出典http://ozawa-katsuhiko.work/
日本の仏教は伝えられて以降、様々の展開を遂げているのですが、それらの一つの現象として「様々の宗派」と「様々の信仰形態」が生まれている、ということも特徴の一つとなります。むろん、複数の宗派を持つということは大きな宗教では普通にあることですが、そこには「離反・争い・敵意」という性格がついて回っています。しかし、日本仏教に限っては、そうした確執が殆どないのです。みんな横並びで、「他人は他人、自分は自分」という性格をもっています。ここでは、その様々の宗派と、観音信仰とか地蔵信仰といった、様々の信仰形態の代表的なものを紹介しておきます。
日本仏教13宗
通常、日本での宗派は「13宗」と数えられ、さらにそれが多くの分派になってくるという形になってきます。ここではその「13宗」を紹介します。順序は一応、歴史的順序と同類項とを組み合わせておきます。
1.律宗:奈良仏教、いわゆる「南都六宗」の一つ。「戒律」の哲学的研究。
2.華厳宗:上に同じ。「華厳経」の縁起説の哲学的研究。
3.法相宗:上に同じ。唯識(すべてのものの実相は、ただ心の働きに過ぎないとする哲学)の研究。
4.天台宗:最澄の宗派。法華宗を中心に戒律、禅、念仏、密教などを含んだ総合的仏教で、多くの宗派の母胎。
5.真言宗:空海の宗派。密教のみ。
6.融通念仏:天台宗から出た「良忍」の宗派。念仏宗の始祖。一人の念仏が万人に「融通」するとする。
7.浄土宗:法然の宗派。「念仏のみ」にての成仏を主張。
8.浄土真宗:親鸞の宗派。阿弥陀への「信仰のみ」にての成仏を主張。
9.時宗:一遍の宗派。すべてを捨て去った「念仏」と「踊り念仏」。
10.臨済宗:栄西の宗派。禅宗。公案による禅。
11.曹洞宗:道元の宗派。ただ座禅のみ。
12.黄檗宗:隠元の宗派。禅宗。念仏禅。
13.日蓮宗:日蓮の宗派。法華経のみによる「法華経の国家」建設を主張。
上記13宗の中の主要宗派
天台宗
これは「最澄」の始めた宗派としてとりわけ有名で、「鎌倉六宗の母胎」でもあって、言ってみれば「日本仏教の母」とも言える存在です。仏教史的に最も重要な宗派であり、今日でもその重要性は変わりません。
その日本天台宗の母胎は「中国の天台宗」にあり、それは智顗(ちぎ)によってはじめられたもので、「法華経」を中心にし、理論と実践を完備させた体系を持っていました。
法華経というのは、様々の比喩の物語を用いたりして「仏の功徳」を語ったもので、たとえば
「家が火事になっているのに、その中にいる子供たちは遊びに夢中で、事態の深刻さなどにとんと気付こうともしない。そこで、外に羊の車、鹿の車、牛の車があるよ、と声をかけてやると大喜びで出てきた。そして子供たちがでてきたところで立派な白牛の車を与えた………」
などという話があるのですが、この「火事の家」というのは私たちの現実であり、それが火事であるにも気が付いていない子供とは私たち自身を表し、三台の車というのはこれまでに説かれてきた悟りへの道をいい、白牛の車というのはそれを凌駕する究極の教えである、といった具合です。
こんな具合に哲学的理論に偏っていないことや、すべての衆生の成仏の可能性の中に「女性の成仏の可能性」をも示唆していると読める点、また釈迦は死んだと思われているけどそうではなく、本当はしょっちゅうこの世にあって衆生を救済しているのだけれど、阿呆のようになっている衆生は気がつかないのでショックを与えて気が付くようにするため「死んだふり」をしてみせたのだ、とかの話で「仏への帰依」の効果を語っているものでした。
ただ最澄は、これだけに依拠するのではなく、「禅」や「戒律」「密教」までも学んで、これを統合させようとしました。こうした「総合性」が天台宗の最大の特徴でしょう。そうした立場から、彼はまだ認められていなかった「大乗による戒律」の認知に生涯を傾け、日本における大乗仏教の礎石を築いて行きました。こうして、ここから様々の宗派が育っていったのでした。
ただ「密教」に関しては、最澄は自分の勉強不足を自覚しており、それを隠すなどということはせずに、年下の空海などに頭を下げて教えを乞うたりしています。誠実な態度でしたが、一方空海の方はそれを拒絶したばかりか、これ幸いと最澄の高弟を自分のところに引き抜いてしまったりして、最澄に打撃を与えたりしています。そうした経緯があったせいか、最澄の弟子達は「密教」の勉強に必死になって、やがてむしろ密教の方に偏ってしまったりもしています。そうした天台宗の密教を「台密」と呼んで、空海の「真言宗」の「東密」と区別しています。天台宗の総本山は「比叡山の延暦寺」です。
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