2021/11/28

トリムールティ(三神一体) ~ インド神話(3)

三神一体またはトリムールティ(サンスクリット: त्रिमूर्तिः trimūrti"3つの形"の意)は、ブラフマーとヴィシュヌとシヴァは同一であり、これらの神は力関係の上では同等であり、単一の神聖な存在から顕現する機能を異にする3つの様相に過ぎないというヒンドゥー教の理論である。すなわち、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの3柱は、宇宙の創造、維持、破壊という3つの機能が3人組という形で神格化されたものであるとする。一般的にはブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァがそれぞれ創造、維持、破壊/再生を担うとされるが、宗派によってバリエーションが存在する。

 

トリムールティはコンセプトであるが、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの3神を融合した形で象徴的に偶像化されることがある。1つの首から3つの頭が伸びるデザインや、1つの頭に3つの顔を持つというバリエーションが存在し、エレファンタ石窟群のトリムールティ像が有名である。また、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの3神の集合名として「トリムールティ」が用いられることもある。これら3柱の神格が、1つのアヴァターラとして顕現したものがダッタートレーヤーである。

 

歴史、背景

「ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの3柱が単一の神聖な存在から顕現する、それぞれ創造、維持、破壊という別の機能を有する3つの様相である」とするトリムールティの理論は、ヴェーダの時代以降、すなわち紀元前500年以降に定着したと考えられている。しかしブラフマン(至高の存在、宇宙の根本原理)3つの様相を持つというアイデア、神々を3つのグループに大別するというアイデア、神が全て同一であるとするアイデアなど、トリムールティ理論の要素はヒンドゥー哲学の中に古くから存在する。

 

ヤン・ホンダはリグ・ヴェーダ時代(およそ紀元前1700-1100年)、すなわちヒンドゥー教(バラモン教)の最も古い時代の最高神、火の神アグニの持つ3つの性格からトリムールティが発展したのではないかとしている。アグニはリグ・ヴェーダでは3つの体と地位を持つとされ、地上では火として、大気では雷として、空では太陽としてヴェーダの世界に存在した。

 

神々に火、大気、太陽を、そこから発展して地上、大気(または水)、天界を代表させるという考え方はヴェーダ時代(およそ紀元前1500-500年)の早い段階から存在し、例えばそれはヴェーダ初期にはアグニ、ヴァーユ(風)、アーディティヤ(Aditya太陽)であったり、アグニ、インドラ(雷)、スーリヤ(太陽)であったりと、様々な文献で別々の神々の組み合わせが見られる。後にトリムールティの3神となるブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァは、それぞれ、アグニ、スーリヤ、インドラから発展したとも考えられており、この見方をするとトリムールティの3神も地、天、大気を象徴する神々という分類ができる。

 

マイトリー・ウパニシャッド

マイトリー・ウパニシャッド(紀元前10世紀の後半)にはトリムールティの3神が1組として触れられており、トリムールティの起原としてしばしば言及される。例えば4章の5節では、何について瞑想するのが一番良いかという議論が展開される。瞑想する対象として上がるのが、アグニ(火)、ヴァーユ(大気)、アーディティヤ(日)、カーラ(時間)、プラーナ(呼吸、あるいは活力)、アンナ(食べ物)、そしてブラフマー、ヴィシュヌ、ルドラの9つである。

 

ヤン・ホンダによれば、アグニ、ヴァーユ、アーディティヤはヴェーダ時代初期の主要な3柱であり、それぞれ地上、大気、天界を代表する。次の時間、活力、食べ物はブラフマンの、中でも早い段階の顕現ではないかという議論を、ウパニシャッド期の初期に見ることができる。この並びを考慮すると、マイトリー・ウパニシャッドの著者はブラフマー、ヴィシュヌ、ルドラ(すなわちシヴァ)に相互補完関係を見ていたようにも読み取れ、この視点はトリムールティ理論にも含まれている。

 

また、クツァーヤナ賛歌(Kutsayana)と呼ばれる51節でも、これら3神が触れられ、その後の52節で説明が展開されている。汎神論をテーマとするクツァーヤナ賛歌は人の魂をブラフマンであると主張し、その絶対的現実、普遍の神は生きとし生けるすべての存在の中に宿るとしている。アートマン(魂、我)は、ブラフマーをはじめとするブラフマンの様々な顕現であることと同等であると展開する。いわく、「汝はブラフマーである。汝はヴィシュヌである。汝はルドラ(シヴァ)である、汝はアグニ、ヴァルナ、ヴァーユ、インドラであり、汝は全てである」。

 

マイトリー・ウパニシャッドの52節ではブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァはそれぞれが3つのグナと関連づけられている。グナとはすべての生物に見いだすことのできる性質、精神、生来の傾向であるとされ、世界は翳質(タマス)から生じたと語られている。その後、世界はそれ自体の作用により活動し激質(ラジャス)となり、そして精錬、純化され純質(サットヴァ)となった。これら3つのグナのうち、ブラフマーはラジャス(激質)、ヴィシュヌはサットヴァ(純質)、ルドラ(シヴァの前身)はタマス(翳質)をそれぞれ受け持っている。ただし、マイトリー・ウパニシャッドは3柱をトリグナ理論のそれぞれの要素に当てはめてはいるものの、トリムールティの3柱が持つとされている3つの役割については言及していない。

 

梵我一如理論の登場

ヒンドゥー教は、その後ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド(紀元前およそ700年)の頃から、重視される神を徐々に減らしていく。ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッドでは、哲人ヤージュニャヴァルキヤが「存在するのは単一のブラフマンのみである」という梵我一如の理論を展開している。このヒンドゥー教における一元論(不二一元論)的な思想の発現が、トリムールティの形成に少なからず影響を及ぼしたと考えられている。

 

トリムールティ理論の発現

トリムールティ理論は、オリジナルのマハーバーラタ(紀元前4世紀)には登場しないと一般的には考えられている。つまりマハーバーラタの著者は、トリムールティ理論を意識していなかったように思われる。しかし後に編集されたマハーバーラタの付録には、トリムールティ理論を感じされる文言が含まれている。

 

至高の魂は、3つの様相を持つ。ブラフマーの姿は世界を創造する者であり、ヴィシュヌの姿は世界を維持する者であり、ルドラの姿は世界を破壊する者である。

3つの様相を持つブラジャーパティは、トリムールティである。

—マハーバーラタ 3.272.47 および 3.270.47

 

加えて、間違いなくトリムールティの理論を意識して書かれたと考えられている記述は、マハーバーラタの補遺とされるハリヴァンシャ(紀元前1-2世紀)に見つけられる。

 

ヴィシュヌとされる者はルドラである。ルドラとされる者はピタマハー(ブラフマー)である。本質は1つ、神は3つ、ルドラ、ヴィシュヌ、ピタマハーである。

—ハリヴァンシャ 10662

 

ヴァーユプラーナ(シヴァ派、300-500年。プラーナとしては最古の物)は、517節でトリムールティに触れている。ヤン・ホンダは、ブラフマンの3つの顕現という考えがしっかりとした教義になったのは、これが初めてではないかとしている。

 

プラーナ文献に見られるトリムールティ

ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァをひとつの存在として同一視するというアイデアは、クールマ・プラーナ(8世紀頃)にて大いに強調されている。1章の6節では、ブラフマンはトリムールティであるとして崇められる。特に1章の9節では3柱の神の統合を、126節でも同じ主題を繰り返し語っている。

出典 Wikipedia

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