いざなぎ」が黄泉の国から逃げ帰った時「ここから先にはくるな」と言って投げつけた「杖」から「ふなと(くなと)」の神が生じたとされ、この神が「ふなと神」として村の境や岐路、坂、峠などに祀られたとされ、この二者が融合しているようです。

 

さらに、仏教の一般人への浸透に伴い「地蔵信仰」が盛んとなって、この地蔵が境の神と重なってきまして、これも少々複雑です。他方で、これは本来「道」に関わるものであったと考えられる、次の「道祖神」との区別も曖昧になってしまいました。

 

道祖神

 働きとしては「境の神」と殆ど同じで区別するのが困難ですが、一般には「道祖神」の名前の方が有名で、働きとしても「道」に関わること全体が司られると考えられているようです。そのため『古事記』での「天孫降臨」の際「道」を照らしていた「猿田彦」が祀られたり、後には仏教での輪廻転生の論における「六道」の守りとしての地蔵が祀られたりしました。

 

また、この道祖神の祭りでは、小正月に村境や四つ辻で門松や正月飾りを燃やして、その火で餅や団子を焼いて食うと病気にならないなどといった祭りがみられ、これは「左義長」と合体などしていきます。こんな具合に、この神も明確さを持っていません。

 

土地神

 その土地を守護する神のことで「地主神」、「地の神」ということです。その土地に何かを創設したり開墾するさい「許可」をもらったりするわけで、今日でも家を建てたりする際に儀式をとりおこなっているのを目にします。

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