2022/10/16

アーサー王伝説 ~ ケルト神話(2)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/

 そのケルトの英雄物語として、もっとも人々に知られているのが「アーサー王物語」ですが、これはケルト伝説の「アーサー王」をモデルに、その後西欧の様々の作家がイメージを膨らませて拡大・脚色し、キリスト教的倫理を付加して、物語として「アーサー王と円卓の騎士の物語」として一大ロマン劇にしたことで有名となっているものです。

 

 本来のケルトの伝説では、元々この「アーサー王」というのは実在のケルトの王であったようで、侵略してくる異民族に対してケルト民族を率いてこれを撃退した王として、古文献に名前が記録されています。その後、ローマのカエサル、続いてゲルマンのアングロ・サクソンに征服されてしまったケルト民族ですが、その時点でアーサー王は「ケルト再興」のために復活してくれる「民族の英雄」となり、伝説が形成されていったようです。ですから太古のケルト神話というより、ケルトの受難時代に作られた物語と言えますが、ケルト人にとっては伝統的神話・伝説の一つとも思われたでしょう。

 

 その神話・伝説化された時点での物語の祖型は、ケルトのブリテン王が魔法使いマーリンの力を借りて、他者に嫁いでいた恋する女イグレーヌと交わることに成功し、ここにアーサーが生まれる。長じてアーサーは宝剣エクスカリバーを得てブリテンの王となり、やがてギネビアと結婚する。そして侵略を計る異民族と戦いこれを平定し、敵の息の根を止めようと長い遠征の旅に出る。ところが留守を預けられていた甥のモルドレッドがアーサーの留守を狙って王位を簒奪し、アーサーの妻ギネビアまで自分のものにしてしまうという事件が持ち上がった。急を聞いてアーサー王は、とって返してモルドレッドを倒すけれど自分も重傷を負ってしまい、アバロンの島へと去っていく、というものです。

 

 この物語に中世の宮廷風の色合いを加え、恋愛物語を付加し(トリスタンとイゾルデの悲恋物語などが典型的)、さらに「円卓の騎士団」の物語が加わり、「聖杯伝説」が加わり、キリスト教倫理に色づけられという具合にして発展していくことになりました。

 

 ケルトの原型では、英雄的な王とその再来(アバロンに去った王が、やがて傷をいやして戻ってくる)という民族願望の伝説であったものが西欧に受け入れられて、中世騎士道の物語と変形されていったわけです。

 

「侵略の書」の概略

 これらの英雄物語の中心になると考えられるのが「侵略の書」に見られる「部族の支配交代の神話」となると思われます。というのも、この支配交代にまつわって他の様々の物語が展開されていくからです。この物語は「部族の支配交代」という実際にあった事実をモデルとして、その思い出を物語っていると考えられ、これはギリシア神話などに見られる神々の支配交代神話と軸を同じくしていると思われます。そして、その中で自分たちの奉ずる神々の姿を形成していったと思われます。

 

 その神話は「トゥアサ・デ・ダナン(女神ダヌーの一族、ダーナ神族)」の物語が中心となります。つまり、彼らがこの島に来る以前は「パーソロン」「ニュブズ」の族に次いで「フィルボルグないしフォヴォリ族」の一族がこの地を支配しており、ダーナの一族は彼らと戦い融和してここの支配者となり、そしてさらに「ミレシウス」の到来によって退いていくとなります。

 

 ですから最期の「ミレシウス」の一族が最終的にアイルランド人となりそうで、従ってここに重点があってもよさそうなのですが、物語は「ダーナの一族」が中心なのでした。これはどうも、最期の「ミレシウス一族」というのは、遠来の異民族が来訪して定着してアイルランド人となったというわけではなく、むしろアイルランド人の「キリスト教化」を意味しているようで、「ダーナの一族」というのが生来のアイルランド人ないしその奉ずる神々だったようなのです。アイルランドのケルト人は、こんな形でキリスト教化された後も父祖伝来の神々を残していったと思われるのですが、ここでその物語の粗筋をみてみましょう。

 

 さて、「ダヌー女神」の一族とされる神の一族は、船に乗って海を渡りアイルランドの地に至った。彼らはこの島を支配していた「フィルボルグの一族」に島の半分をもらいたいと申し入れたが拒否され、ここに二つの種族は戦いとなっていった。激戦となり、ダーナの一族の王「ヌアドゥ(ヌアザ)」は、一度鞘を抜かれると相手を倒さずにはいないという宝剣の持ち主ではあったのだが、戦いとなって右腕を肩から切り落とされてしまった。こうしてこの戦いの勝利を諦め「和平」を提案して兵を引くこととなり、こうして二つの種族は共に、この島にあることとなった。

 

 しかし右手を失ったヌアドゥは王位を譲るということになり、ここにその王位を奪ったのは「ブレス」という男であった。ところがこのブレスというのは、確かに母親はダーナの一族であったけれど、父親というのが「フォヴォリ」(ダナンの一族にとっては仇敵であり、海の一族であって凶暴で醜く悪しく描かれるが、むしろ先住民族ないしその神々と考えられる)の一族の王であった。つまり、ある時船でやってきたフォヴォリの王は、たまたま海岸に来ていたダナン一族の娘を犯してしまい、こうしてその娘は子どもを孕まされてしまった。そして生んだ子どもがブレスなのであり、彼は「フォヴォリの王」の血を引いているため強力ではあったのだが、しかし性格は至って悪かった。

 

 こうして王となったブレスは、その悪の性格のままにダナンの一族に重税をかけ、使役を強要し苦しめていった。その上ダナンの一族の英雄たちにも苦役を課し、たとえば兵士全員の食料を供給することができるという魔法の鍋の持ち主で祭儀を司る英雄「ダグダ」は城の回りに壕を掘らされ、勇猛な戦士「オグマ」は城を使う薪を毎日海の向こうの島から運ぶことを命じられた。しかし食べ物を十分に与えられていないオグマは、海を渡るとき薪の三分の二を波にさらわれてしまうのであった。

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