乳海攪拌は、ヒンドゥー教における天地創造神話。
乳海攪拌の物語は『マハーバーラタ』1・15-17(乳海攪拌)、『バーガヴァタ・プラーナ』、『ヴィシュヌ・プラーナ』、『ラーマーヤナ』などで語られている。
偉大なリシ(賢者)ドゥルヴァーサスは、非常に短気で怒りっぽく、礼を失した者にしばしば呪いをかけたが、丁寧に接する者には親切であった。
ある時、人間の王たちが彼から助言を受けるべく地上に招き、美しい花で造った首輪をかけて手厚くもてなしたところ、ドゥルヴァーサスはとても喜び、王と王国を祝福した。
その後、彼はこの美しい花輪を与えるべくインドラを訪ね、その首にかけて祝福した。インドラたちは彼を丁寧にもてなし、滞りなく送り出した。
その直後、インドラが乗る象が花輪に興味を示したため、何気なく与えた。象が花輪を放り出すところをドゥルヴァーサスが見て激怒し、インドラたち神々に呪いをかけ、神々や三界が享受してきた幸運を奪ってしまった。
三界の繁栄は陰り、植物は枯れ、人間の世界は堕落し、神々は力を失った。この機をとらえてアスラ(阿修羅)が天へ侵攻してきたが、超常の力を失った神々はなすすべがなかった。
インドラはシヴァ、ブラフマーに助けを求めたが、ドゥルヴァーサの呪いは彼らにも解けず、彼らはヴィシュヌを訪ねた。ヴィシュヌは、不老不死の霊薬「アムリタ」を飲めば良いと言う。そこでアムリタを作り出すため、乳海攪拌を実行することにした。これは神々だけでは不可能な作業であり、アスラの協力も必要だったため、神々はアスラと和睦した。アムリタを分け合うことを条件に、アスラは協力に応じた。
ヴィシュヌは、多種多様の植物や種を乳海 (Kṣīra Sāgara) に入れた。続いて、化身巨大亀クールマとなって海に入り、その背に大マンダラ山を乗せた。山に竜王ヴァースキを絡ませて、神々はヴァースキの尾を、アスラはヴァースキの頭を持ち、互いに引っ張りあうことで山を回転させると、海がかき混ぜられた。
海に棲む生物はことごとく磨り潰され、大マンダラ山の木々は燃え上がって山に住む動物たちが死んだ。火を消すべくインドラが山に水をかけたことで、樹木や薬草のエキスが海に流れ込んだ。ヴァースキが苦しんで、口からハラーハラという毒を吐いたが、シヴァがその毒を飲み干したため事なきを得、シヴァの喉は毒によって青く変色した。
1000年間攪拌が続き、乳海からは様々なものが生じた。太陽、月、白い象アイラーヴァタ、馬ウッチャイヒシュラヴァス、牛スラビー(カーマデーヌ)、宝石カウストゥバ、願いを叶える樹カルパヴリクシャ、聖樹パーリジャータ (Pârijâta)、アプサラスたち、酒の女神ヴァルニー、ヴィシュヌの神妃である女神ラクシュミーらが次々と生まれた。
最後に、ようやく天界の医神ダヌヴァンタリが、アムリタの入った壺を持って現れた。アスラはアムリタを要求し、神々との争いになった。アスラは一度はアムリタを手にしたが、機転を利かせたヴィシュヌ神が美女に変身して誘惑し、心を奪われたアスラたちはアムリタを美女に手渡した。その結果、アムリタは神々のものとなった。
神々がアムリタを飲む際、ラーフというアスラがこっそり口にした。それを太陽神スーリヤと月神チャンドラがヴィシュヌ神に伝えたので、ヴィシュヌは円盤(チャクラム)でラーフの首を切断した。ラーフは首から上だけが不死となり、頭は告げ口したスーリヤとチャンドラを恨み、追いかけて食べようと飲み込むが体がないため、すぐに外に出てしまう(日食・月食の起源)
ラーフは、その体ケートゥとともに、凶兆を告げる星となった。その後、アスラは神々を激しく攻撃してきた。神々の側で戦うヴィシュヌ神が心に日輪のごとき武器を思い描くと、天からスダルシャナというチャクラムが現れた。ヴィシュヌ神や神々はアスラに勝利し、アムリタを無事持ち帰った。
出典 Wikipedia
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