2019/08/10

神話を彩る妖精たち(ギリシャ神話61)


海の妖精、ネレイス(ネレウスの娘たち)
 海の妖精の代表のもう一種族はネレウスの血筋の者たちとなる。ネレウスは大地ガイアと原初の海ポントスの子となる。オケアノスの娘ドリスとの間に50人(別伝では100人)の娘たちを持ったとされる。その代表的な娘たちは、イカのようである。

アムピトリテ
 彼女は、姉妹たちと戯れているところを海の神ポセイドンに見初められて浚われ、一度は逃げ出すものの、ポセイドンの執拗な探索についに見つかり、その妻とされた。このように、妖精から女王となったのは彼女一人となる。ちなみにと呼ばれ得る神は、オリュンポスの「主神ゼウス」と「海の神ポセイドン」と「冥界の神ハデス」の三人だけであり、ハデスの場合は姉妹デメテルの娘ペルセポネを妻とするのだが、その時もハデスに浚われた娘を探索するデメテルに、すべてを見ていた太陽の神ヘルメスは「王の妻、女王になるのだからいいではないか」などと慰めている。

テティス
 様々なところで顔を出す彼女であるが、言うまでもなくギリシャ最大の戦士、トロイ戦争の英雄アキレウスの母となるからで、その経緯の物語はゼウスと関わり有名となっている。その他にも、プロメテウス伝説とかヘラの物語とかに登場してくる。その扱いは、完全に女神扱いである。彼女ほど、オリュンポス神族に女神としてなじんでいるネレイスはいない。妖精として紹介するのは、気が引けるほどである。

ガラテイア
 その名前は、海の白波のしぶきが「乳(ガラ)」の飛沫に見立てられた時の名前といえる。一つ目の巨人キュクロプスのポリュペモスが彼女に恋したが、彼女はアキスという恋人をもっていた。そのガラテイアとアキスが逢い引きしているところをポリュペモスは発見し、怒りのあまり岩を投げつけてアキスを殺してしまったという物語がある。この物語は「醜く無骨な巨人と美しい妖精の乙女の物語」としてローマ時代に作られた物語らしく、ガラテイアは死んだ恋人を河に変じたのだが、この河はシケリア島のエトナ火山近くの河となっている。別伝では、ガラテイアはポリュペモスとの間に「ガラス」「ケルトス」「イリュリオス」を生んだとされるのだが、この三人は「ガラティア人」「ケルト人」「イリュリア人」の祖とされ、この三種族とも生粋のギリシャ部族ではないため、彼女は「異部族の母」とされる所以が、どこかにあったのかも知れない。

パノペ
 航海者を嵐から救助する海の妖精として船乗りたちに敬愛されたようで、その場面では守護女神のように扱われていたろう。

プサマテ
 もっとも敬虔なるものとして、死後に冥界の裁判官となるアイアコスに愛された。しかし彼女は、それを逃れようとアザラシ始め様々に身を変えたがアイアコスは彼女を離さず、ついに交わったという。こうして一子ポコスが生まれたが、その優れを妬んだペレウス(アキレウスの父となる)たちに殺され、そのとき彼女は巨大なオオカミをペレウスの家畜に襲わせたという。後に彼女はアイアコスと別れて、プロテウスの妻となったという。

他の海の妖精たち
 「海の神ポルキュス(大地のガイアと原初の海の神ポントスの子で、上記のネレウスの兄弟)」から生まれた子には海の妖怪が多いのだが、その代表であるスキュレには悲しい言われの物語がある(ただし、スキュレについては異伝が多い。ここでは、ポルキュスの子として紹介する)

スキュレ(スキュラ)
 彼女は美しい海の妖精であったのに、海神の一人グラウコスに見初められてしまう。しかし彼女はそれを拒絶し、そのためグラウコスは魔女であったキルケに媚薬を頼んでしまう。ところが、グラウコスとキルケというのは以前からの男女であったため、キルケはこれを怒り媚薬の代わりに魔法の薬草を調達して、それをスキュレがいつも水浴びをする泉に潜ませてしまう。何も知らないスキュレは水浴びに来て、この薬草の毒に当たって胸から上は元のままなのに、脇腹から六つの犬の頭と十二本の足が生えている凄まじい妖怪に身を変えられてしまった。そのため彼女は海に面した絶壁の中に住まい、下の海を行く船から一度に六人の水夫をかっさらって餌食にするというような身の上になってしまう。彼女の行く末については退治されたとか、岩に変身したとか、殺されたけれど魔法で再び元の姿に戻ったとかの物語があるが、ポルキュスの伝承では最後の伝承であり、父ポルキュスは娘を元の姿に戻したとなる。

0 件のコメント:

コメントを投稿