2017/02/09

神代七之巻【須佐之男命被避の段】(『古事記傳』9-1)

口語訳:八百万の神々は相談して、速須佐之男命に大きな賠償責任を負わせ、鬚を切り、手足の爪も抜かせて、高天の原から追放した。

また大氣都比賣神に食べるものを欲しいと言った。そこで大氣都比賣は鼻・口・尻から様々な食べ物を取り出し、様々に料理して奉った。ところが物陰からその様子を窺っていた須佐之男命は、「汚い物を食わせようとする」と思い、たちまち大氣都比賣を殺してしまった。その死体には、頭に蚕が生じ、二つの目には稲の種が生じ、二つの耳には粟が生じ、鼻には小豆が生じ、陰部には麦が生じ、尻に大豆が生じた。そこで神産巣日命はこれを取らせ、人々の食べ物の種とした。

 

書紀の一書(第三)に、素戔嗚尊が出雲に行く前、長雨の降る中で、蓑笠を身に着け、神々の戸を叩いて宿を貸してくれと頼んだが、どの神も宿を貸さず、甚だ苦しみながら天から降ったという話が出ている。ここでは、「又」の字の上に、何かそうした話があったのが、脱け落ちたように思われると、師は言ったが、実際そうだろうと思う。これは稗田阿禮が口に唱えたとき、すでに脱け落ちたのだろうか。前文の「やらわれた」後に、何もなくていきなり「また」とあるのは、おかしいだろう。初めから今のような内容なら、「また」でなく「故(かれ)」などとなっていたはずだ。【この段がここに置かれているのが不審である理由は他にもある。そのことは後に述べる。】

 

○食物は「おしもの」と読む。

 

○大氣津比賣神【津の字を一本に「都」としており、それは次に同じ名が出るのと同じ表記だから悪くはないが、その次にはまた「大宜津」とあるので、ここも「津」の字でもいい。】は、前記【伝五の五十三葉】に述べたように、食物の神だから、何か食物をくれと言ったのである。このことは、書紀では「天照大神は天上にいて、月読尊に『葦原の中つ国には保食神(うけもちのかみ)というのがいるそうだから、お前ちょっと行って見ておいで』と命じた。月読尊は承って地上に降り、保食神のもとに至ったところ、保食神は云々」とあり、その後はおおむねここの記事と同じだが、天照大御神の命によって月夜見命が様子を見に行ったとあるのは、伝えが異なる。だが保食神と大氣津比賣が同一神と思われることは前述した通りである。

 

【このことについて、つらつら考えると、月夜見命と須佐之男命は、同一神のように思われる点が多い。月夜見の「夜見」は黄泉であって、須佐之男命が最終的に帰属した国である。根の国が黄泉であることは上述した。昼夜として見ると、昼はこの世、夜は黄泉だから、「夜の食(お)す国」というのにも関連がある。またこの記には、須佐之男命に「海原を治めよ」と事依(ことよ)さした、とあるのと、書紀の一書に、月夜見命には「滄海原の八百重(やおえ)を治めよ」と命じたとあるのとを考え合わせよ。それにここで須佐之男命が大宜津比賣を殺した話が、書紀では月夜見命のこととなっていて、「天照大神は激怒して月読尊に『お前は悪神だ。もう顔も見たくない』と言って、昼と夜に分かれて住むようになった」とあるのも何となく須佐之男命のことを思わせる。しかし、諸々の古い書物に、この二柱を同一神とした伝えはなく、みな別神としているのは、あたかも同一神のようであってなお別神であるところに、深い理由があるのだろう。軽々しく断定することはできない。】

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