2019/08/24

神話を彩る妖精たち(ギリシャ神話62)


カリュプソ
 ホメロスの『オデュッセイア』に登場する、下級の女神とも妖精ともつかない女性で「地球を担ぐ神アトラスの娘」とされている。生まれからは「妖精」と言うべきなのだが、彼女は自分の島に召し使いの妖精まで持っていて、その力は女神並のものとして扱われている。
彼女は漂流していたオデュッセウスを救助して共に暮らすようになる。自分と共にここに暮らす限り不老不死で何の憂いもないというのに、望郷の念が募ったオデュッセウスを再び海へと帰してやる。

「河の神」たちの娘として生まれた妖精たち
 「海の妖精たち」の他に「河の神たち」の娘である妖精に有名人が多い。その代表的な者立ちを紹介する。

イオ
 河の神イナクスの娘、妖精「イオ」の物語も良く知られている。ゼウスは、ヘラの巫女となっていた愛らしい娘イオを狙っていたが、ある時妻ヘラの目をくらませようと雲となってイオを襲い、思いを遂げていった。
しかし時ならぬ時に怪しげな雲の固まりがあったのではかえって妻ヘラに怪しまれ、慌てたゼウスはイオを牝牛に変えて言いつくろうとする。しかし、ヘラの目をごまかすことはできず、イオは牝牛に変えられたまま虻に苛まれて世界中を彷徨わなければならなくなってしまう。

アイギナ
 彼女は「アソポス河」の娘となる妖精だったがゼウスによって誘拐され、ある島でゼウスによって子どもを孕まされ、以来この島は「アイギナ島」と呼ばれるようになったという。その子こそ、最も敬虔なる英雄として死後冥界の裁判官の一人となる「アイアコス」であった。

ダフネ
 彼女は一説ではペロポネソスの「ラドン河の神」、一説ではギリシャ本土中部の北を流れる「ペネイオス河」の娘であり山野の妖精であったが、アポロンに愛されて追われ、ついに河辺まで逃げてきたところで追いつかれ、そこで父たる河の神に願って我が身を一本の樹に変えてもらったとなる。その樹が「月桂樹」で、それ以来、この月桂樹はアポロンの聖樹とされた。

山野、森の妖精たち
カリスト
 彼女は「純潔の女神アルテミス」に忠誠を誓って、彼女に付き従っていた森の妖精であった。その彼女を見初めたゼウスは、彼女が一人でいるところに主人であるアルテミスに変装して近寄り、安心していた彼女に襲いかかって犯してしまう。
その後、彼女は熊に身を変えられ、色々あって後に天に上げられ大熊座になっていった、という話は有名となっている。一方、彼女が孕んでしまったゼウスの子はアルカスといい「アルカディア王家」の祖となっていく。この物語は星座の由来と名家の祖の由来話とが含まれたものとなっている。

シュリンクス
 彼女は「牧神パン」の物語で良く知られた山野の妖精となる。牧神パンは葦笛を持っていることで有名なのだが、この葦笛の由来がシュリンクスにある。物語はアポロンとダフネの物語と似ていて、パンが美しいニンフのシュリンクスに恋をして追いかけ、シュリンクスは逃げるがついに川辺に追いつめられた時、願って自分の姿を葦に変えてもらった。
パンは姿の消えたシュリンクスに戸惑うが、そこに生えている葦の茎を切り取り、長さを違えてくっつけ合わせてそれを吹いたところ妙なる音楽を響かせ、以来パンはそれに恋しい少女シュリンクスの名前を与え、常に身に携えていた。

エコ
 エコは木霊となる森の妖精として有名だが、その由来として三つがあり、一つ目は良く知られた「水に映った自分の影に恋したナルキッソス」との物語となる。
それによると、ナルキッソスという美少年は水に映った自分に恋してしまい、すべての少女たちの愛を拒絶し、彼を愛した少女の一人であったエコは憔悴して身が透けてしまい、声だけが残ったというものである。
二つめは、彼女は神ゼウスに頼まれて、ゼウスが女の元に行く時には、その妻ヘラといつまでも話をするようにしたという。しかし、この策略がばれてヘラはエコの身体を消して、声だけにしてしまったという。
三つ目は、牧神パンがエコに恋したがエコはこれを拒絶し、そのためエコはパンによって狂わされた羊飼いに襲われ、八つ裂きにされてしまう。しかし大地がその身体を隠し、声だけを残したというものである。

木の妖精たち(ドリュアデス)
山野の妖精とは一色異なった「木の妖精」たちもいる。

エウリュディケ
木の妖精」の中で最も有名な妖精となる。音楽の英雄オルペウスの妻となり、ある時、川岸を散歩していた時暴漢に襲われ、逃げる途中草むらに居た蛇に足をかまれて死んでしまう。夫オルペウスは妻を求めて冥界へと来て、一度は奪回を許されるものの、後ろを振り返ってはならないという禁令を今一歩のところで犯してしまい、再び妻を引き戻されてしまった。
ただし、この物語はあまり変わらないが、その他のオルペウスに関わる伝承は様々となっている。
その一つに、オルペウスの死後、彼は優れていた英雄が赴くとされる「幸福者の島」へと送られて、そこで妻エウリュディケと再会し、オルペウスは何恐れることなく妻を振り返りながら、野原を二人で駆け回って幸せな生活をしているとされる。

ピテュス
 パンは松の木の冠を被るのだが、その言われとなる木の妖精で、パンに愛されたがそれを逃げ、松の木に身を変えてもらったという「月桂樹ダフネ」や「葦のシュリンクス」と同じタイプのもの。
あるいは、パンと北風のボレアスとが同時に彼女を愛したが、ピテュスはパンを選び、そのため北風ボレアスは岩から彼女を吹き飛ばしたが、大地がその彼女を受け止めて松の木にしたというもの。そのため松の木は北風が吹くと呻くし、他方のパンは彼女を頭に飾っているとなる。

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