2016/09/12

痛恨(真夏の悪夢part3)



 「うちでできる検査は限界があるので、大病院でCTなどの精密検査を受けた方がいいでしょう。
 検査の結果、問題なければ入院の必要はないかもしれませんしね。
 ともあれ紹介状を書きますので、今すぐ行けますか?」
 
 と言うと、医師は有無を言わさぬような強い目つきで見据えてきた。
 
 「今日は、職場で重要な会議があるので・・・」
 
 「うーむ・・・色々と、ご事情はあると思いますが、ことは急を要すると思いますよ。
 直ぐにも、入院が必要な数値なのですから」
 
 「では1日だけ、待ってもらえませんか?」
 
 「明日は土曜だから、やってたかなー」
 
 というと、医師はPCで病院の検索を始めた。
 
 「ああ、午前中ならやってますね。
 大丈夫そうです・・・」
 
 「では明日、来ます」
 
 「本当は早い方がいいと思いますが、まあ色々ご事情があるなら止むをえませんね。
 明日は、必ず来ますね?」

 
 と、医師は強い目つきで念を押してくる。
 
 「もちろん、朝イチで来ますよ」
 
 「明日になって、良くなっていればいいですけどね。
 くれぐれも、あまり無理をしないように」
 
 その日は1日安静していたいところだったが、職場で重要な会議が待っているため、そうもいかぬ。
 
 前日にも、PMなどから
 
 「明日の会議は、出てくださいね」
 
 と念を押されていた。
 
 ところが不思議なことに、この日は朝からあまり痛みを感じなかった。
 
 前日まで続いていた痛みに比べ、格段に良くなっているように感じる。
 
 (ようやく、薬の効果が出てきたかな?)
 
 と思うほど、初めて殆ど痛みを感じず昼休みを迎えた。
 
 前の週までの元気な時は、ランチは日高屋のつけ麵か冷やし中華か野菜炒め定食、あるいはサイゼリアのパスタランチかハンバーグ定食が定番で、食後のコーヒーもガブガブ飲んでいたが、さすがにこの週は食欲もあまりなく、職場の自販機で買ったパンなどで済ませていた。
 
 会議の始まる3時まで、殆ど痛みを感じないままに過ごせたせいで
 
 (こりゃ、明日の精密検査は必要ないかも・・・)
 
 などと、都合の良いことを考えていた。
 
 そうして会議を迎えたが、これがいつものことながら長いのである。
 
 3時に始まり終わったのが6時近く、その間休憩もない
 
 会議前まであれほど快調だったのが、長い会議の途中からシクシクと痛み初め、後半になるとすっかり前日までの状態に戻ってしまっていた。
 
 その後も会議の後処理などをし、家に帰ってからも症状は改善しないまま、遂に「Xデー」を迎える

●86日(土)
 院長に紹介状を書いてもらい、これまでの検査結果の資料一式を渡され、そのまま真っ直ぐ総合病院へ向かう。
 
 病院では、ちょうど開幕したばかりのオリンピックの開会式が、待合室のTVで中継されていた。
 
 血液検査は結果が出るのに時間がかかるからと、先に採血をした上でCT検査、X線、心電図などひと通りの検査をこなしていく。
 
 CT検査は、もちろん初めてだ。
 
 おめでたいことに、この時点でもまだ
 
 (通院はともかく、入院なんてことはないだろう・・・)
 
 という楽天的な気持ちがあった。
 
 やはり、これまで風邪以外の病気をしたことがないだけに
 
 (入院なんて、自分とは無縁の事)
 
 という思いが、未だ捨てきれなかった。
 
 が、そんな淡い期待を打ち破るように、遂に厳しい現実が突き付けられた

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