2025/04/04

「第二の師」ファーラービー(2)

イラン系出自説

アル・ファーラービーの最も古い伝記作家である中世アラブの歴史家イブン・アブー・ウサイビア(1203-1270)は、アル・ファーラービーの父親はペルシャ系であったと著書『ウユーム』で述べている。1288年頃に生きていたアル・シャフラズーリーも、アル・ファーラービーがペルシャ人家庭で生まれたとしている。ジョージタウン大学の名誉教授マジド・ファクリーによれば、ペルシア人血統の軍の士官であったという。ディミトリ・グタスは、アル・ファーラービーの著作にはペルシャ語、ソグド語、さらにはギリシャ語での引用や影響が含まれているが、トルコ語は含まれていないことに注意している。ソグド語が、彼の母語であるという提案もされている。ムハンマド・ジャヴァド・マスフールは、イラン系言語を話す中央アジア人であることを主張している。

 

トルコ系出自説

トルコ系出自説で最も古い言及は、歴史家イブン・ハリカーン(-1282)の『ワハヤート』(1271年完成)による。ファーラーブ(現在カザフスタンのオトラル)に近いワスィジの小さな村で、トルコ人の両親より生まれたと述べている。この記述に基づいて、現代の学者の中には彼がトルコ人であるという人もいる。ギリシャ出身のアメリカ人アラブ学者であるディミトリ・グタスは、これを批判する。

 

イブン・ハリカーンの記述は、イブン・ウサイビアによって初期の歴史的記述を目的とし、アル・ファーラービーのトルコ人起源を証明する目的で、例えば追加されたニスバである”アッ・トゥルク”(トルコ人)などを使用する。これは、アル・ファーラービーは決して用いなかった。イブン・ハリカーンをコピーしたアブル・フィダー(1273-1331)は、アッ・トゥルクを変更して「彼はトルコ人であった」とした。この点に関して、オックスフォード大学教授C.E.ボスワースは「アル・ファーラービー、アル・ビールーニー、イブン・スィーナーなどの偉大な人物を、熱狂的なトルコの学者によって彼らの民族に結び付けられている」と述べている。

 

生涯と学習

アル・ファーラービーは、ほとんどをバグダードで過ごした。イブン・ウサイビアによって保存された自叙の一節で、アル・ファーラービーはユハンナー・ビン・ハイラーンの下で『分析論後書』などの論理学、医学、社会学を学んだ。すなわち、伝統的教程に従ってポルピュリオスの『エイサゴーゲー』、アリストテレスの『カテゴリアイ』『命題論』『分析論前・後書』を学んでいった。

 

彼の師であるユーハンナー・ビン・ハイラーンは、アッシリア教会の聖職者であった。おそらくアル・ムクタディルの治世中にユーハンナーが没するまで、その期間は続いたとアル・マスウーディーは記録している。彼は、少なくとも9429月末まではバグダードにいたと、『有徳都市の住民がもつ見解の諸原理』で述べている。彼はその翌年に、つまり9439月までにダマスカスでこの本を完成させた。彼はしばらくアレッポに住み、のちにエジプトを訪れ、『諸原理』の6セクションをまとめて9487-から9496月に要約し、シリアに戻りハムダーン朝の支配者サイフ・ッダウラの支援を受けた。アル・ファーラービーは、339回目のラジャブ月(9501214日から951112日)にダマスカスで死去した、とアル・マスウーディーはこの出来事の5年後に書き記した。

 

著作

彼は『エリクサーの技術の必然性』という書を書いた。

 

論理学

彼は主にアリストテレス的論理学者であったが、著作には多くの非アリストテレス的要素が含まれている。未来の条件、数、カテゴリーの関係、論理学と文法学の関係などのトピックや非アリストテレス形式の推論を議論した。また、仮言三段論法と類推的推論の理論を考察した。これはアリストテレスではなく、ストア派論理学の伝統である。他にアリストテレスの詩学に三段論法の概念を導入した。

 

アル・ファーラービーの主著の一つに『命題論注解』がある。

 

音楽

『音楽の書』のにおいて、音楽についての哲学的な原理や、その広大な性質や影響について書いた。また音楽が心理に及ぼす治療効果について議論した『知性の意味』という論文を書いた。

 

哲学

初期イスラーム哲学において「ファーラービー学派」として知られる学派の創設者であったが、のちにはイブン・スィーナー学派によって影響力を落とした。アル・ファーラービーは、数世紀にわたって哲学・科学に大きな影響を及ばした。その時代において、彼は「第二のアリストテレス」と呼ばれた。

 

自然学

『真空について』という短い論文を書き、虚空の存在の性質について考察した。彼はまた真空の存在に関して、水中での吸引機を使った最初の実験を行ったと目されている。彼の結論は、空気は利用可能な空間を埋めるために拡張できるということであり、完全な真空は不合理だということだった。

 

心理(霊魂)学

『都政論』『有徳都市』で、社会的心理学の原理を書いた。また『有徳都市』24章に名の出ている『夢の原因について』という論文では、夢解釈と夢の性質と原因を弁別した。

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