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「カドモスのテバイ建国伝説」「オイディプス伝説とアンティゴネ伝説」「テバイ戦争物語」
ギリシャの英雄伝承は、ペロポネソス半島の「アルゴス」を巡るものと、ギリシャ本土中部の「テバイ」を巡るものとに大別できる。この二つの都市が、古い時代の二大勢力であったからである。先に見た「ペルセウスの伝承」や「ヘラクレスの伝承」は、アルゴス系のものであった。もう一つのテバイ伝承は「テバイ建国、カドモスの伝説」と「オイディプス王伝説、その娘アンティゴネ伝説」、および、その死後の騒動である「テバイ戦争物語」とに代表される。
テバイ戦争とは、ペロポネソス半島にあったアルゴスが、中部ギリシャのテバイに攻めて一度は敗北するが、後にその後裔たち(エピゴノイと呼ばれる)による復讐戦においてテバイを滅ぼすというものになり、アルゴスとテバイという当時の二大勢力の衝突と、最終的なアルゴスの勝利が描かれる。
アルゴスの勝利の後の時代が「ミケーネ時代」となる。従って、ミケーネが小アジアを攻めるトロイ戦争の主人公たちの父親の世代が、テバイ攻めの時代とされている。こんな具合に英雄伝説の背後には、歴史の流れがほの見えている。
カドモスによるテバイ建国の伝説
テバイ建国は「カドモスの伝説」となるが、これに先立つ話しがあって、それは「エウロペの物語」となる。
1. 現在の中東レバノンあたりとなる、古代フェニキア地方を支配していたアゲノルという王の娘に「エウロペ」という娘がいた。
2.そのエウロペに対して神ゼウスが邪な心を抱き、妻である女神ヘラの目をくらまそうと牡牛の姿となってエウロペに近づき、エウロペがその背中に乗った時に海に飛び込み、クレタ島へと連れていって、そこでエウロペから子どもを生ませた。
3.その時以来、フェニキア方面が「アシア」と呼ばれていたのに対して、その海岸線からクレタ方面、つまり西地方を「エウロペの地、つまりヨーロッパ」と呼ぶようになった。
4.カドモスの物語はここからで、カドモスはエウロペの兄であり、エウロペの父であるアゲノルによって行方不明の妹の探索を命じられた。
5.カドモスは、アポロンの神託を仰ぎにデルポイへとやってきたが、神アポロンはカドモスに対してエウロペのことは忘れろといい、それよりここを出て一匹の牝牛に出会ったらそれを道案内として、その牛が横になったところに町を作れと命令した。
6.カドモスはデルポイを後にして歩いていくと、一頭の牝牛が歩いていくのに出会い着いていくと、その牛は後にテバイと呼ばれることになる地に来て、横になった。
7.カドモスは、その牛を女神アテネに捧げようと従者に命じ、泉に水を取りに行かせた。ところが、その泉は戦の神アレスの泉で、一匹の龍がそれを守っていた。
8.従者達がその龍に殺されたと知って、カドモスはその龍と戦い退治する。
9.女神アテネの言葉があって、その龍の歯を抜き取り畑に撒いたところ、そこから武装した戦士たちが生え出てきた。カドモスが石を投げつけた所、彼等は互いに殺し合いとなり、結局五人だけが残った。この五人が、テバイ王家の長老となる。
10.カドモスは、神アレスの龍を殺したということでアレスに対する罪があるとなり、8年間の間奉仕活動をして、その後女神アテネによって王国を与えられる。
11.さらにゼウスによって、女神アフロディテとアレスの間の娘「ハルモニア」を、妻としてもらいうけた。
12.カドモスは、年老いてテバイを去る。そしてエンケレイア人のもとにやってくるが、そこはイリュリア人に侵略されており、カドモスは神託に基づいて彼等と戦い、勝利してイリュリア(バルカン半島西部で、イタリアとはアドリア海を挟んで対面した地方、現在のクロアチア辺り)を支配することになる。
13.その後、彼は妻ハルモニアともども龍に変身し、ゼウスによって「エリュシオンの野(これは地下界にある天国のような所で、生前の行いが正しく優れた人生を送ったものだけが送られる地、とされていた所)」に送られたとなる。
テバイの王「オイディプス」の伝承
テバイの王「オイディプス」の伝説は有名となっているが、ここではソポクレスの悲劇『オイディプス王』の梗概を紹介しておく。
背景の伝承
テバイの王ライオスは、自分の子によって殺され、さらにその子は自分の母と結婚し子を為すに至るとの神託を受け、それを恐れて生れた子供の足をピンで刺して止め、山中に捨てる。時が経ち、テバイの郊外に妖怪スフィンクスが出没し、その解決のためライオスはデルフィの神託を求めにいくが、その途上で旅の男と争いになり、誤って殺されてしまう。
一方、テバイはスフィンクスのせいで困窮するが、一人の知の英雄が通り掛かり、スフィンクスの謎を解いてテバイを救う。王を失っていたテバイは、その英雄に乞うて「王家」に入ってもらい、王妃と結婚し新たな王になってもらうこととする。こうして、彼は四人の子を持つに至る。
この英雄こそが、他ならない山中に捨てられたはずのライオスの子であって、彼は救われコリントスの地にあって、子供のなかった王によって育てられていたのであった。その子はオイディプスと名付けられた。彼はある時、ひょんなことで「お前は実の父を殺し、実の母と寝床を共にし子を為す」という神託を受け、それを避けるために放浪していたのである。その途上、彼は旅の老人の一団と出会い、争いの中でこの老人を殺してしまっていた。
こうして、実はライオスとオイディプスに下された神託は実現してしまったのであった。ここまではギリシャ神話・英雄伝説の語るところである。
そして今、テバイの町は疫病の蔓延で苦しんでいると、ソポクレスはこの自分の『悲劇』の幕を開けていく。
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