出典https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/
日本料理も和食も、文明開化の時代に西洋料理(洋食)が生まれた時、これに対して出来た言葉で、日本料理は石井泰次郎の『日本料理法大全』(明治31年)において一般化したものである。和食の初見はまだ見出せないが、さらに時代は下るであろう。しかし「日本料理」といった時のイメージは、料理屋で提供される高級料理のイメージがあり、家庭食に重点を置いて日本食文化の全体を見ようとすれば「和食」という言葉の方がふさわしい。
和食の最も基本的な要件は「ご飯」である。ジャポニカの米を水炊した、ご飯を主食とすることが和食である。もちろん麺類も餅も和食のうちではあるが、麺類や餅が主食となるのは副次的な和食のコースと考えておこう。
次の要件は汁である。汁は味噌汁だけではなく、塩味の清まし汁もある。潮汁のように魚を素材とする汁もあれば、野菜や豆腐などを具とする汁もある。
ここで一つ断っておきたいことは、汁と吸物の違いである。汁と吸物の違いは、調味料や具材の質や量によるものではない。ご飯と一緒にとるものが汁で、吸物とは酒とともにとるものである。共に飲食する相手によって呼称が変わる。吸物でご飯を食べるということは本来いわぬことで、吸物で一献というように吸物は酒と共にすすめるのが正しい。ご飯を食べるのに、日本人は昔から汁を飲んだ。
「まるで汁がなければ、ご飯が食べられないようだ」と、400年前のポルトガル人の記録にみえる。それほど汁が好きだったから、贅沢な料理を出そうとすると二種も三種も汁を出すことが江戸時代の献立ではしばしばあった。これを本膳料理といって、二の膳つきの場合は必ず汁が二種つくことになっていた。しかし、庶民の間では汁は一種とした。ただし、汁はおかわりしてよいもので一度まで許されたが、二度目の汁のおかわりは勧められても断るのがマナーである。
漬けものも和食に必須の要件である。漬けものは殆どが塩漬けで、乳酸発酵した場合、酸っぱく塩からい漬けものとなった。日本では、酢漬けは発達しなかった。塩に加えて糠を加えて漬ける糠漬けには独特のうま味と香りが加わって、日本人が愛好する漬けものの代表格である。こうした香りを楽しむという意味で「香のもの」と言ったり、その瑞々しさを楽しむところから「お新香」といったりする。この香りは、ことに生まぐさの素材である魚介類を食べた後、口中をさっぱりさせる効果もあった。
和食の要件としてはご飯、汁、漬けものの他に「お菜」がある。お菜とは主食に対して副食といわれるもので、主食のご飯をおいしくいただくための「おかず」である。お菜と肴の違いも、一言ふれておこう。
先の汁と吸物の関係と全く同じで、同じ刺身の一皿であっても、ご飯と一緒に食べると「お菜」、酒と一緒に食べれば「肴」である。酒と肴は本編では一応外に置くので、ここではお菜だけを問題にしよう。
和食では、いくつお菜を用意するのが一般的か決めるのは難しいが、古くより「一汁三菜」といって、汁が一種にお菜が三種というもの言いがある。飯と漬けものは必須で、しかも数は一種に決まっているので、変化する汁と菜の数だけを表示する習慣である。
三菜でなくとも、二菜、一菜ということもあるし、贅沢な食事であれば五菜とか、極端な中世の本膳料理では七つの膳に二十三菜という食べきれないお菜が並べられた例もある。逆に極端に質素な場合、無菜ということもある。飯と汁と漬けものだけという粗食の例も、かつては色々なところにあった。
つまり和食の一つの特徴は要素だけそろえば、お菜の内容は自由度が高い。ある意味で、アラカルトであるということである。刺身であれ天ぷらであれ、好きなものを組み合わせることができるし、お菜の数の多いか少ないかの違いと考えれば、料理屋料理も家庭料理もひと続きのものとすることができよう。
さて、ここでは和食の中で標準的な数として、三菜を論じることにする。三種のお菜は、その中に主従の関係がある。つまり「主菜」と「副菜」である。もしも主菜を焼魚(天ぷらでもさしみでも何でもよいが)とすれば、副菜としてもより軽い料理が二種つく。
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